ドラマのような人生を。「小沢健二の帰還」のレビュー
若い頃にはネガティブな意味で使われていた「面倒くさい」という形容詞も、僕らの年代になってくるとだんだんとポジティブな意味合いに変わっていく。
アイツは面倒な奴だ、と言えば、(しかしながら筋は通っている)だとか、(仕事はすこぶる出来る)あたりの意味合いを含んでいたりもする。
という感じで、どうしてこんなに小沢健二に引かれるのか、と言えばぶっちぎりで面倒な感じが漏れまくっているからじゃないのか、というのがハイティーンの頃から小沢健二を聞いている僕の最近の折り合いの付け方なわけで。
でもって、値段も見ずに予約したのが宇野 維正 (著)の「小沢健二の帰還」。
なんやこのタイトルは。いい意味で。ポジティブな意味において、なんやこのタイトルは。
小沢健二は指輪物語かジェダイか、その辺の古典的・歴史的、またはハリウッド的な事象なのか? まあ、界隈においてはそういう部分もあるかなという気もする。
「ある光」あたりのシングルを最後にプッツリとシーンからきれいさっぱりいなくなって、我々を虜にした「LIFE」あたりの音楽とは近くて遠い音楽を作ってはちょびちょび姿をあわらしたりあらわさなかったり。
かと思えばスチャダラパー以来のコラボでSEKAI NO OWARIと一緒に歌ってみたり、Mステ出たりフジロックに出たり。
なんなんだ!
と、そこまで熱心ではない僕レベルのファンの空白を埋めてくれる本が
これ。
このタイミングで満を持して的な感じがあるから本人のインタビューとか証言とかがあるのかと思ったら、すべて小沢健二がパブリックな場所に出した文章やらから構成されているある種助かる本になっている。
カルト的なファンでもなければこのレベルで彼の活動や文章を追えないからだ。っていうくらい、細かなレベルで時系列に活動を追っていてびっくりする。大ファンやないか、と。
小沢健二がいなくなった、と我々が感じた期間、実際になにをどうしていたのかは、実は書かれていない。
なんなら著者の推測や憶測の部分もあるだろう。
けども、著者の熱量と、言ってみればファンッっぷりを文章で追体験していく中で、ちょうどいいレベルで空白は埋まっていく、なんというか、勝手に。
彼(小沢健二)は彼で日本とは別の国で我々と同じように、静かにドラマチックに生きていたんだなぁって。
大衆のポップスターとしてじゃなく、一人の人間として。しかしその生き様は(伝記的な文章になるレベルで)やっぱりドラマチックだなぁって。
宇多田ヒカルや安室奈美恵にも、それぞれの人生があるんだよなぁって。
でまた、面白いタイミングでApple Musicの限定配信番組「Tokyo, Music & Us 2017-2018」が効いている。
なんつーか、結構ぶっちゃけている。
常に潤んでいる満島ひかりの瞳が素敵すぎる。あと、やっぱ歌が上手い。
小沢健二 & 満島ひかりを見る前に、「小沢健二の帰還」を読んでおくと、なんというか、彼曰く「東京をバックレた」理解が深まるというものだ。
そして、なんというか、あるシーンにおいてトップランカーとして、はたまた絶大な影響力者として居続ける選択肢ではなくて、「自分の当たり前の人生」を生きた(なお継続して生きている)小沢健二、やっぱカッコいいわぁとなってしまうのは、もう、なんというか、仕方がないよな。と思う。
それが例え、昔好きだった女の子が小沢健二が好きだったというきっかけで聞き始めたのだとしても。
この線路を降りた小沢健二が、幾つかの分岐や坂道を経てまた線路に乗ったのなら、やはり嬉しいなと感じているのは、事実だ。
文:シンタロヲフレッシュ
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