コラム 【スタート!公務員生活4】その仕事、なぜ? 2024/06/21 14:00
静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
▽前例踏襲にとらわれない
すべて行政事務には何らかの法的、制度的な根拠があり、その目的が何なのかを知ることは重要です。仕事に慣れてきたら、何のために今、この仕事があるのかを考えてみることをお勧めします。
法令上の根拠は明らかでも、効率的とは言えない事務があるかもしれません。いろいろ経験していく中、手続きの進め方や書類の様式などについて、過去に見直した形跡もなく、漫然と繰り返していると思われることがあったら、遠慮なく上司に質問し、改善する方向で検討を始めましょう。あなたの仕事なのですから、習得→疑問→改善といった流れの中で自ら提案し、変えていけばいいのです。役所の仕事は硬直的ではいけません。ひと通りマスターしたら、前例踏襲にとらわれない姿勢が大切です。
▽仕事の全体像を知る
担っている仕事が目指している成果、効果が何かを考えるには、時折、仕事に没頭する状態から、あえて自分を解き放ち、一歩引いて仕事を見る目を養うことも大切です。仕事を鳥瞰(ふかん)できるまでには時間がかかると思いますが、全体像が見えてくると、あなたの仕事の役所内での位置付けや社会的意義を理解できるようになります。公務の進め方は「大局的な視点と具体的な解決」です。これは自分で会得していくしかありません。職業人としてのアイデンティティーにつながるテーマとも言えるでしょう。
▽先輩から盗め
職場を眺めていると、周囲との会話や上司との協議の進め方のうまい先輩がいることに気づくと思います。なぜうまいのか、その人がどういう話し方、伝え方をしているのか、聞き耳を立ててみましょう。簡潔に要領よく、必要な論点を整理して話す―。そうした練達の技は意識して今のうちから訓練していくのが良いと思います。管理職でも話が飛んだり、不要な情報が混じったりする人はいますよね。伝え方がうまい人は、明瞭な言葉で落ち着いて話し、修飾語を最小限に抑えた短文をつないでストーリーにします。分かりやすい話とそうでない話の違いを諸先輩の語りから感じ取り、良い技は盗みましょう。それが「向上」につながると思います。
▽所属の課以外から学ぶ
仕事を離れた人間関係や、仕事以外の職場での心得・要領といった仕事の隙間を埋めるのに役立つ情報は、他の課にいる先輩や友人から得るのも勉強になります。それは飲み会など勤務時間外での場合が多いかもしれませんが、私もそうした機会を通して多くのことを学びました。上司や先輩の性格、特技や趣味などの話を聞くと、思わぬ発見があって妙に合点がいったり、見直したりすることがあります。そうしたことも時には楽しみましょう。
▽紙で読む
ペーパーレス化は時代の要請であり、うず高く積まれた書類から四苦八苦して必要な資料を探し出す時代は終わりました。庁内外でのミーティングや会議、そして議会でも、タブレット一つで多くの業務がこなせるようになりました。しかし、常時手元に置いて読み返したい資料、じっくり精読したい書類などは、紙でも見たいもの。本当にマスターしたいと思うものは、少量のものなら電子ではなく、紙で手元に置いておくと良いと思います。読み込んで消化し、自分の糧(かて)にしていきましょう。何度も目を通す必要のないものはデジタルで、繰り返し読みたいものは紙媒体で、あなたが使いやすいように使い分けてください。
▽一つに頼らない
スマホは今や日常生活に欠かせず、夜寝る時も枕元に置く人が多いでしょう。でも、電子機械はバッテリーが切れたら物言わぬただの小箱です。その時、どう動き、何をすべきか。考えたことがありますか?
若いころ、デジタル・ツールシステムを担当するITマニアの同僚から「通信機器、媒体は決して一つに絞ってはいけない。道具は何種類も使い分けるのがヒトの知恵。」と言われたことが妙に記憶に残っています。わが身一つで放り出され、手元にデバイスが何もない時、どう行動すべきかを考えられるのが本当の知恵でしょう。大災害などで役所機能が大きく損なわれたとき、即断の一筆で手書きの文書も作れない職員にはなってはいけません。私も正直、大して自信はないのですが…。
▽速読の訓練はしない
私も昔から速読にあこがれ、何度か挑戦しましたが、いまだに大成しません。だからというわけではないのですが、公文書の内容を正確に理解して記憶するには、精読あるいはスピードダウンして丁寧に読む方が良いと思います。役所の文書はかつて、言い回しが特有で表現も硬く分かりにくいと言われましたが、今はそうでもありません。そうはいっても密度の濃いものは多く、1ページに情報が凝縮されています。正確に理解し記憶しておくべきものが多いので、一つひとつ丁寧に読みましょう。私はいまだに流し読み、飛ばし読みの癖が治らず、反省することが多いです。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。24年4月からは静岡県立大学客員教授を兼任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。