カテゴリ:高速ツアーバス
新年のビジネスが本格的に動き出したというか、連休明けに出社するとアポイントやご取材のお申し込みのメールが山ほど溜まっていた。会社のスケジューラ上でアポイントがどんどん増えていくのは「仕事をしてる気分」になってなんとなく嬉しいのだが、そこに既存事業者の名前が並ぶのはもっと嬉しい。それに、街でバスに出会った際、最近、それらの中に「取引先」(東京空港交通)や、「まもなく取引先になりそうな事業者」(会社名は言えないけど)の比率が増えてきたのもちょっと嬉しい。
そんな時にはつい車内を見上げて乗車率をチェックしてしまう。もっとも、これは学生時代からの私の癖だ。バス好きの友人たちと高速バスを乗っていて対向車線の高速バスとすれ違うと、車両タイプなどそっちのけで「どれくらい乗っているか」をチェックしてしまう(バスを乗り歩く友人など限られているから、対向する高速バスの「車両チェック係」「方向幕や運行ダイヤから行き先を判別する係」などに自ずと「役割分担」が進むが、その意味では私はもう何年も「乗車率チェック係」だ←マニアックな話で恐縮です)。これまでなら、乗車率の低い高速バスとすれ違ったりすると、「もったいないなあ。なんとかあと数人でも乗ってくれないかなあ」と漠然と悔しさを感じていたのが、今だと「あの路線を扱わせてもらえたら、1便あたり何人増やせるかな」と真剣に考え込んでしまう。その路線を売るためにはこうやってああやって…と妄想はふくらむ。 よく既存事業者の皆様は、高速ツアーバスを指して「あの料金でよくやっていけるな」とおっしゃるが、私に言わせると、高速路線バスこそ「あの乗車率でよくやっていけるな」という感じだ。つまり既存事業者の皆様は、どうも「乗客数を増やす」「乗車率を上げる」という発想になりづらいようだ。「平場」の路線バスを地域独占で走らせてきた彼らにとって乗客数はアンコントローラブル(制御不能)ということらしい。しかし乗客数はコントローラブル(制御可能)である。乗客数の増加こそ、マーケティングの出番である。いや、端的に言えば、価格弾力性が大きいタイプの路線(※)においては価格を下げればさえ簡単に乗車率は上がるが、本当は「乗車率が上がればさえ、それでいい」ということではない。<※鉄道や他社の高速バスと競合が激しい路線ほど価格弾力性が大きく、鉄道が不便で高速バスが独占状態にある路線ほど価格弾力性は小さい。この価格弾力性の大小の見極めはレベニューマネジメントのために非常に重要である。また、乗客数の最大化のためにマーケティングができる役割は、決して価格施策だけでないことも合わせて強く明記しておく> しかしそれで乗車率が上がっても単価が下落し収益(運賃収入)が悪化すれば意味がない。「バス一運行あたりの収益=販売単価(全乗客が支払った運賃・料金の平均)×乗車率×座席定員」であり、そのうち「座席定員」は原則的には車両購入時(数年に一度)しかコントロールできないから、あとは「販売単価」と「乗車率」のトレードオフの関係をいかにバランスさせるか、ということが重要になる。ここで「運賃・料金」や「価格」ではなく「販売単価」という語を用いたのは、乗車している乗客が支払う運賃・料金が一人ひとり異なるからだ。高速路線バスで言えば乗車距離が短い乗客は運賃の額が小さいし、高速ツアーバスでいえばダイナミックプライシング導入の結果、予約した時期によって一人ひとり料金が異なる。今後は高速路線バスでも同様のケースが増えるだろう。その組み合わせも重要だということだ。 限られた座席定員を、どのくらいの販売単価でどのくらいの乗車率に持っていくか。乗車率が当日になっても低いからといってどんどん運賃・料金を下げれば、その瞬間に数席は売れるかも知れないが、ライバル会社が追随し不要な値下げ合戦が始まればお互い体力を消耗するだけだ。一方で年末年始のような繁忙日は単純に需要量と供給量を計算式に入れ込んで理論値を求めれば、瞬間的には「東京→大阪 4万円」というような数字が導かれたりするが、あくまで理論値でしかない。高速バスマーケットは「生き物」であり、今日出発と明日出発、今日予約受付と明日予約受付では環境が大きく異なる。なるだけ細分化した小さなマーケットそれぞれに適切な価格設定を行ないながら、個別の便ごとに単価と乗車率のベストなバランスを導き出し収益の最大化を図る。同時に、足元の収益にこだわり過ぎてはよからぬ単価下落を招くだけだから、短期と長期のバランスを調整する。そのためには、何段階かのレートストラクチャを構築した上で、最適なプライシング・ストラテジーを見つけ出す…それが「高速バスにおけるレベニューマネジメント」だ。 こう書けばなにやら難しいようだが、ロジックをもう少し詰め、それを支援するためのシステムを開発することは、ホテルや航空業界の例を見ても不可能ではないだろう(それでも、「続行便設定の可否」つまり総在庫量が変動するというバス固有のパラメータを反映させられるかどうかは自信がないが)。「私が次にやりたいこと」の中の一つが、高速バスにおけるレベニューマネジメントのシステムを完成させ、各事業者に活用してもらうことであることは間違いがない。とまあ、こんなことを書くと「金儲け主義」という印象を持つ人も多いんだろうなあ。あるいは「ツアーバスなどというものさえ無ければ、高速路線バスは黙っていても利益を上げることができたのに」とでも言われるのか(「黙っていても利益を上げる」……それを「ぼったくり」というのだが)。まあ小言はそれくらいにして、レベニューマネジメントの教科書には最初に必ず書いてあることがある。それは「レベニューマネジメントとは、それ用の情報システムを導入することではない」というものである。マーケットの需要に耳を澄ませ乗客の心理を読む力や、末端のスタッフ一人ひとりを同一の目的のために動かす力など「総合的なマネジメント(経営)力」の話なのだ。そして高速バスの場合には、より柔軟な価格設定を可能とするなど、法規制面での地殻変動もまだまだ必要だ。そういった様々な課題を乗り越え「高速バス1便ごとの収益の最大化を通して高速バス業界全体の収益を最大化する」というアプローチは、まだまだ道半ばであり、チャレンジングでもある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.01.12 19:28:46
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