2011年 03月 25日
二重盲検法 |

シェパードさんは爆発現象の専門家でもあって、1996年に起きたトランスワールド航空800便墜落事故の原因についての講演会では1200名収容できるBeckman Auditoriumが満員になったそうです。
話は変わりますが、LIGOはCaltechとMITが共同で行っている重力波観測実験について。昨年の秋のある日に、LIGOグループの一人を見かけたところ、忙しそうにしていたので、冗談のつもりで「連星からの重力波を検出したという噂を聞いたのだけれど」とかまをかけたところ、躍起になって否定されてしまいました。
その人が先日、あの時は失礼したと謝りに来ました。聞いてみると、ちょうどそのころ、ブラックホールと中性子星の連星からの重力波らしきものを検出していたのだそうです。本当ならノーベル賞級の発見なので、800名からなる研究グループに緘口令が敷かれていたのだそうです。
ワシントン州とルイジアナ州に別々に置かれているLIGO検出器とイタリアのVIRGO検出器のデータを合わせると、誤信号である可能性は数千年に1回と評価されました。そして大犬座の方向からの信号とわかり、世界各地の天体観測所にも内密にその方向の天体現象を観測するように依頼をしたのだそうです。Physical Review Lettersへ投稿する論文の最終原稿を用意し、CaltechとMITからのプレスリリース、一般向けの解説記事も書き上げて、先週のLIGOグループの総会に臨みました。
ところが総会で、この事象がデータの中に人為的に差し込まれたものであることが明らかにされました。データ解析の方法がうまく働いているかを確かめる「二重盲検法」だったわけです。おとり捜査のようなものです。800名のグループの中でも、これが人為的なデータであったことを知っていたのはほんの3名。二重盲検法が行われるかもしれないことは知られていましたが、今回のデータは特に現実味のあるものだったそうで、6ヶ月にわたって丁寧な解析がなされたそうです。
重力波の方向を知るためには、2台のLIGO検出器とVIRGO検出器のデータの位相を比較する必要があります。LIGOグループの解析の結果は大犬座の方向からの信号という結論でしたが、人為的なデータを作成した人たちは違う方向からの信号を意図していました。そこで、どうしてこのような違いが出たのか問題になりましたが、調べてみると、LIGO検出器の位相の定義とVIRGO検出器の位相の定義が違っていて、その問題は2007年に解消されていたのですが、人為的なデータを作った人たちは2006年にできたプログラムを使っていたのが原因だったとわかったそうです。
データ解析のチームの人たちはシャンペンのボトルを何箱も用意していたのだそうで、二重盲検法だとわかったときにはさぞがっかりしたろうと思います。実験解析の正確さを担保するのは大変なことだと改めて思いました。


by planckscale
| 2011-03-25 14:16