やじうまPC Watch
【懐モバ】アプリ開発が容易だったLinux搭載PDA「ザウルスSL-C1000」
2020年4月6日 06:00
スマートフォンがなかった時代の携帯情報端末と言えばPDAだった。そのなかでもかなり長い歴史を持つのが、シャープの「ザウルス」だ。初期の「PI」から中期の「MI」、後期の「SL」にいたるまで、じつに約13年間継続したシリーズとなる。
その間、ソニーの「CLIE」やNECの「モバイルギア」、カシオ計算機の「カシオペア」など、多くのPDAが出てはすぐに消えていくなか、異例とも言える長さだ。ザウルス進化の歴史は、PDA進化の歴史そのものと言っても過言ではないだろう。
今回紹介する「SL-C1000」は、2005年に発売された後期モデルである。最大の特徴は、SLシリーズ共通とも言えるLinux(Lineo uLinux)をベースとしたOSの搭載。OSのソースコードやクロスコンパイラといった開発環境をすべて同社のホームページで掲載(2020年4月の時点でもアクセスは可能)し、多くの開発者を獲得することに成功した。
ただ、ユーザーインターフェイスにQtを使っているため、GUIアプリを開発するためには、一般的なX11アプリとは別に開発環境を構築する必要があるのだが、日本語のQtopia開発チュートリアルも公開されているためとっつきやすい。また、代替OSやX/Qt Serverを使えばX11アプリも動作させられる。
PDAと言えば、その上で動作する既定のアプリケーションだけを使って、個人情報を管理する、もしくはメールを読む、ドキュメントの簡易的な編集や閲覧をするデバイスなのだが、上記の特徴を持つSLザウルスはこの常識を覆し、開発者やパワーユーザーが遊ぶのに最適なモバイルデバイスとなった。
さて、今回入手したSL-C1000は、先立って2004年11月に発売された「SL-C3000」の内蔵HDD(4GB Microdrive)の代わりにフラッシュメモリ容量を16MBから128MBに変更し、価格を引き下げた(8万円→5万円)モデルとなる。
HDDがなくなり内蔵ストレージの容量こそ大幅に少なくなったが、フラッシュメモリにより振動や衝撃に強くなっている。ただし、容量を食うカラー写真などを収録した「広辞苑」は省かれ、代わりに「乗換案内 for Zaurus」を収録している(SL-C3000後継のSL-C3100では収録)。
発売当初「SL-C1000はSL-C3000からMicrodriveを省いただけだから、ユーザーが増設できるのでは?」という淡い期待もあったのだが、いざ分解してみると、CFスロットもCFのバッファチップも省かれていることがわかり、増設は不可能であることが明らかにされている。ちなみに筆者はSL-C3000も入手したので、後日改めて紹介したい。
キーボードは親指で操作するタイプで、ハイフンの位置といった配列も変則的だが、日本語入力を考慮しているため、使い勝手は悪くない。ディスプレイは「CGシリコン液晶」で、3.7型ながら640×480ドットという、当時としては比較的高い画素密度を誇る。全体的に若干白浮きしているのがネックだが、屋外で使うさい気になることはなかった。
SLシリーズをはじめて手にする筆者なのだが、今となって改めてこういった大きさのキーボードつきデバイスにロマンを感じている。「結局この大きさは実用的じゃないから廃れていったんだろ」とかそういった理屈はともかく、この小ささでLinuxが動いてて、キーボードでまっとうに操作できて、CFもSDカードスロットも3.5mmステレオミニジャックも備えている、といった点は、薄型化のためにステレオミニジャックすら省いてしまった最近のスマホって何? ってレベルである。まさに「前に古人を見ず、後に来者を見ず」的なデバイスなのだ。