ニュース

日本マイクロソフト、超読みやすい新フォント「UDデジタル教科書体」を披露

~Fall Creators Update標準搭載のモリサワ製教育向けフォント

Windows 10のFall Creators Updateに実装される「UDデジタル教科書体」

 日本マイクロソフト株式会社は8日、ICT教育および障碍を持つ児童や学生に向けたプログラムの実施や、Fall Creators Updateでの新フォントの搭載などに関した説明会を、品川の同社オフィスで開催した。

 既報のとおり、今秋提供予定とされるWindows 10の大型アップデート“Fall Creators Update”にて、日本語版Windows 10向けに株式会社モリサワの「UDデジタル教科書体」フォントが実装される(スマホ向けタッチキーボードが使えるWindows 10プレビュー版「Build 16215」参照)。

 同フォントは、弱視や文字の読み書きが困難なディスレクシア(読字障碍)といった障碍を持った人を対象に開発されたユニバーサルデザイン書体のフォントであり、学習指導要綱に準拠した字形や字体を備えていることから、デジタル文書を利用するICT教育現場での活躍が期待されている。

 Microsoftは、読み上げ機能のナレーターや拡大鏡などを提供し、身体に不自由さを抱えるユーザーでも、Windowsを問題なく使えるようにアクセシビリティの向上につとめている。

 日本マイクロソフトでも同様に日本語環境におけるアクセシビリティを高める努力を行なっており、UDデジタルフォントを販売している株式会社タイプバンク(モリサワの子会社)の考え方に共感したことから、日本マイクロソフトがモリサワに協力を仰ぎ、UDデジタル教科書体がFall Creators Updateにて無償で搭載されるにいたった。

 Windows 10では標準フォントとして游書体の「Yu Gothic UI」が活用されているが、ゴシック文字は商業印刷用であり、そもそも元の漢字と形が異なっており、たとえば漢字における“しんにょう”などをゴシック体で見てみれば、正しい形で描かれていないことがわかる。そういった理由から教育現場で扱いづらいという声があった。一方で、教科書体のフォントは楷書であるため線の強弱がついており、読みにくいという声も聞かれる。

説明会ではゴシックフォントが正しくない文字形を使っている例として、「や」を書いてみてくださいとのお題が出た。この「や」は間違い
こちらの「や」が正解
左からMSゴシック、メイリオ、游ゴシック、そして新たに実装されるUDデジタル教科書体。UDデジタル教科書体はゴシックのように太く、教科書体のように正しい形が使われている

 UDデジタル教科書体はこれらの欠点を補ったものであり、学習指導に準拠した正しい形と、弱視やディスレクシアといった障碍を持つ人にも配慮したデザインが特徴となっている。

 また、実験心理学や特別支援教育、ヒューマンインターフェイスの分野を専攻する慶應義塾大学大学院社会学研究科の中野泰志教授など、生徒および教員延べ241人のエビデンスを取得していることから、高い信頼性を伴っており、国語と社会の実証実験においても、他社の教科書体や明朝体と比べて圧倒的に見やすいとの一定の評価が得られている。

UDデジタル教科書体の特徴
教科書体とゴシックの欠点
UDデジタル教科書体
教員および生徒のアンケートでは読みやすいとの評価が得られている

 なお、Windows 10における標準フォントはYu Gothic UIが継続して利用され、UDデジタル教科書体はあくまで教育向けのフォントの1つという立ち位置になる。

アクセシビリティ向上のための取り組みと機能

 この説明会では、UDデジタル教科書体以外にも、イースト株式会社によるMicrosoft Office Word用の読み上げアドイン「WordTalker」や、障碍を持つ学生の進学や終了を支援するために東京大学先端科学技術研究センターが取り組んでいる「DO-IT Japan」の紹介も行なわれた。

 WordTalkerは、総務省の「デジタル・ディバイド解消に向けた技術等研究開発助成制度」を得て開発されており、Word 2016/2013のアドインとして利用可能。1ライセンスあたり税別19,000円となるが、教育機関には特別価格で提供されている。

 機能としては、Word文書の内容読み上げや文字拡大、字間/行間の調整を容易に行なえるようにするもの。読み上げはWindows 10標準搭載の合成音声機能を利用しており、現在読んでいる箇所をハイライト表示したり、速度を変えたりなど、ディスレクシアの障碍者の読み書きをサポートする。Wordのリボンインターフェイスで簡単に操作でき、児童などでも扱えるようになっている。

WordTalkerの機能
字が読みづらい障碍者でも音声読み上げで内容を知ることができ、ハイライトでどの位置が読まれているかわかるようになっている
ハイライトの色は自由に変更できる
WordTalkerの特徴

 WordTalkerは、アドオン機能がないWord Mobileでは利用できないが、AndroidやiOSでも利用したいという声があることから、クラウド経由で提供できないか開発を進めているとのことだった。

 DO-IT Japanは、小学3年生ぐらいから大学生まで障碍を持つ学生を支援するプログラムとなっており、東京大学先端科学技術研究センターが日本マイクロソフトで協力し、テクノロジを活用して障碍者のセルフアドボカシー(自身が公平に教育などを受けるといった権利擁護)や障碍への理解、自律と自己決定をテーマとし、活動を行なっている。

 将来の社会のリーダーとなる人材を養成するための「スカラープログラム」などがあり、毎年だいたい十数名が選抜される。ディスレクシアや、うまく口を動かせなかったり、少ししか指が動かせないといった障碍を持ちながらも、通常の高校や大学に進学できるように支援しており、同プログラムによって東京大学や京都大学に進学した生徒もいるという。

 また、東京大学先端科学技術研究センターは、DO-IT Japanのスピンオフとして生まれた障碍者向けのオンライン図書館「AccessReading」も運営しており、書物を物理的に読むのが難しい障碍者であっても、ICTを活用することで教科書を読めるように支援を行なっている。

 AccessReadingは、EPUBといった電子書籍フォーマットで年間450冊ほど電子化して提供されており、Windows 10の標準WebブラウザのEdgeで読むことができる。EdgeはCreators UpdateでEPUBへの対応をはたした。

DO-IT Japanのミッション
テーマ
スカラープログラムなどを用意
スカラー利用者の障碍内訳
スカラーによる進学状況
オンライン図書館のAccessReadingも提供
品川オフィスのセミナールームではディスレクシアなどの障碍を持つ20数名の学生たちが、UDデジタル教科書体やWordTalkerを使って、Wordで出される課題に取り組む演習も行なわれていた
この日行なわれていた演習の内容
演習を受けていた生徒がUDデジタル教科書体についての感想を聞かれたが、とても読みやすいとの感想が得られていた

 日本マイクロソフトは、ICT教育の発展や、より使いやすい日本語環境の実装に向け、Windows 10の価値向上につとめていくかまえだ。