笠原一輝のユビキタス情報局

最新技術をいち早く搭載するWindows 10

~国内PCへの搭載は秋冬モデルになる見通し

Microsoft本社で行なわれた記者会見に登場したMicrosoft CEO サティア・ナデラ氏

 Microsoftは1月21日(現地時間)に、米国ワシントン州レッドモンドの同社本社において記者会見を開催し、同社の最新OSとなるWindows 10のコンシューマ向け機能などに関する多数の発表を行なった。

 Windows 10では多数の新機能が搭載されるが、従来のWindowsと大きく異なるのはアップグレードポリシーで、従来であればメジャーバージョンアップに相当するような新機能であっても、Windows Updateのような仕組みを通じてどんどんと追加されていくという。これにより、AndroidやiOSといったOSが最新のWeb技術をいち早く実装しているのと同じ速度で、Windowsが更新されていくことになる。

 また、OEMメーカー筋の情報によれば、現時点でMicrosoftがRTMを予定しているのは8月頃とされており、欧米では9~10月辺りをリリースのターゲットとしていると言う。現在PC業界は、その時期に向けて各メーカーなどが対応する製品を開発中で、Intelが開発中の次世代プロセッサとなるSkylake(スカイレイク、開発コードネーム)もこの時期の投入が計画されているという。日本では秋モデルの発売時期にWindows 10を搭載したPCが市場に登場することになる。

2つの顔を持つWindows 10

 今回Microsoftはその発表の中で、Winodws 10に関する詳細を明らかにした。具体的に言うと以下のようになる。

(1)8型以上のWindows 10と8型未満のWindows 10 for phones and tabletsが存在すること
(2)音声認識機能“Cortana”がデスクトップ版にも搭載されていること
(3)開発コードネーム“Project Spartan”がIEの代わりにWebブラウザとして搭載されていること
(4)Office universal appsというストアアプリが用意されていること
(5)写真や音楽、地図などのビルトインストアアプリが新しくになっていること
(6)Xbox Liveに対応した新アプリが搭載されていること
(7)Windows 10クライアントはXbox Oneのゲームをストリーミングプレイできること
(8)2-in-1デバイスでは、Modern UIとデスクトップが自動で切り替えられること
(9)ARの機能を実現するAPIが実装されていること

 この中でユーザーにとって注目したいのは、PC用のWindows 10と、スマートフォン・タブレット用のWindows 10 for phones and tabletsという2つのバージョンが存在することだ。これは筆者が以前の記事で説明したデスクトップ版(前者)とモバイル版(後者)の正式な位置付けということになる。なお、実際の製品でもこうした呼び方になるのかは明確ではなく、現時点での便宜的な呼び方という可能性もある。

Windows 10 for phones and tabletsに関して説明するMicrosoft OS担当副社長 ジョー・ベルフィオーレ氏

 Windows 10 for phones and tabletsはその名の通り、スマートフォンとタブレット用になる。Microsoft OS担当副社長 ジョー・ベルフィオーレ氏は「8型未満に対応するタッチに最適化したバージョン」と表現し、8型以上がPC用のWindows 10に、8型未満がWindows 10 for phones and tabletsのカバーする領域となると説明している。

 なお、以前の記事でもお伝えしたとおり、Windows 10ではデスクトップ版がx86、モバイル版つまりWindows 10 for phones and tabletsはARMとx86の両方をサポートすると、MicrosoftからOEMメーカーに説明されてきた。しかし、Windows 10の正式リリース時点では、PC版がx86、タブレット/スマートフォン版がARMのみのサポートになる可能性が高いという。というのも、Intelのスマートフォン向けSoCとなるSoFIAが、当初Androidのみのサポートになっており、Windowsのサポートが若干遅れているからだという。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelがSoFIAでWindowsをサポートできるようになるのは第3四半期以降と、OSのリリース時期に近くなっており、動作検証などの期間を考えると、それが実現できるかどうか微妙だからだということだ。

 このため、現在はIntelのBay Trail Entryを搭載している、東芝とHPが米国で99ドルで販売している7型Windowsタブレットは、Windows 10世代ではSoCをARMに変更し、OSはWindows 10 for phones and tabletsへと変更する必要が出てくることになる。

ストアアプリ版Officeがデモされる、デスクトップ版の次世代Officeも開発中

 ビジネスユーザーにとっての重要情報は、Windows 10世代ではストア版のOfficeが登場するという点だ。現在のWindows向けのOfficeはデスクトップPC版で、ARM用として提供されているWindows RTにビルトインされているOffice 2013に関してもデスクトップPC版になっており、Windows RT向けにも、Windows Phone向けにもタッチに最適化されたOfficeは提供されていなかった。これに対して、Microsoftは、iOS用は正式版を、Androidタブレット用に関してはベータ版を既に提供開始しており、iOSやAndroidではいち早くタッチに最適化されたOfficeが利用できる環境が整っていた。

 Microsoftのベルフィオーレ氏は“Office universal apps”という名称で、ストアアプリ版のOfficeをデモした。公開されたデモの様子からは、機能的には既に発表されているiOS版やAndroid版にかなり近い画面になっていた。Windows 10 for phones and tabletsを搭載したスマートフォンやタブレット、あるいはPC版Windows 10を搭載したWindowsタブレットや2-in-1デバイスなどのタッチ対応PCで利用することができるようになる。

 今回はデモだけでどのようなライセンス形態でOffice universal appsが利用できるようになるのかは説明されなかった。機能的にはiOS版やAndroid版に近いと考えられるので、それらの利用条件である商用利用にはOffice 365のライセンスを保有していることと同じになる可能性が高いのではないだろうか。
 なお、記者会見終了後に公開されたMicrosoft OS担当上級副社長 テリー・マイヤーソン氏のBlogでは、デスクトップ版の次世代Officeも現在開発が続けられており、今後数カ月の間に詳細が明らかにされる予定だ。

Office universal appsのWordの画面
Office universal appsののPowerPointの画面

Windows 10世代ではアップグレードポリシーが変わる

 そして今回のWindows 10では、アップグレードの提供方式が大きく変わることもニュースだ。従来のWindowsでは、大きな機能向上などがある時にはメジャーバージョンアップとして提供され、既存のバージョンのユーザーが新しいバージョンへとバージョンアップするときには、バージョンアップパッケージなどの料金を払う必要があった。

 しかし、今回のWindows 10へのアップグレードは、PC版であればWindows 7とWindows 8.1、モバイル版であればWindows Phone 8.1が導入されているデバイスは、Windows 10の正式リリース後1年に限り無償でアップグレードすることができるようになる。提供時期が1年に限られているのは、OEMメーカーのサポートなどに配慮したためだろう。おそらくMicrosoftとしては、永年無料としたかったのだと思うが、現実のビジネスではOSのアップグレードにかかるサポートコストを負担するのはOEMメーカーになる。OEMメーカーというのは大手だけでなく、中小のPCメーカーがそれをこれから半永久的にコストとして背負っていくというのは、かなり負担が大きくなり不可能と言ってもいい。それに対して1年と期限を切れば、少なくともコストはある程度の見通しでやることができる。そう考えれば、Windows 10正式リリース後1年としたのは合理的だろう。

 そして最も重要なことは、一度Windows 10にアップグレードした後、ないしはWindows 10が搭載されたPC、タブレット、スマートフォンを搭載するデバイスを購入すれば、デバイスの寿命が尽きるか次のメジャーバージョンアップまでOSを最新の状態に維持できる点だ。それだけ聞くと、今のWindows Updateと同じだろうと思うかもしれないが、実際には大きな違いがある。

 実はMicrosoftはWindows 10世代でOSのアップグレードポリシーを大きく変えている。従来までのWindowsは、OSに新機能を搭載する時には、OSのバージョンを上げるというメジャーバージョンアップをしていたが、これからはメジャーバージョンアップ前であっても新機能を追加していく方針だと説明している。このように、ユーザーにバージョンアップ料金が発生するようなメジャーバージョンアップがなくても機能を追加するやり方というのは、GoogleのAndroidやAppleのiOSなどで一般的にとられている方式で、日進月歩のインターネット上のWebサービスと組み合わせて利用するOSには必要な要素だ。

 しかも、Windows 7からWindows 8.xへ、Windows 8.1からWindows 10へといった形でのメジャーバージョンアップというのはこのWindows 10が最後になってもおかしくない。というのも、Microsoftに近い関係者によれば、Windows 10の次のメジャーバージョンアップというのは今のところ計画は明確ではなく、いつ出るのかは分からないのだという。もしかすると、このWindows 10が最後のメジャーバージョンアップだったなんてことも十分あり得る状況なのだ。いずれにせよ、一般消費者ユーザーは新機能を追加コストなく、これまでよりも短いサイクルで手に入れることができるという意味ではこの新しいアップグレードポリシーは歓迎していいだろう。

 ただ、この方針は大企業の顧客のように、あるバージョンのWindowsで厳密な動作検証を行ない、それを社内のPCにイメージとして展開していくという顧客にとっては困るとも言える(実際、Androidタブレットが企業ユーザーに受け入れにくいのはこの点も理由の1つになっている)。実際、大企業ではそうして作成したイメージを元に全PCに展開したりするし、Windows Updateも社内に中継サーバーを設けて、セキュリティ上必須のアップデートやシステム管理者が承認したアップデートのみを適用するようにして運用している。そうした大企業の管理者にとって、OSのバージョンは上がらないのに、評価していない機能が自動で増えていくというのは、検証が追いつかないという意味で悪夢としか言いようがないだろう。

 Microsoftもこの点は明確に認識しており、同社が公開したBlogによれば、大企業ユーザーはそうしたWindows 10の新機能追加の機能を無効にすることを選べるようにする説明している。もちろん、大企業ユーザーでも機能を有効にしたい場合もあるだろうし、有効の端末と無効の端末を混在させたい場合もあるだろう。そうしたニーズにも応えられるようにしたいと説明している。

日本では秋冬モデルからWindows 10を搭載したPCが登場することになる見通し

 今回MicrosoftはWindows 10のリリース時期に関しては「Later this year」(テリー・マイヤーソン氏、日本語にするとすれば今年中)とだけ説明し、具体的にそれがいつなのかを説明しなかった。具体的に今年(2015年)のいつであるかを説明しなかったということは、それがある程度揺れ動く可能性を懸念しているということだ。

 しかし、実際に製品を計画するとOEMメーカーはそれでは具体的な製品計画が立てられないので、既にMicrosoftからある程度の見通しが伝えられているという。OEMメーカーの関係者によれば、現時点でのRTM(Release To Manufacturing、量産出荷バージョンのこと)が完成するターゲットが8月に設定され、欧米のバックツースクールと呼ばれる、夏休み明けに学生が学校に戻る時期(9月~10月)が正式なリリース時期の候補とされているのだという。このバックツースクールは、欧米の商戦期の1つともされており、例年新型のPCが発表される時期でもある。9月の上旬にドイツで行なわれるIFAで新製品が発表され、その後10月頃に出荷というのが通例だ。

 そうしたスケジュールで動いているのはOEMメーカーだけでなく、CPUメーカーも一緒だ。Intelは、現行製品の第5世代Coreプロセッサの後継となるSkylake(スカイレイク、開発コードネーム)の出荷のターゲットを同じ時期に予定しているという。競合となるAMDも、Carrizoの発表ターゲットを今年の半ばに置いている。となると実際に出回る時期はやはり9月~10月となる可能性が高く、そちらもWindows 10の発表に間に合わせたいという意向があるのは見て取れるだろう。

 日本のPC商戦だと、ちょうどいわゆる秋冬モデルがこの時期に販売が開始される時期となる。従って、特にWindows 10に突発的な何かが起こらない限りは、秋冬モデルがWindows 10搭載モデルとなって販売されることになるだろう。となると、その前に発表、販売される夏モデルや、現在発表が相次いでいる春モデルへの影響が懸念されるところだが、今回はWindows 7/8.1から無償でWinodws 10にアップグレードできるので、影響がないとは言えないが、以前よりは小さいだろうというのが大方の見方だ。以前のOSのメジャーバージョンアップの時も、直前に販売されるモデルにはアップグレードクーポンが添付され、その影響を最小限に食い止める施策が打たれていたが、今回はその必要性もないのだから、影響が小さいと見えるのは妥当な見方だろう。

 なお、OEMメーカー筋の情報によれば、MicrosoftはWindows 10 for phones and tabletsに関しても同時期に正式リリースする予定だと伝えてきているという。日本のユーザーとして期待したいのは、Windows 10 for phones and tabletsの日本市場への投入だが、MNOの3キャリアに関しては、AppleのiPhoneが大多数を占め、その隙間をAndroidが埋めるという形での市場になっており、いきなりそこに入っていくというのは難しそう。しかし、今年の後半にSIMロック解除が義務化される見通しで、MVNOの通信キャリアを中心としたSIMロックフリー機の市場がこれまでよりも大きくなっていくことが予想されている。そうした市場に対して、あるいはビジネス向けの市場にWindows 10 for phones and tabletsが搭載された製品が登場することは期待することができるので、そちらの動向にも引き続き注意を払いたいところだ。

(笠原 一輝)