山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

性能の大幅向上やApple Pencil対応も果たした、Apple「iPad mini(第5世代)」

iPad mini(第5世代)。発表前は「iPad mini 5」と呼ばれていたが、Appleによる公式な呼び名は「第5世代」のようだ

 Appleの「iPad mini(第5世代)」は、7.9型のiOSタブレットだ。

 従来のiPad miniシリーズとほぼ同一の外観ながら、現行のiPhone XSおよびiPhone XS Maxと同じA12 Bionicチップを搭載し、さらにApple Pencilに対応したことが大きな売りだ。

 後継モデルがしばらくなかったiPad miniシリーズに、4年ぶりに新製品が登場するという噂はしばらく前から出ていたが、実際に登場した新モデルは、CPUの強化にとどまらず、Apple Pencil対応というサプライズが用意されていた。クリエイターの間でも、手軽なドローイングツールとして、かなりの注目を集めているようだ。

 一方、画面サイズや解像度については変化はなく、またApple Pencilへの対応は、電子書籍ユースには直接関係しないこともあり、電子書籍ユーザーにとっては、CPUまわりの強化が使い勝手にどのような影響を及ぼすのか、気になるところだ。

 今回は、筆者が購入したWi-Fi + Cellularモデルを用い、従来のiPad mini 4との違いを中心に、電子書籍ユースでの使い勝手を紹介する。

縦向きに表示した状態。初代のiPadから続く、ホームボタンを搭載したデザインを踏襲している
横向きに表示した状態。見た目はiPad mini 4などの従来モデルと同一だ

A12 Bionicチップを搭載、2コアから一気に6コアへと進化

まずはスペックについてチェックしていこう。

モデルiPad mini(第5世代)iPad mini 4
発売年月2019年4月2015年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ)203.2×134.8×6.1mm
重量300.5g(Wi-Fi + Cellularモデルは308.2g)298.8g(Wi-Fi + Cellularモデルは304g)
CPU64bitアーキテクチャ搭載A12 Bionicチップ Neural Engine 組み込み型M12コプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載第2世代A8チップ M8モーションコプロセッサ
RAM3GB2GB
ストレージ64/256GB16/32/64/128GB
画面サイズ7.9型
解像度2,048×1,536ドット(326ppi)
Wi-Fi802.11ac MIMO対応HT80
Apple Pencil対応○(第1世代)-
駆動時間最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生)

 従来のiPad mini 4と大きく変わったポイントは、おもに2つ。1つはCPUの強化だ。

 従来のiPad mini 4は、4年前(2015年)発売のモデルということもあり、今となっては古い「A8」チップを採用していた。世代でいうと、iPhone 6やiPhone 6 Plusと同じである。

 今回のモデルが採用するのは「A12 Bionic」チップで、これは昨年(2018年)発売されたiPhone XSやXS Maxと同じCPUだ。iPad Proの「A12X Bionic」チップと比べると、ワンランク下だが、従来の2コアから一足飛びに6コアへと進化していることからも、性能の高さが伺い知れる。また公式には明かされていないが、メモリも2GBから3GBへと増量されている。

 もっとも、電子書籍でページをめくるなどの“軽い”操作では、こうした性能の高さを実感することはないだろう。差が出るとすれば、コンテンツをダウンロードしたり、大量のサムネイルを読み込むといった、一定の負荷がかかる場合に限られると考えられる。のちほど、動画も使いながら詳しく紹介する。

 もう1つ、Apple Pencilが使えるようになったのは大きな変化だ。すでにiPad ProなどApple Pencil対応のiPadを所有している人から見ても、可搬性の高さは魅力であり、そうした目的で購入するユーザーはかなりの数だろう。その結果として、本製品を電子書籍ユースで利用するユーザーもまた増えるはずだ。

左が本製品、右がiPad mini 4。正面からだと見た目の違いはまったくない
背面。カメラの位置が微妙に隅に寄っているほか、ゴールドモデルについては色味がやや異なる。なお今回比較しているモデルはWi-Fi+Cellularモデルのため、上部にアンテナのラインがある
左が本製品、右が同時発表のiPad Air(第3世代)。7.9型と10.5型ということでサイズはかなり異なる
左が本製品、右が11インチiPad Pro。こちらはベゼル幅が狭いため、iPad Air(第3世代)ほどの本体サイズの差はない
厚みの比較。いずれも左側が本製品、右側が上からiPad mini 4、iPad Air(第3世代)、11インチiPad Pro。11インチiPad Proのみ5.9mmと薄いほかは、すべて6.1mmだ

外観はほぼ同一も性能の違いは一目瞭然

 正面から見た外観が、従来のiPad mini 4と変わらないのは先に述べたとおりだが、側面の音量ボタンやカメラの位置がわずかに移動しており、ケース類の流用は困難とみられる。

 ただしキーそのものがなくなったり、反対側の面に移動したといった大掛かりな変化はない。イヤフォンジャックも変わらず搭載されているし、カメラに出っ張りがないことも従来モデルと同様だ。ちなみに重量はわずかに増えているが、ほとんど誤差レベルで、持ち比べても違いはまずわからない。

上面にカメラ、側面に音量ボタン、背面にカメラという配置はiPad mini 4と同一。カメラは今となっては珍しい突起のないタイプ
音量ボタンの位置をiPad mini 4(上)と比べると、本製品(下)のほうがやや先端に寄っている。差は実測で約3mmといったところ
イヤフォンジャックも変わらず搭載されている
コネクタはLightning。スピーカーまわりのデザインもiPad mini 4と同一だ

 実際に使い比べてみると、性能の違いは一目瞭然だ。具体例を挙げると、ネットワーク上のNASに置いた動画をストリーミング再生しながら、早送りや頭出しを行なうといった操作がそれに当たる。また、iPad mini 4では途切れ途切れにしか再生できなかったフルHD動画がスムーズに再生できるのは、個人的に嬉しい。

 また、NASに保存している高解像度写真をスライドショーのように表示する用途では、スワイプするたびに1~2秒は固まっていたiPad mini 4と異なり、本製品は待たされることがほとんどない。ネットワークまわりの条件は同じなので、これらは純粋にCPUおよびメモリの違いによるものだろう。

 といった具合に、負荷のかかる用途での違いはすぐに分かるレベルなのだが、いかんせん外観が従来のiPad mini 4と同じということで、本体を買い替えたのではなく、同じマシンでCPUの交換やメモリの増設を行なったかのような錯覚を覚えるのが面白い。

 性能の違いについては、以下のベンチマークデータも参考にしてほしい。

Sling Shot Extremeでのベンチマーク値の比較。iPad mini 4(右)に比べるとどのスコアも3~5倍程度の値を叩き出している

電子書籍ユースで恩恵を受ける操作とは?

 では本題、電子書籍ユースにおける、iPad mini 4との違いについて見ていこう。表示サンプルはうめ著「大東京トイボックス」シリーズを使用している。

 本製品はiPad mini 4と同じ画面サイズ(7.9型)、解像度(2,048×1,536ドット)ということで、表示サイズや画質など、品質の部分では違いはない。326ppiという画素密度は、ほかのiPadに比べると高精細だが、これはiPad mini 4どころか、iPad mini 2の頃から変わっておらず、本製品ならではの特徴というわけではない。

 ディスプレイについては、「耐指紋性撥油コーティング」、「フルラミネーションディスプレイ」、「反射防止コーティング」といった特徴は従来のままで、新たに広色域、およびTrue Toneディスプレイに対応しているが、いかんせん電子書籍は白黒表示が多いこともあり、あまり違いを感じない。

 写真集など、フルカラーコンテンツをじっくり見比べるような使い方であれば、環境によって色を変えるTrue Toneの存在にたまに気付いたりもするが、テキスト本やコミックなどが中心であれば、それほど違いを感じることはないというのが、ざっと使ってみた感想だ。

単行本を単ページ表示したところ。おおむね単行本と同等サイズだ
単行本を見開き表示したところ。単ページ表示に比べて小さくなるが、アスペクト比が4:3ということもあり、縦長スマホで表示した場合のページサイズよりも断然大きい
単ページ表示の状態を、iPad Air(第3世代)(左)と比較したところ。ページあたりのサイズはほぼ同等となる
単ページ表示の状態を、12.9インチiPad Pro(第3世代)(左)と比較したところ。こちらは本製品のほうが二回りは小さい
単行本とのサイズ比較。画面サイズと比べるとひとまわり違うが、端末自体のサイズは単行本とほぼ同じであることが分かる

 一方、CPUまわりの性能向上による性能の違いはどうかというと、実験をしてみた限りでは、いくつかの操作において大きな違いが出る。

 1つは、大量のサムネイルを読み込む場合だ。例えば「Apple Books」では、コミックの全ページのサムネイルを表示するモードが用意されているが、パラパラとした表示だったiPad mini 4と違い、本製品は明らかに読み込み速度が速い。2倍まではいかないが、体感的に1.5倍くらいの速さはある。

「Apple Books」でコミック全ページのサムネイルを表示する様子。左が本製品、右がiPad mini 4。本製品のほうが明らかに速く、ストレスもない

 また、コンテンツのダウンロード速度でも違いが出る。とくに、コミックのような数10MB~100MBのファイルをダウンロードする場合、かなりの差が出る。

 10個近くまとめてダウンロードするとなると、完了までに要する時間は分単位で変わってくる。こうした待ち時間は、操作のストレスになりうるだけに、好印象だ。

Kindleのライブラリで、6つのコンテンツをダウンロードする時間を比較したもの。左が本製品、右がiPad mini 4。完了までに要した時間は本製品が56秒、iPad mini 4が1分22秒ということで、本製品は約1.5倍高速だ

 このほか、電子書籍ストアのランキングページなどで多数の書影を読み込む場合、iPad mini 4だと読み込みが追いつかず、スクロールがひっかかったようになる現象がたびたび見られるが、本製品ではその頻度が少ない。

 また、リンクをクリックしてから表示されるまでのタイムラグは、本製品のほうが例外なく速い。

 その一方、通常の読書、つまり何秒か間隔を空けながらページをめくる操作だけならば、iPad mini 4との違いは感じない。これはコミックはもちろん、テキストにおいても同様だ。電子書籍の閲覧そのものが、もともとそれほど重いタスクではないので、これは当然といえば当然だろう。

性能の改善でストレスフリーな端末へと進化

 これまで、iPad miniで電子書籍を読むにあたり、仮に不満を持つユーザーがいたとすれば、それは全体的な性能の低さに対するものだろう。画面まわりのスペックはiPad mini 2以降は共通で、このクラスとしては最高レベルなだけに、そちらの部分における問題はおそらくなかったはずだ。

 そうした意味では、今回の進化は理にかなっている。ここまで見てきたように、電子書籍ユースに直接影響するのは、サムネイルの表示速度の向上やダウンロードの高速化といった付帯操作がほとんどだが、そうした部分で使うたびにストレスが溜まるようだと、ページめくりなどの操作に影響がなくとも利用頻度が下がり、いずれ端末そのものを使わなくなってしまいかねない。

 性能の向上によってこうしたストレスがなくなれば、電子書籍端末として利用する時間は増え、端末としての利用機会も増える。

 そうなると、余白がほぼない4:3というアスペクト比や、見開き表示にも対応しながら片手で持てる絶妙なサイズや軽さといった、iPad miniシリーズならではの電子書籍との親和性の高さが活きてくる。

寝転がった状態で、iPad miniで読書する場合の筆者の持ち方がこれ。見開き表示をしつつ片手持ちでページがめくれる端末は数少ないだけに貴重だ

 敢えてツッコミどころがあるとすれば、多くの電子書籍ストアではアプリ内でコンテンツが買えず、ブラウザを開いて買わなくてはいけないというAppleゆえの制限だが、iOS以外のプラットフォームにこだわらなければApple Booksを使えばよいし、購入はPCに任せ、本製品は読むことに徹するという役割分担も可能だ。

 これでいて、価格が大幅に上がっていれば話は別なのだが、同じ「Wi-Fiモデルの64GB」で比較した場合、iPad mini 4が登場時点で53,800円だったのに対し、本製品は45,800円と、お買い得感は高い(いずれも税別)。

 新規ユーザーはもちろん買い替えのユーザーにも自信を持ってお勧めできる、電子書籍ユースに極めて向いた製品といえるだろう。

Apple Pencilが使用できるのは大きなメリット。Apple Pencil対応に魅力を感じて本製品を購入し、電子書籍ユースにも使うようになるユーザーは多そうだ