AliExpressの迷い方

「よろしい、ならば紛争だ」。AliExpressで羊頭狗肉商売にひっかかる

AliExpress。見ていると心が荒むが、たまにお値打ちなものがある

 我が輩はぷーたん。いまだに無職である。地雷案件を踏まないように慎重に次を狙っている。

 転職ヘッドハンターから話しは来るものの、最近あったのは「伝説の勇者求む」的なキラキラ系スタートアップ。テレビに紹介されたとかで、なんか浮世離れしていた。

 もう1つはCTO募集、聞いたことある名前の会社だとおもったら2代前のCTOは元同僚。彼から内情きいたら働かないおっさんたちの内紛でCTOが逃げる、単なる地獄。

 国内の転職案件は、アマゾンの首狩り族の他は完全に株券印刷業を目指してるような匂いのするところばかりだ。外資系は選考中だったのにいきなりポジションクローズしたりして、やはり順調ではない。

 コンサル業者も事業会社の案件が激減したためリストラを進めていて、IT人材も供給過剰になりつつある。

 もうすぐプロニートになれそうだ。

 そんな7月のある日。デスクの劉氏から「なんか新しい企画ださなきゃならんのだが、なんか面白い連載ネタないか?」と聞かれた。PC Watchのライターや編集メンバーが面白おかしく続けられるネタって、結構むずかしいものがある。だいたい、アキバでPCジャンク屋店員からキャリアを開始した筆者には、もうPC関連の物欲らしい物欲はない。

 そして、かならずオチで笑いが取れないといけない。良いニュースばかり掲載していても、やはり人生には息抜きのスパイスが必要だ。そこで提案したのが「AliExpressの迷い方」だ。経験上トラブルも多いので「そこそこ」刺激的な記事になるはずだ。

 AliExpressは、中国に行かなければ買えない系の生活用品が買えるので、筆者はたまに使う。ただし品質的に気持ちの良くない思いも結構な頻度で経験するので、買い物廃人予備軍向けガイド記事としては良いと思った。

 まさか、記事化の初回から激辛の大トラブルに巻き込まれるとは、このときは思いもしなかった。

 先に書いておくが、筆者は自腹で数百万円払って中国留学したほどの中国贔屓だ。友人の数割は中国人で、どいつもこいつも控えめに言って最高に良い奴らだ。

 この記事を見て中国人にネガティブな印象を持たないでほしい。友人たちは中国人といっても、残念ながら筆者と同じ手口にひっかかる側だと思う。

 「ぴーたんさん、だまされました。どうしたらいいですか?」と内線電話でぼやく中国工場のマネージャー氏の声が今も脳内でリフレインしている。

AliExpressとは

 AliExpressについて紹介しよう。知らなくても人生においてはあまり影響のない無駄な知識だ。

 一言で言えば、中国のローカル店舗が海外発送できる電子モールだ。北京にある秀水街や紅橋市場や深センのボーダーにある羅湖商城(偽物をふくむ外人向け土産物マーケット)がネットでアクセスできると考えて良い。

 PCパーツ専門というよりは、台所やトイレの生活用品などホームセンターなどで買えるあらゆるものが陳列されている。Amazonで出てくる中華商品も、だいたいここでサンプルを仕入れて、良ければロットで仕入れて売るような形らしいと通販ビジネスの参考書に書いてあった。

 侮るなかれ、ものによってはの話だが、日本で高価なのにAliExpressでは激安という宝物も実際にはある。もしもリスクをとって失敗しても許せる金額であれば良いではないか。

 たとえば寝具などの繊維系は中国の生産がほとんどなので、店で買うと高いホテル向けの寝具など、品質そこそこのものが安価に手に入る。

 筆者は北京にある中国四川省政府のアンテナショップで買った真綿布団を愛用してきた。薄くて軽くて暖かくて蒸れず最高だ。10年も使うとさすがに限界だったが、久しぶりに旅行で訪れた北京の四川アンテナショップが真綿布団の取り扱いをやめてしまったため、どうしようかと思った。

 そこで思い出したのがAliExpressだった。中国に行かなければ買えない系の品物を発送してもらえる。早速真綿布団をポチった。

 届いた真綿布団自体は悪くなかった。しかし梱包の袋の中から、女性の付け爪がポロッと出てきて、非常に気分が悪かった。日本クオリティに慣れた万人にはおすすめできない。

 まあ、このくらいのトラブルであれば中国に住んでいれば日常茶飯事なので、気軽に楽しめる中国旅行トラブルという程度の刺激でちょうどいい。

いきなり釣りタイトルでカモにされる

 まず手頃なものを1つ買ってみようと探しはじめた。筆者は現在無職で主夫のため、新規で必要としているものはない。職業は主夫なので、ほしいのはキッチングッズとかなのだが、あえて中国から取り寄せるようなものはなさそうだ。

 1個思いついたのは、前回レビューした、「LEDバーライト」。軽い気持ちで買ったのだが、同居のアネサマからの評判もよく、もう1個買って各自備え付けにしてしまうのが良さそうだ。それであれば、日本の通販で買えないものを買ってみたい。

 小米の製品は最近非常に品質がよくなって来たというではないか。日本の小米ではスマホや炊飯器は情報が出ているが、たくさんある製品の一部でしかない。またそのほかの製品を直輸入するにしろ、Bluetoothや無線LANがついたものだと技適の問題があるので、部屋を電波暗室にするわけにもいかない。ハイテク製品を買うのは難しい。

 「Xiaomi LED screen Bar」で検索し、でてきたのがこれだ。

Xiaomi感あふれる表示。まさかこいつが釣りだったとは

 検索で“Xiaomi LED bar light”で見つかったのがコレだ。お値段も不自然に安すぎず、安全パイだと思った。早速ポチる。

一目見たら別ブランドとは到底思えない完璧な偽装だ。圧倒的羊頭狗肉

まてど待てども届かないぞ

 数日後に出荷された。これは予想よりも遅い。中国の爆速っぷりからすると、ここでちょっとおかしいと思った。いまはECで熾烈なサービス競争をしているため、ありえないレスポンスタイムで荷物が発送普通なのだ。

 筆者のまわりでは「雲南から松茸買ったら翌日上海までとどいたぜ」、とか生鮮食料品をガンガン通販しているくらいである。

 品物が国外に出るという情報を最後に、アップデートは途絶えた。広東省からの出荷であれば、香港の航空物流が混乱してるそうなのである程度時間がかかるのは覚悟していたが、1カ月以上なしのつぶてだ。デスク劉氏からは「あとから俺が注文したヒートシンクはもうすぐ届きそうだぜ」と煽りを食らっている。

どこの空港で刺さってるのだろうか?

 この段階で、ネタ発生ということでこの初回記事のオチは確保できたかに見えた。しかしこれは単なる序の口であった。

とどいた。あれ、なんか予想外に見覚えあるロゴだぞ……

 アネサマが在宅ワーク中という、なんとも微妙なタイミングで郵便局員さんが配達してくれた。もちろんアネサマは、無職のくせに無駄遣いして、と冷たい視線と言葉を浴びせてくる。これはアネサマ用だと言い聞かせて開梱だ。

 あれ、なんか予想外のものが出てきたぞ。美的? 中国のオフィスでずいぶん買った覚えが。いや俺が注文したのは小米じゃないの?

コレジャナイんだ、これじゃ。。。

 やられたーーーー。

 これをFacebookでつぶやいたら、深センでいまでも働く先輩が「これね、小米といいながら、味噌もクソもまとめて売ってるショップ」。

深センで今も働く先輩はさすがの百戦錬磨だった

 どうやら悪名高いところに引っかかってしまったらしい。

 金額は大したことないが、あまりのショックで、3日間くらいやる気が全く出なかった。こういう目にあわされたのは、中国留学して1カ月くらいのときに北京の五道口服飾市場で縫い付けが逆だった完全な粗悪品を掴まされたとき以来だ。

 中国は近年デジタル化が進んで、個人も店舗もデジタル信用情報でインチキができなくなっていると感じていたが、なんのことはない、羊頭狗肉を生業とする奴らは健在だった。ちなみに中国語で羊頭狗肉は「羊頭を掲げて狗肉を売る」と、動詞がくっつくだけで普通に通じる。

AliExpressの物流をチェックしてみる

 今回とどいた品物、深センの龍崗から出荷されていた。深センでは北のほうで、日本人はめったにいかない雑多な街だ。高層ビルの立ち並ぶような場所ではない。品物は中山市(朱江を挟んで対岸の街)から出荷された潰れた箱をそのまま上からエアパッキンで包んで発送していた。

微妙に複雑な経路を通って届いた荷物

 AliExpressの荷物はシンガポールから発送されていた。広東省から一旦シンガポールにバッチ配送されて、コンテナがいっぱいになったところで日本向けに発送されると推測している。以前はAliExpressで注文すると2週間くらいで届いていたので、日本向け貨物便もしくは取扱量が減っているのだろう。まさか船便なのだろうか?

さて、このゴミどうしよう……よろしい、ならば紛争だ

 そして、実際にセットしてみたのだが、買い物山脈でレビューした品物とは全く別物だった。

 光の指向性をしっかり調整していないので、画面に光が激しく映り込む。端的に言えば役に立たないゴミ。レビューのしようがない。

我が家に届いたゴミ

 そもそもタイトルに別ブランドのXiaomiと入れて、本来のメーカー名を入れないのは悪質な検索汚しで、AliExpressそのもののサービス品質を下げる行為でしかない。

 劉氏は「金払わなくていいんじゃね?」とコメントした。

 たしかに受け取りボタンを押さなければ支払いが行なわれない仕組みだった気がする。

 しかしよく見ると「紛争を開始します」というイカした名前の魅惑的なボタンがあるではないか!!

魅惑的なボタンがある。ついポチっちゃいそうじゃないか

 ついにワクワクの本編突入である。これは連載数回目で詐欺に引っかかったらやろうと心の中で温めておいたネタだ。いきなりこいつを出すということは、連載のネタ小出しができなくなり、いきなり最終回になるということを意味する。

 「助さん角さん、こらしめてやりなさい!」気分はこんな感じである。闘うのは自分だが。

 入力フォームは整理されている。タイトルおよび実際の商品の写真を添付し、「Xiaomiの商品と称して販売していたが、実際の商品はMideaのものだった」と日本語で明快なコメントを入れて紛争を開始した。

 この文章を書くにはこつがある。日本語と英語中国語は言語構造が違うので、正しく理解されるために一手間かける。

  1. 日本語で書く
  2. いちど機械翻訳で英語に変換
  3. 機械翻訳した英語を、もういちど機械翻訳で日本語に変換
  4. ほぼ、元の文章に戻ったらOK
もちろん、馬鹿にされた筆者のはらわたは煮えくり返る思いだ

 返信は英語でやってきた。自動翻訳で通じたようだ。筆者は中国語も英語も困らないのだが、日本語で通じてよかった。読者の方にも紛争の際には日本語で行なってもらえる。向こうからは英語で戻ってくるので、DeepL翻訳などを使えば問題なく紛争をすすめることができるだろう。

 もちろん、最初から羊頭狗肉でひっかけをしてくるセラー側の言い分は屁理屈であり、一切返金する気などないのが見え見えだ。悪代官や悪徳商人は自分の悪行をはいそうです、などと認めないものなのだ。

 だいたい、小米エコシステムの商品は米家という表示がしてあり、美的ブランドのものは小米エコシステムのものではない。

 Twitterで「AliExpress 紛争」で検索すれば、粗悪業者にやられたツイートと紛争のコツが大量にひっかかる。

 こういうときはなめられないように全力で反撃して殴らないといけない。これが中国の掟だ。

 読者の方も、もしも同様のトラブルに巻き込まれたら、悪徳業者がブラックリストに乗るようにしっかりと紛争をしてほしい。「助さん角さん、もういいでしょう」という言葉は存在しないのである。

AliExpressの自動仲裁システムが動き出した。

 AliExpressにはバイヤープロテクションの仕組みがあり、ある程度の仲裁をしてくれる。

 今回の件は「外観が記載された内容と異なる」というカテゴライズで審査が行なわれた。

 ほどなくすると、AliExpressの審査が終了し、スクリーンショットと現物の写真をもとに「brand not as described Valid 」というかたちでこちらの主張が認められた上で機械的に仲裁のオプションを出してきた。一部返金で品物はそのままか、全額返金で品物返送か。

こちらの出したエビデンスに基づいて、審査がおこなわれる。こんなことやる前にAIで悪質業者をBANしたほうがコストかからないと思うのだが

 本来であればこちらにもメンツがあるので、送料かけても品物返送で全額取り返したいところだが、郵便局が中国向け国際荷物を引き受け渋る状況のため、悩みどころだ。

 仕方ない、無職とはいえ時間使うのももったいないので一部返金で矛を収めることにした。

 それでも、品物はだますことを前提で非常に割高な価格設定になっていた。インボイスを見ると品物は10米ドル、請求額は5,000円オーバーだから売主側には笑いが止まらないような大きな利益が出ているだろう。

 AliExpressからの提案は1,400円程度返金だったが、こちらは全額からインボイス記載の10米ドルを引いたもので申請した。現在係争続行中である。

 安いところにはそれなりのトラブルがあるが、昔のアキバのジャンク屋のようなわくわく感がある。

 私の記憶によれば、この購入はAliExpressにおける5回目くらいの取引である。実際の買い物の中で5回中2回のトラブルは統計的に多いと思う。

 今回のように、情報の非対称性(売り手側が必要な情報を隠す)を利用して最初から悪意をもって欺しにくる悪徳系業者には手のうちようがない。

 AliExpressの買い物は難度高めである。同じものが入手できるのであればAmazonで買った方が良い。

 商品を見て回っても品質的にほしいものはほとんど見つからないが、Amazonで買おうかなと思うものがあったらAliExpressと比較し相場観を確認するのが良いだろう。

 あくまでもリスク管理を徹底して活用してほしい。また、無線機能がついてるものは技適の関係で買うべきではないし、電池が爆発しそうなものも手出しは無用だ。

 筆者は即座にリベンジしてやろうと、ついカッとなって別の商品をポチったのだ。いま考えると、またやられそうな気がしている。