VTuber・富士葵 初投稿から7周年記念インタビュー「本当にあっという間に7年経ったって感じです」

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12月8日、VTuber・バーチャルシンガーとして活躍する富士葵(ふじあおい)さんが2017年にYouTubeに動画を初投稿してから丸7年を迎えた。

デビューからSmarprise、音楽レーベル「Acro」と企業の所属を経て、2023年11月に独立。現在は個人勢として、相方のキクノジョーさんと一緒に動画投稿や生配信をしているだけでなく、ぽんぽこ&ピーナッツくんやおめがシスターズなどとのコラボを展開したり、10月にニューシングル「くじら」をリリースしたりと精力的にアウトプットを続けている(各配信サイト)。

7周年というとVTuberの中でもかなり長期になるが、彼女はどんな想いで活動に臨んでいるのか。キクノジョーさんにも同席いただき、PANORAとしてだいたい6年半ぶりとなるインタビューを行った(以下、敬称略)。


公園で見たシャボン玉に自身の境遇を重ねて歌詞に

──まずは新曲「くじら」について、約1年ぶりぐらいのリリースになりましたが、制作時はどういう気持ちでしたか?

富士葵 難しい質問ですね。今までは音楽プロデューサーの方についていただいたり、Universal Musicさんに所属していた時代もあって、「みんなでつくる富士葵の楽曲」みたいな感じだったんですね。今回は改めて個人としての活動、しかも一から作るのが初めてのことで、「どういう楽曲にするか」「どなたに頼むか」みたいなところを2人で考えていました。そんなときに玉田デニーロさんからお声掛けいただいたんです。ピーナッツくん経由で。

 
──ぽんぽこさんとピーナッツくんからですか?

富士葵 そうです。ぽこピーの2人とは収録などで会うんですけど、「葵ちゃんとお話したがってるよ」みたいな感じで言われたんです。最初は「またまた~」みたいなこと言ってたんですよ。

キクノジョー 「え、そんな稀有な人がおるん?」みたいなね?(笑)

富士葵 その後また2人と会った時に、もう一度言われたんですよ、「そういえばこのあいだの話だけどさ、連絡取ってみる?」みたいな感じで。「そこまで強くおっしゃるならお話を聞いてみようかな?」と思って、玉田デニーロさんにつないでもらったんです。

 
──これまで数年近くメジャーで活動されている中で、「音楽制作」というとスタッフの陣容や人数も揃っていて、出来上がってる計画の中へ富士さんがジョインしていくような形が多かったと思うんです。そこから一気に個人での活動となったとき、いわゆる「インディーズ」というスタンス・活動内容へと変わったのは、かなり感覚が異なるだろうと思い、最初にこの質問をさせてもらいました。作詞家や作曲家を探すといったところをすべて自分でやるのは、やはりフィーリングがかなり違いますか?

富士葵 そうですね。ただそこのあたりは逆に……気が楽になった一面もあったかなと。

キクノジョー 音楽のメジャーレーベルだと関わってくださる方がたくさんいらっしゃって、それに比べて今の活動ではコントロールできる裁量がかなり大きいので、突き詰めて作業ができるのは大きな違いでしたね。

富士葵 活動が個人になってから「こんな書類まであるのか!」みたいな事務作業がすっごい増えて。本当に時間がなくてあっという間に1年過ぎちゃったんですよね。

 
──1年の振り返りの話をあとでお聞きするとして、もしかしてなんですけど、この「くじら」という曲はかなり期間を置いて作られた曲だったりしますか?

富士葵 確かにそうかもしれないです。前のアルバムが出てからという意味では確かに1年なんですが、実は前作アルバムの制作終盤から「くじら」の制作は始まっていたので、その期間も含めると1年半くらいになります。作り始めて半年ぐらいかけ、昨年11月17日のライブで初披露して、さらに1年ぐらいブラッシュアップしてのリリースとなりました。

──なるほど。そんな新曲ですが、タイトルを「くじら」にした意味は何かありますか。

富士葵 いや~……タイトルがずっと決まらなくて。最終的にはファンの皆さんとかの前で「くじら」って愛称として呼んじゃったので、そのまま「くじら」になったんですよ(笑)。去年のライブでもそういう風に呼んでいたかな?

最初は「勇魚」(読み:いさな)とつけたかったんですけど、デニーロさんなどともご相談したときに「『いさな』って初見の人わからないんじゃない?」みたいになって。「それじゃあ『くじら』にしようか」みたいな感じでタイトルが決まりました。

 
──じゃあ……仮タイトルがそのまま付いちゃった系なんですね(笑)

富士葵 「くじら」というタイトル、ちょっと米津玄師さんっぽいですよね。他にも候補考えたんですけど、月日と共に馴染んできたのもあって諦めちゃいましたね(笑)

 
──ですが、「くじら」という言葉から生まれるイメージと、楽曲のサウンドや歌詞が本当にぴったりだなと思いました。富士さんの過去のアルバムとかシングルとか聴かせてもらっていて、この曲聴いたときに、「富士さんがこういう曲歌うんだ」という驚きがまずありました。大きくグルーヴの波がたゆたっていくようなエレクトロポップスでありつつ、富士さんのボーカルが主張しすぎずに響いてくる。こういうタイプの曲ってこれまでなかったじゃないですか?

富士葵 めっちゃわかってくださってる。嬉しいです。今までの曲は「わたし、富士葵ってこんな人です」みたいな自己紹介のような曲が多っかったんですが、この曲は「こんな歌声もあります」「こんな歌も歌えます」みたいな感じで。”歌声を曲に乗せる”っていうよりも、”歌声を聴かせる”という印象だったんですよね。

 
──ポップスの多く、それこそJ-POPやビルボードとかで売れる大半のポップスは、やっぱりボーカルがメインになる楽曲が多くなりますよね。ボーカリストの歌声がメインであり、華であるという曲が一般的ではあります。

富士葵 普段音楽を聴いていると、「この曲はそもそも構成やサウンド自体がいいなぁ」と思う曲もあって、今回はそういう楽曲のように「曲やサウンドの一員として自分の声を参加させてもらう」みたいなイメージに近かったんです。レコーディングの時もこうグワーっと張り上げるというよりも、音に乗って喋るように歌う、さらっと喋るように……という感じでした。

 
──楽曲のアイディアやイメージは、デニーロさんから来たんですか?それとも富士さんから?

富士葵 そこも結構時間かかったんですけど、キクノジョーも含め、デニーロさんや周りの方々と何度も話し合ってきめました。

キクノジョー 多分キーになったのは、「そもそもどんな曲好きなの?」みたいなお話をしたところで。「竜とそばかすの姫」の「U」とか、アラン・メンケンの「Compress of Your Heart」を富士葵が挙げたんですよ。そういった自分たちが好きな曲、聴いていて気持ちがいい曲をイメージしてくださったんだと思います。

富士葵 今までの楽曲は、曲と詞が同時に上がってくるか、わたしが作詞したものは「詞先」でやってることが多かったんです。それが今回は「曲先」なんですね。

*編注:詞先・曲先とは、楽曲を制作する際、曲(サウンド)が先に作られるか、歌詞が先に作られるかという状況を表す言葉。曲(歌詞)が先だからやりづらい・やりやすいというのは、個々人によって大きく異なる。

 
──ちょうどお聞きしたかったんですけど、歌詞が富士さん本人だったので、曲先なのか詞先なのかをお聞きしたかったんです。今回は曲が先に来て、歌詞は後に書いたと。

富士葵 そうですね。「曲先」の作り方はわたしにとっては結構珍しくて、結果的に「曲先」はやりやすかったです。「詞先」で作っていると、制作の中でどうしても後から少し歌詞を変えざるを得ないこともあって、わたしの中で”ズレ”ちゃうんです。これまでその感覚に慣れなかった。

今回は新しい試みだったので難しかったんですけど、そこも含めて新たな体験ができて楽しかったです。本当に何ヶ月もかけて色々お話しさせていただく中で曲のニュアンスも「こういうのがいい、こういうのは違う」とかリファレンスを出したり。

 
──もう結構期間が空いちゃってるんで頭から抜けちゃってるかもしれないですけど、歌詞を書くときにどういうことをイメージして書きましたか?

富士葵 これはですね……そもそもこの曲をいただいて「なにを書こうか?」って思ったときに、自分の飼ってる犬と一緒に広い公園へ行ったら、公園におじさんがいたんです。でっかいシャボン玉作ってるおじさん……そういう方、たまにいらっしゃるじゃないですか?。

 
──公園に、ですよね?

富士葵 そうです。そのおじいちゃんが針金を使った自作の輪っかを持って、なんかドデカいシャボン玉みたいなのを作って遊んでいたんです。しかも無表情で、黙々と。

 
──黙々と。

富士葵 黙々とですね。

 
──大道芸師さんみたいなイメージです。

富士葵 いえ、大道芸師さんみたいに子供に見せるわけじゃなく、お一人で黙々と、ふわぁ~~とシャボン玉を作ってらっしゃったんです。その方が作っているおっきなシャボン玉が、ふわっとクジラみたいな形になり、まぁるっこく保たれた形のまま空に飛んでくものもあれば、途中で割れちゃうのもあって。その姿が、何だか今の自分たちの境遇に重なったんです。

 
──なるほど。

富士葵 うまく言葉にできればいいですが……一瞬でパチンっと割れてしまう儚さとか、はたまた楽しそうに空を漂ってる感じとか。あとシャボン玉って表面にいろんな景色が映るじゃないですか?周りの景色が虹色になってシャボン玉に映ってる様子とか……。

そういう色々なものが、自分自身のようでもあり、今の境遇と重なっちゃったような感じでした。「こういうニュアンスもいいかもな」となって書き始めた感じです。

そこにキクノジョーもアドバイスをくれたんです。「くじらは死んだあとも、海底で骨となり肉となり、他の魚とか生物の肥やしになる。なんとなく、今の環境に似てない?」みたいな。

 
──「レガシーが残る」ってやつですね。その人がやったこと(レガシー)が後輩たちの道しるべになるという。

富士葵 そうです。人によっては映像や動画として永遠に残るわけで。たとえば”富士葵”という存在は、動画を消さなければ世の中に残るじゃないですか? そういう話しを重ねて「『くじら』でいいんじゃない?」みたいな話になり、じゃあこれでいこうかとなった感じです。

わたしが独立してから最初の曲というのもあったので、やっぱり1曲目は自分の過去とか未来など、見直したり想像したりというテーマを書こうと思ってたので、ちょうど良かったです。あのときのシャボン玉おじさん、ありがとう!みたいな(笑)。

 
──わたしもファンのみなさんも「ありがとう」と言いたくなりますね(笑)。そのお話をもとに歌詞を読んでみると、「泡」という言葉がすごく重みを持って響いてきますね。

富士葵 これは「富士葵あるある」なんですけど、わたし自身がすごい根暗なんですよ。「キミの心の応援団長」なのに、いつも歌詞がどんどん暗くなっちゃう(笑)。レーベルにいた頃にも何度か作詞がやり直しになったこともありました。

いま話にあがった「泡」にしても、儚さがメインになっちゃうとちょっと嫌だなと思ったりしたんです。なにも「この世界は儚いんだよ」みたいな、そういうこと言いたいんじゃない。まだまだ未来に続くよ!という意味合いに持っていきたかったっていうのがあります。

 
──その後の歌詞がまさにそうですね。「この答えも多分ね、風に舞ってる 弾けるまで」という歌詞。ここで結構ポジティブなニュアンスを受け取ることができます。

キクノジョー ボブ・ディランですね。

富士葵 聞く人によっては海を泳いでいるクジラにも聞こえるし、「なんかこれ儚いな」と思う人もいるだろうし、それぞれの中間が取れたらいいなって思いました。

 
──いまのお話を聞きつつ、ジャケットもすごくいいなと思っていたんですが、非常に話が通じるなとおもいました。じつはこのジャケット、すこし奥行きや立体感が少しないように見えて、海の中にいるようにも見えるし、空に浮かんでるような絵にも自分には見えたんですが……。

富士葵 うわぁ~~すーごい理解して!

キクノジョー インタビューいらんのちゃう?(笑)

富士葵 ジャケットイラストに関しては、田中寛崇さんにお願いする時に、曲について色々とご説明させていただいて、「クジラを書かずに、クジラを表現していただきたい」と最後に伝えたら、「えー!?」みたいな反応が返ってきましたね。「クジラと葵ちゃんと、シャボン玉っぽい泡を描こうと思ってました……(笑)」みたいな。実際に出来上がったのがこのジャケットでした。さすが田中先生です。

 
──こうしてジャケットを見ていると、自分自身をクジラに見立てているようにも受け取れるんですが、歌詞を読むとそういった印象は薄いんですが……その点はいかがでしょう?

富士葵 両方ですね。富士葵をクジラに見立てている”ようにも見える”みたいな。

もし引退しても肥やしになれたらいいなって思うし、まだまだそんな焦ってないよっていう気持ちもあります。今までの過去とか未来、そしていまの状況も含めて、自分の体に色々な景色を映しながら大きく動いてるというのを表現したかった。なので、客観的に見えているニュアンスもあるし、自分自身に例えてるとこもあります。

 
──新曲「くじら」をリリースするまで制作が約1年半ほどかかったということなんですが、今後の新曲ってどうなんでしょう。

富士葵 独立してから「ゆっくり作ろう」と言って制作はしていましたが、2月には次の新曲をリリースする予定になってます。楽しみにしててください。


投稿本数が減ったので一本一本の濃さは上げたかった

──続けて独立後約1年ぐらいの活動を振り返ってお聞きしたいです。新曲のリリースは1曲のみでしたが、それまでと変わらず動画を投稿し続けてたのが印象的です。

富士葵 いや、全然まだまだです。逆に少なくなっちゃったんですよね。週に1本とか2本とかになっちゃって。

 
──でも内容がすごく濃い動画が多いと思います。独立後約1年ほどで投稿されてきた動画のなかで、「この動画面白かったな」と思える会心の出来だった動画はなんでしょうか。(編注:2023年11月8日に独立を発表している)

富士葵 独立してからですよね。

キクノジョー 去年の10月、11月ぐらいからよね?。

富士葵 富士山行って、山手線一周して、滝行って……。

キクノジョー コンソメも楽しかったな。

富士葵 コンソメ楽しかったね。

キクノジョー 3Dプリンター系があって、踊る大捜査線のイントロがなぜか伸びて…。

 
──自分が見ていてサムネイルですごく印象深いのは、腐った魚の香りのやつですね。こんな言葉がサムネイルに乗ることあるんだっていう。

富士葵 ショクダイオオコンニャクですね。あれめちゃくちゃ楽しかったですね。

 
──3Dプリンター、コンソメスープ、富士山、山手線、滝行、腐った魚の香り。こうしてみると出てくる単語がすごいですね(笑)

富士葵 制作してて「これはAoi ch.っぽさが出るんじゃないか?」と思えた動画があるんですよ。「工場の動画の情報から計算でかっぱえびせんを生成する」という動画なんですが、これまでとはちょっとテイストが変わったキッカケになったなと思います。動画の内容に理科の実験みたいなニュアンスを入れるようになった気がします。

キクノジョー 確かにそうかもね。このあとに「蒲焼さん太郎を生成する」とか、最近だと忍者メシの「兵糧丸」を作る動画も投稿してて、系譜としては「かっぱえびせん系譜」やね。

富士葵 「かっぱえびせん系譜」ってなにそれ(笑)

 
──なかなか他のVTuberの方でも言わない言葉ですが(笑)

富士葵 動画の内容やアイディアというのは、わたしが「こんなのやりたい」「これを使ってなにかやりたい」とか漠然としたアイディアを出して、それをキクノジョーが形にしてくれたり、「ちょっと調べとくわ」みたいなところから固まっていくんです。

ただこういう制作系動画って「こういうの作りたい」とか「これを再現するぞ!」となっても、 「いやいや、結構難しいよ?」みたいな感じで終わることも多いじゃないですか? それを頭を使って解決してくれる。めちゃめちゃありがたいですね。

キクノジョー この後に「かっぱえびせん系譜」動画を色々やってみようと思い、例えば「味玉の固さ」を調べるやつも果実硬度計を使ってみたり、最近だと「人が感じる甘みに限界はあるのか?」という動画でも糖度計を使いました。そういう要素は、「かっぱえびせん生成」動画をやっていなかったら生まれていないかなと思います。

富士葵 「人が感じる甘みに限界はあるのか?」動画も、多分コンビニとかで色々な甘いものを探して食べ比べして終わり!ってなっちゃってたかもね。

 
──食べ比べするのはよく見ますけど、糖度調べてどうというのは中々ないですからね。一つ一つの動画に思い入れやアイディア、狙いが込められてるんだなと分かります。

富士葵 投稿本数が減っちゃったので、一本一本の動画の濃さは上げていきたかったというのもあります。投稿期間も開いて、内容も薄いとちょっとどうかと思っちゃいますし。

ただ色々と影響もあって、今までの動画は1日や半日で撮れていたんですが、最近では撮影だけで3日くらいかかってしまって、「あれ? 1週間は7日しかないのに!?」みたいなことになってます。

 
──個人として独立の活動をしているからこそ時間かけられるっていう部分はあるのかなと思います。いままで音楽メジャーレーベルの一員として、そちらのスケジュールにも合わせて制作してきた部分もあるわけで。

富士葵 確かにそれもありますね。独立してから一番大変なこととして、今までスタジオをお借りして使わせていただいていたんですけど、独立したあとは自分たちでスタジオや会議室などを借りて生放送や撮影をしているんです。確かにスケジュールや書類の整理なども大変なんですが、いちばん大変なのはスタジオまで料理器具や材料を持っていくことなんですよ(笑)

さっきお話したように、撮影だけでも2日3日またぐことが増えたので、スタジオや会議室をそのまま借りっぱなしというわけにもいかない……そこが結構大変だったりします(笑)

 
──確かコンソメスープの動画では鍋を持って帰っていましたよね?

富士葵 そうなんですよ!このときは1日目に出来上がったブイヨンを持って帰りました。キクノジョーが。

キクノジョー 他の動画でもそうなんですが、電車で匂いとか周りに迷惑をかけないようにどうやって持って帰ろう?とか、作って出来上がったこれ、そもそも持って帰れるの?みたいな(笑)

 
──富士さんのプライベートな話になりますけど、この1年ぐらいで心に残った作品とかハマったエンターテインメントな作品ってありますか?例えば小説とか漫画とかドラマとかドキュメントとか。

富士葵 うわぁー難しいですね。ずっとテレビばっかり見てきたので、芸人さんのトーク番組やバラエティ番組、あとはラジオとかばっかり見たり聞いたりしてました。

 
──この番組を見てる!というのはありますか?。

富士葵 もしかしたらテレビでやっているトーク系番組はほぼほぼ見てるんじゃないですかね。テレビ欄が頭に丸っと入ってるぐらい見ています(笑)

 
──あんまり存じ上げなかったのですが、テレビっ子なんですね。TVerで見られているんですか?

富士葵 わたしはかなりテレビっ子だと思いますね。番組は全部録画して見てます。お仕事とか作業に行き詰まった時に見ることが多くて、作業しながら横で映してるとかではなく、”見ています”ね。もちろんご飯食べながらとか作業しなくていい時とかにも見てます。あとはネットでやっている芸人さんの番組も見ることが多いです。小説家だと森博嗣さんがずっと好きです。いまでも読んでます。

 
──いま独立されて個人のVTuber活動となっていますが、音楽活動だけじゃなく動画の撮影なども含めて、「この人とコラボしてみたい」という方はいますか

富士葵 ゲストというには非常におこがましいですが、玉置浩二さんと歌いたいっていうのはありますね。

キクノジョー でかいとこ出てきた。

 
──楽曲をこの人に頼んでみたい!という方は?

富士葵 それはいっぱいますね……蔦谷好位置さんやツミキさんも好きですし。ずっと好きなn-bunaさん、藤原基央さん。

あとこの方は、もちろん好きでもあるんですけど、今の活動を続けるきっかけとなったのが「君の名は」の曲なので、野田洋次郎さんとはいつかご一緒できたらなと思っています。というか感謝を伝えたいです、野田洋次郎さんに(笑)

富士葵 あとはさっきもお話したように動画の内容が実験寄りな内容が多いので、市岡元気さんやでんじろう(米村でんじろう)さんみたいな研究者さんや専門家の方といろいろお話ししたいなっていうのはありますね。確実に答えを持ってらっしゃるプロの方が横にいれば、より面白くなるなと。キクノジョーは誰かいる?

キクノジョー うーん……ホロライブのらでんちゃん(儒烏風亭らでん)かな。

富士葵 無理!(笑)

キクノジョー せやろな(笑)。ぼくは美術がすごい好きで、もともと美術館の仕事とかしていたこともあったので、その辺もらでんちゃんとお話ししてみたいですね。

 
──今年末から年明けの動き、来年以降の抱負をお聞きしたいです。なにより12月8日には、富士さんは活動7周年を迎えました。今の心境について率直にお聞きしたいんですけど、どうでしょう?。

富士葵 あっという間でしたね、本当に。取材が始まる前に「PANORAで6年半くらいまえにインタビューしていたんですよ」と伺って、6年半前と思うとすごいなぁという気がしますけど、自分の体感で言うと本当にあっという間に7年経ったって感じです。「これやりたいな」「楽しいことあったらいいな」みたいな感じでやってたら。

 
──加えてちょうど12月15日には「アニサマV神」に出られるわけじゃないですか? 意気込みはいかがでしょう?

富士葵 セットリストはご提案いただいたのですが、それこそ7周年を迎えたタイミングなので、「富士葵の自己紹介」になるようなセトリになりました。葵ちゃんの曲聞いたことないなっていう方でも「こんな感じの人なんだ」というのが伝わるかなと。なので楽しみにしていてください!

 
──ありがとうございます。また「アニサマV神」に選ばれてる出演者さんが、富士さんからみて仲が良かったり、デビューがかなり近しい方々が多いように感じました。YuNiさんや樋口楓さんとか。

富士葵 確かに確かに。ずっと仲良くしていただいてる方もたくさん出ます。


──そういったところをみていて、「シーンが一周回ったな」みたいな印象などはありますか?

富士葵 一周回ったというよりは……わりと毎日いろんな動きがあるじゃないですか。みんなが横並びになって歩いていて、その中でちょっと寄り道したり、少し先へ走る人がいたり、借り物競争行ったりしてる人もいれば、大玉転がししてる人もいるしみたいな。横並びに走ってはいるけども、みんな自由に走っているイメージなんです。なのであんまりこう……「大先輩!」とか言われるといつも反応に困ります(笑)

 
──なるほど(笑)。そろそろ最後の質問なのですが、コロナ禍が終わって、この2年から3年ぐらいの間で、今のシーンが本当にいろんな人にとって、特にその若年層にとって身近な存在になっている状況なのですが、長く活動してきた富士さんにとって今のシーンはいまどういう風に見えていますか。

富士葵 めっちゃ難しいですね。最初の頃はみんなが模索しながらやっていましたが、最近はみんながバラバラに動いていて、それぞれのやりたいことがより明確になってきてるなと。さっきのお話にも通じますが周りを見ていてもそう思います。当時に比べて、もっと自我を出していいんだ!みたいに感じています。ひしひしと。

キクノジョー 昔だと「誰がこんなことをした」「誰がこんなことをしてる」「すげー! やばいやばい!」やったのが、「誰がこっちに行き始めた!」「いいじゃんいいじゃん」「お、誰々はそっち! なるほどなるほど!」みたいに感じられるようになったなと。

富士葵 当初はみんな正解がわからないながらもがむしゃらにやっていたのが、みんなに知っていただいたり、こちらも経験を積んだことによって、選択肢がわかったうえで自由にやれるようになっている。その意味では一周回ったと言ってもいいかもしれません。

キクノジョー 逆にね?

富士葵 逆にね。だからこそ引退してしまう人もいるだろうし、今までの活動とは全く違う新しい道にいきたい人もいるだろうし。でもそれは全体としてはいい方向に進んでいる気はするんですけど、どうなんでしょうね?

 
──今のお話をうけて少し突っ込んだ形で返すとするなら、「富士葵のキャリア」だからこそ語れる話だなと思いました。先程名前が上がった儒烏風亭らでんさんを例にあげると、彼女自身はデビューしたばかりの1年と少しの活動しかしていないので、彼女のなかでの経験は1年ほどしかないタレントさんです。ホロライブのスタッフさんはもちろん色々なサポートをする万全な体制に臨んでいたとは思いますが、彼女は内心「これで大丈夫だろうか?」という焦りをもっていたとはおもいます、方向性がわからなくなった!というお話までしていますし。

富士葵 わたしの憶測でしかないですが、以前の動画投稿者さんや配信者さんは「ゲーム配信」や「歌枠」などの既存の内容を、どのように自分の色を出しながらやっていこうとかとか考えていたと思うのですが、らでんさんは「絵や美術の話」という、自らの得意分野で非常に盛り上がっているじゃないですか。そういう風に得意なことをやったり、その得意なことでイベントに出演したりとかって、7年前だったら今ほど盛り上がっていなかったと思うんです。

──確かに。そこは仰るとおりですね。

キクノジョー あんまりなかったなぁ。

富士葵 ということもあり、本当に自分の好きなことを自由にしていいし、自己表現の自由度が高まってきたんじゃないかな。そういう風には思います。知らんけど(笑)

──加えて、ファン層・視聴者数も圧倒的に増えたし大きくなったというのもあると思います。視聴者のバックグラウンドが本当に多彩になったと思っていて、小学生から高齢者の方までリーチするようになった。ある意味、視聴者側に刺さりさえすれば、なにしても許されるんじゃないか?という環境になったんだと思います。

富士葵 そうですね。だから見ている方も、より楽しいんじゃないかな?と思います。より多様化して、より個性が出てきて、自分の「推し」を探すこともできるようになったし。

キクノジョー そうやね。多様化したし、より多様性が認められてきたというのは感じます。

(TEXT by 草野虹

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