2023年、12月25日、クリスマス。私は15日ぶりに太陽の光を浴びた。

12月10日~25日までの15日間、治験施設に入院していたからだ。

これは、15日ぶりにシャバの空気を吸い、クリスマス一色の街を一人徘徊する男の記録である。

(写真は2023年12月25日に撮影したものになります)

 

 

 

2023年、12月、クリスマス。私は15日ぶりに外に出た。

朝10時。「15日ぶりのシャバの空気」を肺に送る。気持ちいい。太陽の光が目に染みる。

街はいつの間にかクリスマス一色になっていた。

 

街行く人がダウンを着ているのもなんだか新鮮だ。

私が治験施設に入院した際には、暖冬の影響で最高気温が18度近い日が何日も続いていた。入所日の最高気温に至っては19.7度だ。

だから、肌を伝うこの冷たさが新鮮で気持ちいい。

 

治験。薬が一般に市販される前に、少数の人間に試験薬を投与して安全性や同等性を調べる。そういうものが世の中にはある。

「治験=人間モルモット」という闇のイメージを持つ人も多いが、実際には国や第三者倫理委員会による厳しい監視体制のもと行われ、安全には相当気を配って実施される。

「何があっても文句は言わない」という書類にサインするどころか、「いつでもやめていいよ!」「何かあったらちゃんと補償するよ!」という書類にサインすることになる。

 

試験によって入院期間は様々だが、だいたい1泊あたり2万円前後の協力費が相場だ。

閉鎖空間の大部屋で何日も集団行動することになるが、パソコンは持ち込めるので、ライターやプログラマーなどのノマドワーカー、資格勉強をしている学生などがよく参加している。

 

というわけで、私は今、15日ぶりに閉鎖空間から解き放たれたのだ。開放感がすごい。

入院中はずっと「出所したら何を食べるか?」を考えていた。施設のご飯は美味しくはあったが、毎回レンチンのお弁当だったし、「好きなものを食べる」をいう行為が15日ぶりなのだから、ワクワクが止まらない。

 

入所中は脳内で「出所したら何食うトーナメント」を戦わせ、最終的には「ちょっとお高めの寿司」が勝ち残った。

一口目はマグロのトロを食う。自分でもちょっと品がないなと思うが、15日ぶりの自由な、しかもクリスマスでの食事。

品がどうなどと言ってられない。

 

金を下ろすためコンビニに入る。入所中はなるべく貴重品を減らしたかったので、財布に金は殆ど入っていない。協力費は後日振り込まれることになっている。

コンビニ内はやはりクリスマス一色になっており、嫌でも今日がクリスマス当日なのだと実感させられる。

 

目の焦点が定まっていないサンタだって居る。誰だって繁忙期は辛い。

 

フライヤー周りも全力クリスマス仕様になっており、一つでも多くのチキンを買わせようというコンビニ側の気迫を感じる。

しかし、今ファミチキを買うわけにはいかない。まず出所して一口目はマグロのトロと決めているから。

万全な状態で繊細な寿司を味わうには、一番敏感になっている今の舌の状態を保たなくてはならない訳で、ジャンキーな油を今ここで接種するなど言語道断。

一口目の感動を、いつでもどこでも食えるコンビニスナックなんかで消費してはいけない。今日は15日ぶりにシャバに出たクリスマス。

誰がどう考えたって特別な日なのだから――

 

 

 

 

 

(ハア…ハアハアハアハアハア…………)

 

 

気がついたとき、私は、ファミチキとコーラをもって無我夢中で街を走っていた。

 

 

(ハアハアハアハアハア………ハア…)

 

 

ビルの合間で窮屈そうにしていた太陽はいつの間にか空高く登り、川の水面に細かい光の波を生み出す。

 

 

(ファミ…ファミチキ……ファミ…ファ……ファミ……)

 

 

朝の冷たく乾いた空気が徐々に暖まり、そっぽを向いていたはずの街は、静かに私を包容し始める。

空高く登る太陽の陽も、頬を伝う風も、川を流れる水も、すべてが優しくうつろう。

それはまるで、私の15日ぶりの出所を祝福してくれているようだった。

 

 

 

 

 

 

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーー!

 

 

 

 

すいません。

ファミチキ我慢できませんでした。

 

 

 

2週間ぶりの、出来立てアツアツの食べ物。

コンビニスナックを”出来立て”と表現していいかは微妙なところではあるが、15日間レンチンのお弁当しか食べてこなかった私には、アツアツのファミチキは出来立てと言うほかなかった。

カリカリとしたクリスピーな食感とともに、ジューシーな油が口の中いっぱいに広がる。衣に包まれたチキンはほろほろと繊維状にほどけ、肉・衣・油が一体となり唯一無二のハーモニーを奏でる。

ジューシーな食べ物を15日絶っていた私の口には、それはあまりにも味覚情報の強度が高かった。いや、味覚だけではない。

ファミチキ。鶏肉と衣だけで構成されたそのお気軽コンビニスナックは、私の全細胞に絶頂と混乱をもたらしていた。視覚・嗅覚・触覚・味覚、すべての神経細胞が「ファミチキ」というデータで上書きされ、その衝撃が脳を駆け巡っていき――

 

 

 

少し泣く。

 

 

 

そしてコーラである。そう、コーラがいま、私の手元にあるのだ……!

私は今、15日間味のついた飲み物を飲んでいない。なんなら冷えたも飲み物すらほぼ飲んでいない。飲んだものといえば、もっぱら常温の水である。

 

そして入院中は、甘いものと言ったらバナナやヨーグルトくらいのものであった。

私は普段から甘いものを頻繁に食べる習慣はなかったのだが、「自主的に糖を摂取していない状態」「強制的に糖が摂取できない状態」は、実は同じようで全く違う。

入院してから数日が経つと、なぜだか無性に甘いものが食べたくて仕方ないのだ。

刑務所に入ると、甘いものが好きじゃない人も、しばらくするとみんな甘味を求めると聞いたことがある。

食事にゼリーが出ると、服役囚はみな歓喜し、中にはご飯にゼリーをぶっかける奴まで現れると聞いた。ほんとうかは知らない。

しかも、私は今、冷えた飲料すら15日間も口にしていない状態である。

味も温度も存在しない液体のみを15日間飲み続けた人間が、いきなりキンキンに冷えた、甘く刺激のある炭酸飲料を飲んだら、はたして一体どうなってしまうのか。

 

 

 

 

 

 

こうでした。

 

 

このサイズのコーラ、今まで存在意義がわからなかったのですが、ファミチキを食べるとき一緒に飲む用だったんですね。

 

本当はお寿司を食べる予定だったけど、久しぶりに刺激的な肉や甘い飲み物を味わったせいか、食欲が完全に満たされてしまいました。

せっかく天気もいいことですし、そのへんを適当に散歩することにします。

 

ずっと屋内にいたので、水の音を聞くのが気持ちいいなと思っていたら、川にビニール袋が捨てられていました。

せっかく気持ちよく散歩していたのに、こういうのを見ると残念な気分になってしまいますね……。

 

と思ったらクラゲでした。

クラゲならヨシ。

 

 

 

 

 

 

川沿いから住宅地へと移動したら、駄菓子屋を発見しました。こういった知らない個人商店との偶然の出会いなんかも、散歩の醍醐味ですよね。

せっかくなので、駄菓子でも買ってつまみながら散歩して行きたいと思います!

 

昼休み中でした。(泣)

 

年末ということで、神社もすっかり新年を迎える装いになっています。

 

もう2023年も終わりか~。

 

こういう「◯年」の部分だけ上から貼り付けちゃってるちょっとお茶目なポスター、和むな~~。

 

 

 

突如現れた歩道を進んでいったら、散歩にもってこいすぎる公園が現れました。

 

こういう、水が薄く流れてるタイプの公園、子供の頃はめちゃくちゃテンションあがったな~。(薄く流れてる水は子どもにとってエンタメ性が強すぎるから)

 

公園を進んでいたら、なにやら気になる脇道を見つけちゃいました。

行ってみましょう…!

 

うわ~なにこれ!? 公園の脇道進んだら急に博物館へのルート開放されちゃったんですけど!!

嬉しすぎない!? 公園散歩してて不意に博物館へのルート発見しちゃうって、散歩の中における嬉しい出来事ランキングかなり上位じゃないですか……!?

 

休館日でした。

うん。まぁいいけど。別に。

あの時のトキメキは嘘じゃなくて全部本物だから。

 

悔しかったので、公園に戻ってちょっと踊ってました。本当にちょっとだけですが、フラワーロックみたいにクネクネしてました。

悪いことが起きた時の私なりの乱数調整で、そういうのがあります。

 

 

 

 

いや~、15日ぶりにお日様の光にあたってボ~っとするの、最高に気持がいいなぁ~~。

 

ガラガラガラ……

 

ガラガラガラ……

 

 

 

 

 

 

クリスマスの過ごし方って、これであってます……???

 

 

 

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