適職診断をやったことはあるだろうか?
「誰とでもすぐに打ち解けられる?」「辛いことや不愉快なことも我慢できる?」などの抽象的な質問に答えていくと、「営業マン向け」「金融会社型」「芸術家タイプ」などとオススメの職業を診断してくれるアレだ。
学生の方は将来何の仕事に就くかを考えるときに、社会人の方は転職を考えたときに、一度はやってみたことがあるのではないだろうか。
しかし、この結果が正確なものといえるのかには、少々疑問が残る。
人は誰しも自分のことをわかっているようでわかっていない。
例えば、
Q:「コミュニケーションが得意なタイプだ」⇒ A:「そう思わない」
本当にそうだろうか? そこには「自分はこういう人間だ」という思い込みがあるのではないか。ここで聞かれているコミュニケーション力とは、飲み会でウェイウェイできる力のことではないのだ。
Q:「芸術的な活動をするのは得意である」⇒ A:「そう思う」
これは、「そうでありたい」という願望ではないだろうか。あなたの図工の成績が「5」だったのは、先生があなたを気に入っていたからだ。
つまり何が言いたいかというと、適職診断で本当に良い結果を得たいなら、もっと客観的な見方をできる人にやってもらった方がいいのではないかということである。
客観的な見方をできる人、それはズバリ……
そう、上司だ。
そもそも適職診断の目的は「その人に何が向いているのか」を見定めること。上司は、日常的に業務としてそれを行っている。
つまり、
上司に適職診断をやってもらえば、自分でおこなった診断結果よりも、もっとしっくりくる結果が出るのではないだろうか。
今日はこれを検証していきたい。
検証方法
あらためまして、ライターの加味條(かみじょう)と申します。逆流性食道炎をわずらっています。
検証方法はいたってシンプル。
↓
※上司自身の適職を診断するのではなく、「ライター(部下)ならどう答えるか」を考えてもらう。
↓
という形で進めていく。
ただ、僕一人だけで検証したのではデータとして弱い。
そこで、普段は会社員をしている3人のライターにも協力してもらうことにした。
今回は就活や転職に苦い記憶を持つ、下記の4人で検証を行う。
(敬称略、以下同)
神田:学生時代のバイト先で、自称人事部のおじさんに絡まれ「ウチじゃ絶対にお前なんて取らない」と言われた。
みくのしん:金髪のギャルにイジメられるだけのアルバイトをしていた過去がある。
ヤスミノ:勘で就職活動をしてたら、いつのまにか工事現場の仕事をしていたので退職した。
加味條:転職活動の面接で、面接官に丸1時間にわたって説教されたことがある。
1人目:神田
1人目は神田(こうだ)。
ライターとして活動しながら、普段は有限会社ノオトに勤務している。
【有限会社ノオト】
ノオトは、インターネット・メディアを中心に、企画、編集、原稿執筆、運営などを手がけるコンテンツ メーカー(編集プロダクション)です。
(公式サイトより)
まずは自分で適職診断をやってもらった。
今回はこちらのキャリアインデックス社が提供する適職診断を使って、全39問に答えてもらう。
その結果がこちら!
【神田の感想】
:「人懐っこく、親しみやすいタイプ」なのでみんな仲良くしてください! 昔はコミュニケーション苦手だったんですが発達してきたっぽい。
「情に流され〜」のところはたしかにそんな気もします。「ここは論理じゃなく感情を使ったほうがうまく事が運ぶな」など、感情本位で動くことが増えてるので気をつけたいです。
適性職種に関してはよくわからないです。今やってるライター・編集職が好きなので、そっちの方が向いてるのかなと思っています。
長所、短所に関しては、本人的にもしっくり来ているようだが、適正職種にはピンと来ていないようだ。果たして、上司による診断ではよりハマる答えが出るのだろうか?
というわけで、さっそく上司の方にも診断してもらう。
今回検証に協力してくれた上司の方は、ノオト代表取締役の宮脇淳さん!
宮脇淳さん:
編集者・経営者。2004年に有限会社ノオトを設立。品川経済新聞編集長、コワーキングスペース「Contentz」オーナーの顔も持つ。
2人は神田が入社した2017年以来の付き合い。宮脇さんは、神田含めた全社員の仕事の進みを、チャットワーク等のツールで把握しているという。今回の企画にピッタリの”上司”だ。
「3年も付き合いがあるので、いろいろわかってもらえてると思うんですよ」と自信をのぞかせる神田。
:適職診断ね……。大昔にやったことある気がするけど覚えてないなぁ。
:これは宮脇さんが僕になったつもりで答えるってことですよね。
:そうです。神田さんになりきって答えてもらいます。
:めちゃくちゃ緊張するな……。
:人事評価みたいなことが目の前で行われる気分だ。
サクサク答えていく宮脇さん。
いくつかの質問を抜粋してみてみよう。
答えは、「強く思う」「思う」「どちらともいえない」「思わない」「まったく思わない」の5段階であらわされる。
Q:「新しい挑戦を始めるとき、楽しみより心配するタイプ」⇒ A:「まったく思わない」
:なにごとも、心配しないタイプだなとハッキリ思ってますね。
:当たってます。衝動で始めて、合わなかったら辞めます。とりあえずやってみるタイプですね。
Q:「行き詰ったとき思い悩む方だ」 ⇒ A:「思わない」
:これも同じかな。あれこれ思い悩む方ではないと思います。
:そうですね。衝動で動くし、最終的にどうせみんな死ぬんだから悩んでもしょうがない。
:極端。
Q:「無駄な努力に費やした時間が多いと思う」 ⇒ A:「強く思う」
:無駄というと言葉が悪いけど、深く没頭するタイプだよね。凝り性というか。そうなると、採算をそこまで意識しないイメージがある。
:興味を持ったことはとりあえずやってみるたちなので、合ってます。入社前にオモコロの運営会社のバーグハンバーグバーグでインターンしていたんですが、そのときは一年間夜行バスで通っていましたし……。
:すごい、今のところ「神田さんが答えそうなこと」を完全に言い当ててますね。
: これ企業の採用にも使えるんじゃないですか? 志望者にやってもらって適性を見たり……
: それが本来の用途でしょ。
というわけで、診断結果がこちら!
:「お前はこうだぞ」と言われているような圧を感じる。
: 思ってたのとちょっと違うな。「サービス・販売職」か……うーん……。
: あ、でも企画は合ってそうかな。あと、けじめはしっかりつけるタイプだと思うので、これも当たってそうだね。
: 「情が深く人間味がある」は嬉しいです。みんなから無感情、無表情と言われるので。
: 無感情、無表情は、付き合いが浅いと絶対言われそうだよね。感情の起伏がなさそうに見えるけど、感情そのものは豊かだなと思っているよ。
:これ、めちゃくちゃ恥ずかしいですね。
というわけで、2つの結果を並べてみよう。
※赤字は、異なる結果が出た部分。
:ズバリ聞きます。自身でやった結果と、宮脇さんがやった結果、どちらがしっくりきますか?
:うーん……難しい……
:……宮脇さんの結果です!
:おおおー!
:全部が全部あってるわけではないですが……。「けじめをはっきりつける」は宮脇さんから見ても当たってるようですし、あながち間違いじゃないかもしれないです。あと、僕は「情が深く人間味がある」ので。
:そこ押しますね。
:社長の前なんで。アピールの場でもあるんですよ。
:宮脇さんはどうですか?
:僕から見ても、僕がやった方のが合ってるんじゃないかって思いますね。あと単純に、上司としても勉強になるなと感じました。どこまで社員のことをわかってるのかなと。
:なるほど、ありがとうございました!
というわけで、1人目から早速「上司の診断の方がしっくりくる」という結果が出た。この調子でどんどんやっていこう。
2人目:加味條
続いては僕こと加味條。
勤め先は、都内のIT企業だ。
まずは自分で適職診断をやってみた結果がこれである。
【加味條の感想】
:今の仕事は捉えようによっては「事務職」なので当たってるかもしれません。が、販売、サービスは学生時代に飲食店やコンビニでバイトしていたときに、社員さんから100回くらい「向いてないね」と言われたので違うかも……。
「長所=協調性がある」、「短所=主体性がない」って同じことの裏表を言われてるだけな気がしますが、実際そうなので何も言えません。これは僕のせいではない。日本の学校教育が悪い。
ではこれを上司にやってもらう。今回検証に協力してくれたのは、直属の上司のケビン(仮名)。
ケビン:
会社の創業当時から勤務する、頼れるベテラン社員。加味條が所属するチームのリーダーを務める。豪州出身だが、日本語ペラペラ。
僕が2年前に中途入社して以来の上司で、担当案件の割り振りや、仕事の進捗チェック、評価などを総合的に担当している。完全に生殺与奪の権を握られている状態だ。
:僕になりきって答えてみてください。
:よくわからないけど、わかりました。
では、またいくつかの質問をピックアップしながら見ていこう。
Q: 「問題にぶつかったら、根本がどこにあるかを考えます」 ⇒ A:「強く思う」
:去年あった大型案件でトラブルが起きたとき、仕事のプロセスの改善からやってくれたよね。その辺は得意なのかなと思います。
:(ほぼケビンさんの提案通りにやっただけだけど)ありがとうございます!!
Q: 「人の気持ちを考えて、行動する方です」 ⇒ A:「思う」
:会議中に議論が白熱したときとか、冷静に双方の言うことを聞いて、落としどころを見つけてくれてる印象がある。
:(どっちつかずでフワフワしてるだけだけど)ありがとうございます!!
Q: 「行き詰ったときに、思い悩む方だ」 ⇒ A:「思わない」
:難しい問題があったら悩むまでいかずに、後回しにしちゃうのは良くないところかもしれないね。放置する、までいっちゃうと問題になるから。
:ありがとうございます!!
:今のは褒めてないよ。
リップサービスもあるかもしれないが、割と好意的な見方をしてくれているようである。安心。
というわけで、結果がこちら!
:クリエイティブ!
:うちでの仕事はクリエイティブ関係ないけど、ライターとかもやってるし、割と納得かな。
:長所、短所はどうですか?
:他人のミスを許さない、は少し疑問が残るかなぁ。心は広いと思います。
:よく見てらっしゃる。
というわけで、本人が診断した結果と比べてみると…
※赤字は、異なる結果が出た部分。
:結構ちがうね。
:サービス・販売職以外は全部違いますね。というか自分そんなにサービス・販売職に向いていたとは。
:加味條くんとしては、どっちの結果がしっくり来た?
:うーん、どちらか選ぶなら、ケビンさんの結果ですね。
:おー!その心は?
:一番は、クリエイティブ向けと言われたのが普通に嬉しいですね。あとは、「おとなしい」とか、「感情表現に乏しい」は合ってる気がしますし、ケビンさんが違うと言ってた「他人のミスに厳しい」も実際は当たってるかな……。自分に甘く他人に厳しいので。
:それ他の人の前で言わない方がいいよ。
:やってみて思ったのは、上司としてもっと部下のことを細かく見なきゃな……と。意外と知ってるようで知らないなと思い知りました。
:なるほど。
:というか、これ完全に人事面談だね。今期の面談はもうやらなくていいかな。
というわけで、2者連続で「上司の結果の方がしっくり来る」というジャッジになった。
残り2人だが、果たしてどうなるのか……?