東京都中央区日本橋で、7月19日(金)から9月1日(日)まで開催される「行方不明展」。
その名の通り「行方不明」に関するフィクションの展覧会ですが、開催前からSNSで大きな話題になっているため、すでにご存知の方も多いでしょう。
本展を手がけるのは、ホラー作家の梨と、株式会社闇(株式会社バーグハンバーグバーグのメディアで言うのもアレですが、株式会社闇って名前すごすぎ)。
↑梨さん、このプロフィール画像で人気ホラー作家やってるのすごすぎる(これってなんですか? オタクのはんぺん? キュビズムのハムスター?)
オモコロを読んでくださっている方なら、もちろん梨さんをご存知でしょう。もしご存知でない方がいたらこのリンクから記事を読んで怯えてみてくださいね。
昨年梨さんと株式会社闇が手がけた「怪文書」の展覧会、「その怪文書を読みましたか」は連日6時間以上の待ち時間となり、書籍化もされています。
そんな梨とタッグを組んで「行方不明展」のプロデューサーを担当するのは、テレビ東京の大森時生。
「このテープもってないですか?」「祓除」「イシナガキクエを探しています 」など数々のヒット作を手がけた新進気鋭のテレビプロデューサー、おまけに猫もかわいいときたもんだ。
この2人が組んだということは、展示品のクオリティに疑いの余地はないでしょう。
そしてなんと、オモコロ編集部のダ・ヴィンチ・恐山もディレクターとして参加しています。
ここまで見知った顔が多いと、オモコロ読者さんのためにある展示な気すらしてきますね。
さて、この記事は、事前情報だけで明らかに怖いことがわかっている行方不明展に、ホラー耐性ゼロのライターが行ってみたレポートとなっております。
(どうしてホラーが苦手かというと、学生時代に過疎地域の山奥に住んでいて、いろいろとシャレにならなかったからです。)
遠目にも異様な壁の前からこんにちは、オモコロライターのJUNERAYです。
ホラー作品はなるべく避けて生きてきたのですが、行方不明展は「人によってはまったく怖く感じない」という噂もあるので、持ち前の性格の明るさだけでなんとかしていきたいと思います。
行方不明展は、一部を除き写真撮影&SNSシェアOKとのこと。せっかくなので、この記事でも展示品のいくつかをご紹介します。
記事の最後には、梨さんと大森さんより特別にいただいたメッセージも掲載しておりますので、ぜひ最後までご覧ください!
※この記事で紹介する内容には、ご不安な気持ちを招く可能性のある表現が含まれます。こころの体調を崩されやすい方はご注意ください。また、自死等に関する直接的な表現はございません。
1階エリア 身元不明、所在不明
行方不明展は、身元不明の 「ひと」、所在不明 の「場所」、出所不明 の「もの」、そして真偽不明 の「記憶」という4つのセクションに分かれています。
会場は1階と地下1階に分かれていますが、順路はまず1階の「身元不明」エリアから。
身元不明 「ひと」の行方不明
足を踏み入れるとすぐ、天井まで所狭しと貼られた「探しています」の紙。
なにか穏やかでないことが起きていると、会場の外からガラス越しに見てもわかります。
展示物はすべてフィクションであるため、この紙に写った人々は、現実には存在しません。
展示概要にも「本展で紹介した行方不明者を捜索する必要はありません。」と強調されています。
それにしても存在しない人物の貼り紙を、よくこんなにたくさん作ったものです。
感心しつつも、写真の人がどことなく知人に似ていたりするとドキッとさせられますね。
人探しに使われる写真は、笑顔のものばかりです。
生暖かいリアリティをもって訴えかけてくる貼り紙を読んでいると、フィクションとわかりつつも「早く見つかってほしい」「身近な人たちが心配しているはずだ」という気持ちにさせられます。
ですが読み進めていくうちに、その気持ちが変化していくのも感じました。
『 市の民家の玄関に掲示された文書(2003年ごろ)』
ある民家の玄関に複数掲示され、定期的に文章が更新されていたそうです。
「今であれば放免とします」「言い訳はもう聞かないので」など、強い文言が並びます。
こちらを見上げる男性の朗らかな顔。
実在しないことはわかっています。でも、私はこの人がいなくなれてよかったと思いました。
少し歩みを進めると、貼り紙の内容が変化します。
「自分が誰かを失ったことだけがわかる」人々による捜索願。
「ゆうくん」という名前の人物に関する貼り紙(2014年)
行方不明になった「ゆうくん」の写真は存在せず、写真やイラストの切り抜きで、擬似的な似顔絵が構成されています。
その顔はとても歪です。
自分の頭の中に「ない」がある。何かがすっぽり消えてしまったことに気づいている。不自然な空白は対象の非実在性をより明確にし、他の代替物では埋まらない穴となって残り続けるようです。
不気味さと同時に、「こうするしかなかったんだ」と思わされる切実さも感じました。
会場の真ん中にぽつんと置かれた電話ボックス。
薄汚れていて、寂れた街の電話ボックスを丸ごと持ってきたような風情です。中に入っても良いとのことだったので重いドアを開けてみました。
解説文によると、電話ボックスの中にいた謎の人物は、「ちゃんと忘れるから心配しないで」と泣きながら繰り返していたそうです。
受話器に耳をあてがってみましたが、かすかなノイズしか聞こえませんでした。展示には映像や音声も含まれますが、ここはどうやら何もなかったようです。
もし、何かを聞いた人がいたら教えてくださいね。
1階部分の構造は少し複雑で、空間を右往左往するように進まなければなりません。
会場の建物の古さも相まって、はたしてどこからどこまでが展示物なのかも分からなくなってきます(立ち入り禁止の紙が貼られている扉すら展示物と思って開けてしまう人がいるとのことだったので、どうか皆さんお気をつけください)。
所在不明 「場所」の行方不明
こちらの展示はリアルな音声で体感できるゾーン。
「行方不明になる」ことに強い憧れを持っていた男性が残した告白音声ですが、しばらくすると蛇口をひねる音や、周囲で何かを引きずるような音が聞こえます。
音響の効果で、音は自分の前後左右から聞こえます。その生々しさは部屋の間取りや床の材質までわかるようです。
蛇口をひねる音が聞こえた方を振り向いたら、実際に蛇口がありました。
では「引きずられたもの」は、一体なんだったんでしょうか。背中のあたりがずっとうっすら寒いです。
「そこにあるはずがないもの」が突然現れると、不気味さと同時に荘厳さを感じます。儀式的というか、神がかり的というか、いずれにせよ奇妙なことです。
日本橋のビルの一角に、山積みにされた土。あたりはところどころ剥げかかって、太い麻縄のようなものが巻きつけられているのが見て取れます。
その背後に流れる映像で、土の正体が伺えました。
映像の内容は、「ここではない異世界へ行く儀式を行うため、山中の廃墟に下見に行く」というもの。下見といいつつ、荒廃し切った室内はすでに先人が何かを行っていた痕跡があり、フラフープのようなものが吊るされたまま残っています。
個人的にはこの映像が一番怖かったです
行方不明展にはジャンプスケア(急に何かが出てくるなど、びっくり要素)はありません。
幽霊や怪異も出てこないし、呪いや人の死など、ホラーとしてわかりやすいストーリーもありません。
それゆえに、見る側としては「こういうこともあるよな」と受け入れやすく、「もしかしたら、今まで自分が気づいていないだけだったかも」という気にさせられるのです。
夢の中でしかいけない場所ってありませんか?
私は大宮駅と仙台駅を足して2で割ったような、モール併設の駅がよく夢に出てきます。いつも閉店後の誰もいないモールから出られなくなるのです。
こちらは「夢の中でだけ行く街」の地図。
解説文には、“(この地図を描いた)彼は様々な事情から、この「夢」以外の幼少期の記憶を持ち合わせておらず” とありましたが、夢の記憶しかない人間に、どうして夢と現実の境がわかるというのでしょう。
この部分だけ見ると、まるで子どもの頃住んでいた町の記憶の記録のよう。
私もいちど、夢の中の町の地図を作ってみようと思いました。
解説文によると、インターネットで語られる都市伝説の中には、「異世界に行く」というジャンルがあるそうです。
マンガや小説のいわゆる「異世界転生モノ」は、冒頭でトラックにはねられるのがお決まり(?)ですが、もし異世界転生のきっかけが、もっと日常的な行為だったらどうでしょう。
『「エレベーターで異世界に行く方法」に関する映像』と題された展示。
4階、2階、5階、2階、10階。
10階に着いたら、そこで降りずに5階。
ひとりでエレベーターに乗り、この順序で階を上下すると、最後は異世界に辿り着くという都市伝説があるそうです。
映像に映っているのはごくありふれたエレベーターです。普段の使用において、偶然この順序で止まってしまうこともあるでしょう。
行方不明になったものの痕跡をたどるうち、なぜこの展示が「失踪展」でなく「行方不明展」と名付けられているかを理解しはじめました。
明日のちょうど今頃、あるいは来月、来年の今頃に、自分がどこで何をしているかわからないのは当然のことです。
「会社にいるはずだ」なんて予想もあくまで予想で、その時がくるまで誰にもわかりません。
たとえばもし通勤電車が事故で止まったら。
いつもとは違う道を歩むことになります。その道は自分には予測がつかず、見知らぬ場所に足を踏み入れてしまうこともあるはずです。早ければ、今日の夜にでも。
その点で、誰しもが「行方が知れない」存在としての側面を持っているのではないでしょうか。
地下1階エリア 出所不明、真偽不明
会場を移動して、地下へ。1階の展示とうってかわって、広々とした空間が広がっています。
出所不明 「もの」の行方不明
入ってすぐにお花のいい香りがすると思ったら、香水の展示がありました。
ある二世帯住宅で、大掃除の際に棚の奥から見つかった香水。家族のうち、4歳の男の子がなぜかこの香りを気に入って、捨てられずにいたそうです。
ちなみに家族の中で香水を使用する人はいなかったとのことです。
蓋を開けてみると、銘柄がわからない、しかし明らかにかいだことのあるような香りがします。
このあと、手に香水の香りがついて「何かをもらってしまった」ような嫌な気分になりました。
山中に立てられた看板。
タイトルが「!!志願者へ!!」なのが気になります。
それはいなくなりたい、消えてしまいたい、と願ったひとの前にごく稀に現れる
私のように選択を誤らないでください
こちらは何に宛てて書かれたものか不明な手紙と、供物。
もういちど扉を見せてください
前はおじけづいてしまいました
が、今度こそちゃんと入ります
これらの看板と手紙を書いた人々は、何かの機会を逃したことを、強く後悔しているようです。
彼らは山中でいったい何を見たのでしょう。
真偽不明 「記憶」の行方不明
家族で犬の散歩をしていたはずが、転んだ拍子にどこか不可解な場所に入り込んでしまう映像記録。
近年話題になったThe BackroomsやLiminal Spaceを思わせます。
※The Backrooms ……海外の都市伝説で、本来存在しないはずの場所に迷い込んでしまうというもの。
※Liminal Space……上記に関連して、本来人がいるはずの場所が閑散としている状態や画像を指すミーム。
Liminal Space的な画像を見ると、不気味さの中に奇妙な穏やかさというか、安心感を覚えることがあります。
それはきっと「この場所を見たことがある気がする」という感覚からくるものでしょう。
画質の低いホームビデオは(たとえ映し出されているものが心温まる家族の団欒だったとしても)ホラー映像で多用されてきた文脈のせいか、緊張感があります。
一方、本来あり得ないことであるはずの「異世界」の映像が、妙に穏やかに感じられる不思議な映像作品でした。
既視感にまつわるこちらの展示はどうでしょう。
『複数名が「行った記憶はないが懐かしさを感じる」と回答した図像』とタイトルが付けられた展示物。
3点並べられた画像のうちの1点ですが、この場所は実際には存在せず、生成された架空の景色だそうです。
でも、これ、都営地下鉄じゃないですか?? 本当に存在しない場所ですか? 会場に来る途中の道で見たような気すらします。
タイルの感じとか、上野駅や新宿駅っぽいですよね。ついこの場所を探してしまいそうです。
会場の隙間を覗くと、隠された展示物を見つけてしまうことがあります。一応隠されているものなので、この記事では内容は非公開にさせていただきますし、皆さんも探す必要はありません。
(↑覗かなきゃよかったと思っている)
行方不明展にはパンフレットやTシャツなどのグッズがあり、パンフレットには梨さんと恐山さんが寄せた文章も掲載されています。
グッズの中で、ひときわ異彩を放っていたのがこちら。
展示物ガチャです。
「これって誰がほしいんですか?」と言いかけたところに担当さんが颯爽と100円玉を出してくださったため、おそるおそる回してみます。めっちゃシカトすればよかった。
開けた瞬間「うーわ」と声が出ました。ぐしゃぐしゃで入ってるの、嫌すぎ。
こちらの展示物が当たり(?)ました。
不思議と生暖かい感じがします。これって持ち帰った後どうしたらいいんでしょうか?
トイレの壁とかに貼ったらいいですか?
さて、今回はホラー耐性ゼロの者が行方不明点をくまなく見て回りましたが、結論から言うと、特に強い恐怖は感じませんでした。
廃墟を探索する映像や、壁の隙間に挟まっていたアレなどは流石に「うわー」くらいは思いましたが、それも「ホラーの展示である」という背景ありきのものです。
もし日常でそれを目の当たりにしてしまっても、きっと「こういうこともあるもんだな、ちょっと不気味だな」くらいにしか思わない気がします。
ちなみに、行方不明展初日にテレ東で放映された特番をYoutubeで視聴することができます。
展示の様子がなんとなく伺えるので、行こうか悩まれている方はぜひ先にこちらをご覧ください。
3人目の女性が持っていた映像がけっこう怖めなので、ホラー苦手な方は人がたくさんいてワイワイしているところで視聴するのがおすすめです!
こちらの記事でご紹介した展示物は、全体のごく一部。
じっくり考えながら見ていくと1時間半くらいの展示です。猛暑が続く東京でヒヤッとした気持ちになりたい方は、ぜひ行方不明展に足をお運びください。
展示会場からのレポートは以上です! ここまで長らくお付き合いいただきありがとうございました。
最後に、繰り返しになりますがこの展示はフィクションです。
本展で紹介した行方不明者を捜索する必要はありません。
本展で紹介した行方不明者を捜索する必要はありません。
開催情報&梨さん・大森さんからの一言コメント
行方不明展 開催情報
会場:東京都中央区日本橋室町1-5-3 三越前 福島ビル
※東京メトロ「三越前駅」徒歩約2分開催期間:7月19日(金)〜9月1日(日)
開催時間:11時〜20時
※最終入場は閉館の30分前です。料金:2,200円(税込)
※期間内いつでも使える「期間有効券」と、土日など混雑が予想される日に使える「日時指定券」のいずれかが選択できます。主催:株式会社闇・株式会社テレビ東京・株式会社ローソンエンタテインメント
WEBサイト:https://yukuefumei.com/
X(旧Twitter):https://x.com/yukuefumeiten
■梨さんからのコメント
普段のオモコロ記事やいわゆる「怪談/ホラー」とは異なる、新たな読み味を目指しました。どなたでもお気軽にご鑑賞いただければ幸いです。
■大森さんからのコメント
「誰も自分のことを知らない場所に行きたい」と思うことがあります。本展を通して、その感覚を覚えていただけますと幸いです。