ソチ五輪EXPRESSBACK NUMBER
「龍一君の手」が決めたペアの縁。
高橋成美&木原龍一、奇跡の1年。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byShinya Mano/JMPA
posted2014/02/12 12:20
団体戦の直後、「60点くらいの出来です。もっとちゃんとできるのに、本番で力を出し切れないのは、まだまだということです」とコメントし、次回の五輪挑戦に意欲を新たにしていた木原龍一。
五輪のフィギュアスケート団体戦でチーム日本に貢献し、個人戦も18位と健闘した高橋成美&木原龍一ペア。'98年以来、16年ぶりとなる日本人ペアの2人が五輪に出場するまでには、奇跡的ともいえる出会いと成長があった――。
銅メダル獲得のペアを解消して、新たに挑んだ五輪。
高橋は、カナダ国籍のマービン・トランとペアを組み、ジュニア時代から国際舞台で活躍してきた。'12年世界選手権では日本ペア史上初となる銅メダルを獲得。五輪での活躍の期待も高まり、トランは一時期、日本国籍取得を目指したほどだ。しかし'12年オフ、高橋がケガで数カ月間リンクから離れることになると、練習方針のズレもあり、チーム解散を決意した。
一方、日本スケート連盟では、その前年となる'11年夏からカップル競技の結成をめざしトライアウトを行っていた。男女シングルの層は厚いが、ペアはリンクと指導者不足のために、競技者数が皆無に等しい。トライアウトは中京大のリンクで行われ、同大学の選手だった木原龍一も、転向を希望してはいなかったが呼ばれていた。
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お手本役として呼ばれていた高橋は、ペアの技を体験させるために木原と手を組む。その時、高橋は感じた。
「龍一君の手が、マービンの感触に似ている」
ペアは、女性に大きなケガのリスクがかかる競技だ。高くリフトされたり、投げられたりする。その2人を繋ぐのが「手」。命綱であり技の精度にも関わる重要な要素なのだ。'11年夏の出会いだった。
「五輪を目指して挑戦するのは、今しか出来ない」
'12年12月にトランとのペアを正式に解消した高橋は、木原の「手」を思い出し、日本スケート連盟も協力して木原を説得した。木原は言う。
「シングルが嫌になったとか限界を感じたとかではない。これが正しい道なのか長いこと悩んだ。ただ、五輪を目指して挑戦するというのは、今しか出来ないことだと感じて決断した」