果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて

こんぎつね

読了目安時間:4分

エピソード:99 / 150

【前話までのあらすじ】 宿屋モンタジュにて『形のない宝石』が城内にあるという情報を得たマイルは、古巣であるキャスリン城に侵入する。しかし、見張りの者の刃に傷つけられる。毒に侵され意識朦朧のまま子供部屋に辿り着いたマイルは、宝石を目の前に気を失ってしまった。 ◇◇◇

95話 一矢報いる黄花

 朝になるとライスとリジは、マイルがいない事に気が付いた。  城に忍び込むことになれば「一緒に付いて行く」と言いかねないライスを想い、マイルは偵察の日を2,3日後とぼやかしていたのだ。  大事を告げるため、夜通しキャカの発芽に取り組むギガウたちのいる畑へ2人は走った。  そこではギガウとミレクが地面に手を付け、地の精霊の力を注いでいる最中であった。  息を切らすライスとリジの前に姿を現したのは、アシリアだった。  「2人とも、どうしたんだ?」  「それが、マイルが城に行ったまま帰って来ないの。どうしよう」  『―私には知らないことだ―』  昔のアシリアなら、このように言っていたかもしれない。  しかし、今のアシリアは違う。  朝の大地は種の発芽にもっとも大切な時であるにも関わらず、ギガウの手を休ませると一緒に対策を考えてくれた。  「そいつは心配だな。ミレク、お前はそちら側の人間だ。悪いが、畑の成果を報告すると見せかけて、様子を見て来てくれまいか」  「ですが、ギガウ様。種は今が一番大切な時。中断してしまっては..」  「大丈夫だ。お前の分も俺の地の精霊フラカが受け持ってくれる」  「 ..わかりました」  ミレクが軽く身支度をして馬に跨った時だった。畑のあぜ道いっぱい、馬に乗った集団が近づいてくる。ミレクは目を細めて確認した。  「ギガウ様、大変です! レミン女王です。女王が自らやって来たようです」  ライスとリジ、ギガウとアシリアが顔を見合わせた。  マイルが捕まったことにより、畑の中止を告げに来たのか? 最悪、逮捕の文字がギガウの脳裏に浮かんだ。  だが、衛兵からは殺伐とした雰囲気もなく、レミンにいたっては大きく手を振っている。  「レミン様、おはようございます」  「ああ、ギガウ、良い朝だな。ところでキャカの種はどうだ?」  どうもレミンの様子から、城内で事件が起きたことは知らないようだった。ギガウはそれとなく探りを入れた。  「はい、私どもは夜通しキャカの種に精霊の恵を与え続けております。キャカを取り巻く土は改善し、種からも息吹を感じられるようになりました。レミン様におかれましては良い夜を過ごされたようですね。とても良い肌ツヤでございます」  「そうか? 見かけに依らず、女性への御世辞がうまいのう。しかし、お前たちがキャカの木を育てると聞いて、昨夜はとても良い気分で眠ることができた」  やはり城では大きな騒ぎはなかったようだ。もしも怪しい男が捕らえられたなら、こんな悠長な会話などないはずだ。  「あと、一息で種から芽が出ます」  「本当か!? 見物して行って良いか?」  「はい。どうぞ」  レミンは今か今かと落ち着かない様子で角度を変え、場所を変え、土を見つめていた。  ―パリパリ.. パリ  耳を澄ますと、何と殻が割れていく音が聞こえた。  すると間もなく、土を押し広げ柔らかな緑色の芽が顔を見せた。  あっという間に大きな双葉を広げると、周辺の空気がキャカの葉に吸い寄せられていくのがわかった。  「おお、これぞ、これぞ待ち望んだキャカの芽か。50年前に見たかったものよな..」  その芽を見つめるレミンは、悔しさとうれしさが入り混じった何とも言えない表情をしていた。そして続けてギガウを労うのだった。  「よく、やってくれたギガウよ。お前は私が死ぬ前に、あの時の悔しい想いに一矢報いてくれた。礼を言うぞ」  「お言葉ですが、その言葉はまだ早いです」  「なに?」  「よく見てください。これがチャカス族コラカの子であり、地の精霊に愛されたギガウの力です」  ギガウが ―ふんっ と力をこめると大地の中を何かが走り抜けた。すると双葉は本葉に代わり、茎がみるみる太く堅く成長した。枝は大きく張り出し、朝の光に映える若葉で埋め尽くされていく。そして、あっと言う間に2メートルを超える成木となったのだ。  「アシリア、頼む」  エルフのアシリアがキャカの葉に隠れると、花芽が急成長し、辺りを明るく照らすほど色鮮やかな黄色い花が咲き始めた。  「これはなんとも見事な!」  「レミン様、あと一日待っていただけますか。この木のことが、よくわかりました。このキャカの木は、種になる前の花を土に植えなければならないのです。私たちは今咲くこの花を摘み、それを大地に植えます。レミン様、この畑をキャカの花で埋め尽くしてみせましょう」  「ほ、本当か! それは素晴らしいな。約束だぞ。明日は私の父上も連れてくる。もしそれを見せてくれたら、お前の望むものを何でも与えようぞ」  興奮の為かレミンは、せき込みながら馬車に乗り込んだ。  馬車の窓から伸ばした手を大きく振ると、レミンはそのまま城へ戻って行った。  「ライス、今の様子からだと..」  「うん。マイルは捕まってないかも。でも、何しているんだろう」  「きっと、脱出する前に明るくなって帰れなくなったんだよ。あいつ、抜けてるところあるし」  いつものリジのきつめの言葉が今は、ライスを安心させた。 ** ―その頃、子供部屋で倒れたマイルは目を覚ました。  「こ、ここは.. そうか。俺は毒の為、ここで倒れてしまったのか..」  「気が付いたか? もう熱も下がったから大丈夫であろう」  温和な男性の声がした。マイルはおでこにのった濡れタオルを拭うと、その声の主を見た。  「ここは天国か? いや、俺が天国のはずないか。 あなたが、なぜこの場にいるんだ?」  「私にもわからないのだ。私は確かに娘を抱きしめた後、船に乗ったはずなのだが..」  マイルの目の前にいたのは、先代の王アアルクだった。それは子供部屋に飾られた水彩画のように若き姿のままだった。

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