果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて

こんぎつね

読了目安時間:3分

エピソード:100 / 150

【前話までのあらすじ】 畑に訪れたレミンの目の前で、キャカの花を披露したギガウ。レミンの態度から、潜入したマイルが捕まった感じはなかった。一方、城の部屋で目を覚ますマイル。マイルを介抱してくれたのは、前王アアルクであった。 ◇◇◇

96話 花摘み花植え

 夜通し、キャカの発芽のために精霊の力を使い続けたギガウとミレクには、休憩が必要だった。『まだ大丈夫』と無理をしようとする2人を宿屋モンタジュに強制的に帰すと、ライスとリジは、キャカの花植えの作業に取り掛かるのだった。  畑の土はギガウとミレクの精霊の力で活性化している。まずは握りしめたクワを土に沈めると、ひと掻きひと掻き土を掘り起こしていく。  土仕事に慣れないリジに、ライスは果樹園で覚えたロス仕込みの耕し方を伝授した。  ひと通り畑の耕し作業を終えると、ライスはキャカの木を見上げる。  「これはちょっと私たちには手が届かないね」  ライスは近くに農家を見つけると、物おじせず脚立を借りて来た。そしてリジから脚立を支えてもらうと、ヒョイヒョイと天辺にまで登ってみせる。そよ風が吹くとキャカの花の爽やかな香りが、作業をする2人を包み込んだ。  指先で丁寧にキャカの花を摘むと、背中の籠にホイホイと投げ入れていく。  「さすがライス、果樹園を手伝っていただけあって手慣れたものね。でも、ライスなら魔法や式紙を使って摘むこともできるでしょ?」  「うん、そうだね。でも、これがいいんだ」  下から見上げるリジは、陽の光に重なるライスの笑顔が眩しかった。  [ ―ライス! ちゃんと手で作業するんだ。愛情を込めてな―  ]  ライスには、あの懐かしいロス・ルーラの声が、今も聞こえているのだ。  「うん。わかってるよ」  「え? ライス、何か言った?」  「ううん。別に」  ・・・・・・  ・・  摘んだ花は籠2個分にもなった。  「結構、量があったね。中腰で腰が痛くなったよ」  「ははは。果樹園を再建する時は、もっと手伝ってもらうから覚悟してね」  脚立での作業をする2人を見守っていた農夫が声をかけてきた。  「お~い。若いの2人。おつかれさん。こっちに来て、うちで取れたアンラの実でも食べんかね」  「いいんですか!?」  「なに遠慮してるだ。ほれ、こっちに来なされや」  「やった!」  ライスとリジは走って、その農家のお茶の時間に混じった。  ***  翌朝、土に植えたキャカの花から新たな芽が出ていた。畑全体に、ギガウの精霊の力が浸透していたためだ。  そして、この後の作業は女王レミンと父親アアルクの前で行われた。  その2人の姿には誰もが違和感を覚えた。  70歳を超えるレミンは、アアルクをお父様と呼び甘えている。しかしアアルクの姿は、まちがいなく30代の男性の姿をしているのだ。  「ねぇ、アシリア。アアルクさんはエルフや精霊の仲間なの?」  「いいや、あれは普通の人間だ」  その時、アアルクがこちらを見た。  「やばっ 聞こえたかな..」  アアルクはそのまま歩いて近づいて来た。そして震える手を伸ばしアシリアの肩を掴んだ。  「き、君は.. 君は誰だ!? 君は私のことを知っているか?」  「 え.. いや、アアルク..さま?」  その奇妙な会話に周りの注目が集まってしまうと、アアルクは慌てて場を繕うように労いの言葉をかけた。  「よくぞキャカの木を復活させてくれた。礼を言う」  そして背中を向けると、足早にレミンのもとへ戻った。  「何だったんだろ?」  「 ..さぁ」  キャカ畑にギガウが両手を付け、ギガウの肩にミレクが手を置いた。  こうすることでミレクの精霊の力が、ギガウの精霊の力に上乗せされるのだ。  キャカの木は、瞬く間に枝葉を伸ばし、成木となった。レミンとアアルクはその不思議な光景に圧倒された。  そして、エルフのアシリアが、キャカの木の葉に隠れると、喜びを表すように黄色い花が一斉に咲いたのだ。そよ風は、辺り一面に爽やかな香りを運んで行った。  「おお、懐かしい花の香りだ」  「そうですわね、お父様。ほら、見て! 私たちがお花見したあの時のキャカ畑よ!」  「そうだな。ありがとう。君たちのおかげだ」  その時、咲き乱れるキャカの花々を、宿に置いてきた秘想石が映し出していることなど、誰も知らなかった。

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