会計公準論が教えてくれたこと:小さな事業を始めるには「まず個人と事業の財布をキッチリ分けること」がMUSTです
あけましておめでとうございます!2025年もよろしくお願い申し上げます。
新年を迎えるにあたりまして、皆さま今年の抱負も考えられていると思います。新たに起業しよう!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、副業解禁が世の中の流れなので、何となく、小さくても良いから事業を始めよう・・・という方も多いのではないでしょうか。
このnoteでは「何となく、小さくても良いから事業を始めよう・・・」という方向けに、まず最初に知っておきたいマメ知識・内容をお伝えします。
「まず個人と事業の財布をキッチリ分けること」
・・・これに尽きます。私が中小企業診断士登録しました2011年9月。この頃、支援させていただいた方に、ガーナ出身の女性の方がいらっしゃいました。彼女は「日本で児童英語保育の事業を始めたい!」との志を持たれ、起業したてのスタートアップ・ステージにいて、次の2点の課題がありました。
言葉の壁をクリアするための通訳スタッフとの連携、Excelの利活用、そして行政書士との連携など、さまざまな施策をすすめてきましたが、一番ポイントになったのが「Cash Book(現金出納帳)」を作成することです。つまり、事業用のお財布をキッチリ分けて帳簿に記帳しましょう!というわけです。Cash Bookの壁をクリアできたなら、あとは青色申告の壁は難なくクリアできます。(もちろん当時は、税務上の助言まで一切していません。)
つまり、事業の財布をキッチリ帳簿につける習慣が大切で、これさえできれば青色申告はクリアできるということです。便利なアプリもありますが、未知?のアプリへの抵抗もある方もいしゃっしゃるでしょう。決して難しいことを考えず、先ずはこのことを意識するだけでOKです。
以上、ガーナ人女性への支援を例にご紹介しましたが、彼女のケースは「起業しよう!」という事例でした。しかし、このnoteを読まれている会社員の場合、「起業までは考えていなくても、小さくても事業・副業始めたいなぁ・・・」と考えている方も多いのではと思います。
この「小さな事業」の開始。申告義務の20万円まで程遠く、まして青色申告なんて未だ先の話?と考えていると、後で痛い目に合うかもしれません。
事業が軌道に乗ってきて気が付くと、個人と事業の財布を分けるのが大変!
こうなると、ちょっと面倒な話になりますよね。よって金額の大小関係なく、小さくても事業を継続していきたい方には「まず個人と事業の財布をキッチリ分けること」をおススメします。
ちょっと前置きが長くなりましたが、このような実学的な内容。実は「財務会計の基本書」の多くは、本の最初の部分で「企業公準論」というテーマで解説しているんですよね。
しかし簿記検定の試験範囲では無いので、読み落としがち・・・。会計公準論ということで、次の3つの公準がありますが、名称からして「お堅い」!
このように、財務会計の基本書の最初に取り上げているにもかかわらず、あまり知られていないテーマを、このnoteでじっくり解説していきます。
0.そもそも会計公準論とは?
皆さん、簿記検定の勉強を進めていると、途中から「会計基準」を意識するようになります。そして日商簿記1級になると、この「会計基準」が試験科目である「会計学」の中で正体を現すことになり、2級まで何とか行けたけど、1級は手強いぞ!と感想を持たれる方も多いのではないでしょうか。
この「会計基準」・・・その背後に潜む「裏番長」的な存在が「会計公準」です。つまり会計公準なくしては、会計が成立しえないという意味で、会計理論や実務の基礎をなす基本的な概念や前提条件です。
「何だかアカデミックな内容だゾ・・・」と思われた方、冒頭に振り返ってください。マニアックな論点ですが、結構、実学的なところとリンクしています。では、具体的な内容を見てきましょう!
1.企業実体の公準
神戸大学の桜井久勝教授(以下、桜井教授)によりますと、著書である『財務会計講義<第25版>』(中央経済社、2024年3月25日第1刷発行)で、以下のとおり、企業実体の公準を説明しています。
簿記の勉強をしていますと、通常、株式会社の企業会計を想定しています。イメージ的には、会社と株主を明確に区別(所有と経営の分離)して財務報告を行うことと理解すれば良いでしょう。
別名、会計単位の公準ともよばれ、これによって初めて、出資者の個人的な財産や債務とは別に、企業の資産・負債・資本が識別されることになり、それらの変動を測定するための企業の会計が成立するのです。
企業会計の知識で「株式会社=所有と経営の分離」は知られていますが、個人事業主でも、会計の世界では企業は出資者から独立した存在が前提になる訳です。
冒頭でご紹介しました、ガーナ人女性の支援の事例でも、まず事業の第1歩には「企業実体の公準」が大切ですヨ!・・・というお話です。もちろん彼女に「公準のコの字」もお話していませんが。
2.継続企業の公準
桜井教授によりますと以下のとおり、継続企業の公準を説明しています。
これは会社が倒産しないことを前提に財務報告を行うことを意味します。勘の良い人は気付いたかもしれません・・・そう「ゴーイング・コンサーン」のことです。
ちょっと上図②に倣って、「プチクイズ形式」で見てみたいと思います。
【プチ会計クイズ】
2,000万円の機械設備を購入しました。自社専用の特殊な設備のため転売不能。処分する場合は100万円になります。いくらで会計報告する?
答え:2,000万円
会計には「継続企業の公準」という前提があるので、基本的には固定資産も取得価額で計上して、減価償却するんですよね。
現在の企業は、解散を前提とはせず、永遠に存在し成長し続けることを目指して経営されています。企業の会計は人為的に期間を区切って、経営成績や財政状態の測定をしなければならないということです。
この人為的に区切られた期間は「会計期間」とか「事業年度」とよばれ、通常その長さは1年間。その1年の最後の時点を「期末」または「決算日」といいますが、日本の場合は圧倒的に多数の上場企業が3月31日を決算日に決めています。
※ご参考:ゴーイング・コンサーンの歴史
ちなみにこのゴーイング・コンサーンの考えは、1600年ごろに誕生しています。世界初の株式会社である「東インド会社」です。
イギリス東インド会社「EIC」は航海ごとに生産する方式を採用していましたので、航海期間=会計期間になっていました。
対してオランダ東インド会社「VOC」では、いちいち清算することはせず、企業は継続することを前提にしていました。現在のゴーイング・コンサーンの原型です。
これによって、人為的な会計期間である「年度」という概念が誕生しました。詳しくは、以下の記事をご覧いただければ幸いです。
3.貨幣的測定の公準
桜井教授によりますと以下のとおり、貨幣的測定の公準を説明しています。
これは財務報告において、貨幣(金額)という統一的な尺度により行うことを意味します。
企業が取り扱う財やサービスは多種多様であり、その物理的な測定単位も多種多様。そのために共通の尺度が貨幣額であり、各種の財やサービスの測定尺度として貨幣額を用いることによって初めて、企業活動の統一的な測定と報告が可能になるわけです。
※ご参考:標準原価計算の成り立ち(貨幣的公準の適用例)
会計学というより、経営学の分野でF・W・テーラーの「科学的管理法」という用語を聞かれた方もいらっしゃると思います。繰り返しますが、会計学というより、経営学の分野。
そしてF・W・テーラーの「科学的管理法」を取り込んで「原価についての標準」を提唱したのがH・エマーソンで、標準原価計算の成り立ちといわれており、前提に「貨幣的測定の公準」がありました。
つまり標準原価計算のルーツには、あの「科学的管理法」と「貨幣的測定の公準」がつながっていたというわけです。
原価計算についてもっと知りたい方は、ぜひ拙著をご参照いただければ嬉しいです(宣伝となりスミマセン・・・💦)。
以上、いかがだったでしょうか。今後もっと増えることが予想される「副業解禁」。この中で、会社員の皆さんも「何となく、小さくても良いから事業を始めよう・・・」というニーズも増え続けると考えています。
この中で「財務会計の基本中の基本」でありながら、ややマニアックである「会計公準論」にスポットを当てて解説してきました。
事業を始めるには、税金や社会保険の知識も必須!!・・・他方で「税金」と「会計」とは全く別物なので、会計もテーマに2025年はnote発信できればと、今年の抱負として考えています。税金についてもっと知りたい方は、ぜひ拙著をご参照いただければ嬉しいです(宣伝となりスミマセン・・・💦)。
<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>