会計の勘所である財務会計の2大機能は、歴史を読み解くことでイメージできる!
会計の知識は、とても重要だといわれています。というのも、情報技術、英語とともに、会計がビジネスパーソンの「三種の神器」だと言われてきたのを聞いた方もいらっしゃるかもしれません。
他方で会計の勉強はシンドイとのお話も聞きます。
「なぜ、会計の勉強はしんどいのか?」
会計の勉強を始めるとき、最初に簿記(ひたすら電卓をたたくイメージ)の勉強から入る人が殆どだと思いますが、経理部門以外の人々にとって、ご自身の仕事とあまりにもかけ離れていて、会計の知識に辿り着く前に、簿記に嫌気がさす方も多いのかもしれません。
「簿記の知識が不十分だけど、文章の形で会計の知識を習得したい!」
このような声も聞こえてきそうです。そこで会計の文書を書く際の「会計の勘所」である「財務会計の二大機能」をしっかり理解できるようにするのが、当noteの目的です。せっかく勉強するのだからたのしく、歴史を紹介しながら、ストーリー立てて説明していきます。
では「財務会計の二大機能」とは一体何なんでしょうか?会計論文を書く際には、この「財務会計の二大機能」を丁寧に意識しながら記述すると、網羅的・説得的に説明できるのではと考えています。
・・・なんだか小難しい専門用語のオンパレードで、会計アレルギーが、よりひどくなりそうですよね。でも、この2点がとても重要!・・・これからイラスト中心の説明で、たのしく勉強していきましょう!
1.証券市場への情報提供機能
書店で売っています「会計の本」では、通常、私的利害の調整機能と並んで「財務会計の機能」ということで、本の導入部分で説明していきます。本当ならば、本全体を読んで一通り理解した後に読み返すのがおススメです。
でも、この読み方は「経理を専門とするビジネスパーソン向け」の読み方であり、会計の本って、必ずしも「経理を専門とするビジネスパーソン向け」ではないんですよね。生産部門や営業部門の人が読まれたりと、会計を専門「外」とするビジネスパーソンも多く読まれます。
そこで、いきなり各機能の説明をするのではなく、会計の歴史を切り口から入ろうという訳です。
「会計の歴史上の人物、誰を連想しますか?」
読者の皆さんの中には「ルカ・パチョーリ」などの名前も挙がったかもしれません。でも15世紀中世と会計制度を語る上では昔すぎます。会計といえば証券市場も無視できません。少し後の世の歴史上の人物を考えましょう。
1-1.会計を語る上で、フランクリン・D・ルーズベルトは不可欠!
私はこの人を推します。会計以外でも有名人です。アメリカの大統領!
フランクリン・D・ルーズベルト(以下、ルーズベルト)は「ニューディール政策」で有名だと思います。1929年10月24日に発生した世界大恐慌「暗黒の木曜日」、ニューヨーク株式市場大暴落。
当時の大統領であったハーバード・C・フーヴァー(第31代アメリカ大統領)は、この世界恐慌に対しては有効的な対策を取れないまま大統領職を退きました。そして後任の第32代アメリカ大統領となったルーズベルトは1933年4月から「ニューディール政策」と呼ばれる、政府による経済への介入(積極的な公共投資などの経済政策)を実施したのは有名なお話です。
で、話は戻しまして1929年10月24日のニューヨーク株式市場の大暴落。当時は今ほど証券取引所は整備されておらず、多くの投資家たちは財産を失い自殺者も多数出たといわれています。
この立て直しで、ルーズベルトは積極的な公共投資などの経済政策をしていますが、公共投資というとハコ「モノ」財政。皆さんビジネスをするうえでも「モノとカネの両方の流れを見ろ!(いわば物流と商流)」と言われるように、モノだけ見ていると片手落ち。カネの流れもキチンと知っていたいものです。
そこで上図①の「クリーンな場として証券市場の再生」にルーズベルトは目をつけます。そしてジョセフ・P・ケネディを起用。SEC (Securities and Exchange Commission、アメリカ証券取引委員会)の初代長官に任命しました。上図①の右上の丸メガネのオジサンです。
1-2.投資家保護のジョセフ・P・ケネディ(ジョー)は何者?
投資家保護で「ヒーロー登場?」と思いきや悪人顔。でも実績高いです。
ジョセフ・P・ケネディは、ジョン・F・ケネディ(第35代アメリカ大統領)の父親です。このnoteは会計がテーマなので、有名でない方の父のジョセフ・P・ケネディがメインですが、大統領である息子と区別するため、単に「ジョー」(=ジョセフ・P・ケネディの「ジョセフ」の短縮形)と表記させていただきます。
上図②の右上でルーズベルト大統領が冷や汗かいていますとおり、実は、ジョーはかなり悪名高い人。ジョーは株式市場や不動産・動産投資によって莫大な富を築いていますが、今でいう「インサイダー取引」で富を築いており、SEC(Securities and Exchange Commission、アメリカ証券取引委員会)の初代長官に任命された当時も、多くの批判がありました。就任当時も、マフィアのボスたち?と組んで仕事をしていたとも言われています。
他方、ジョーのSEC初代長官としての仕事ぶりは素晴らしく、アメリカ会計基準の設定、公認会計士による監査制度の確立、ディスクロージャー制度の拡充、さらにはインサイダー取引の禁止など「証券市場の整備」を行いました。
1-3.あらためて「情報提供機能」の意味
このようにジョーは証券市場の発達に貢献したといえます。20世紀にもなりますと企業活動はグローバルに展開し財務会計も、後述する「私的利害の調整機能」だけではなく、新たな公的な機能を持つようになってきました。
今では当たり前のことですが、証券市場の発達は、不特定多数の人々が株式や社債などの証券取得を通じて容易に株主や債権者になることができますよね。これは会計報告の受け手(つまり「投資家」)にとって、投資意思決定のため、財務会計が機能しているわけです。
ところで「株主」と「投資家」の違いについて、説明できますか?
コレはまさに… 用語で「似ているけれど違うもの」 を意識することです。違いを意識できるようになると、ただの用語の羅列ではなくなり、両者は別物として活き活きとしてきます。 会計の「情報提供機能」の理解の 第一歩でしょう。
ジョーは「潜在的投資家」の保護を目的として、上図②の証券市場の整備と会計改革に着手し、会計の提供機能を拡大してきました。これが投資家保護のもとで行われたディスクロージャー制度です。
以上のまとめとしまして、下図③をご覧ください。
繰り返すようですが、ジョセフ・Pケネディー(ジョー)はかなり悪名高い人。世界恐慌時にはマフィアのボスたち?と組んで仕事をしたり、当時規制がなかったインサイダー取引によって、富を築いてきました。
おそらく、ジョーをSEC初代長官に起用したルーズベルト大統領は「毒をもって毒を制す」と目論んでいたのではと理解します。例えるなら、堅固なセキュリティソフトを開発するために、開発メンバーに敏腕ハッカーを参加させるように。
とにかく財務会計の「証券市場への情報提供機能」の歴史的発展を語る上で、ルーズベルト大統領とジョーの2人抜きには語れないのでは、と考えています。
1-4.投資家への情報提供が不十分であると・・・
これから「そもそも論」を語ります。
さきほど「証券市場の発達は、不特定多数の人々が株式や社債などの証券取得を通じて容易に株主や債権者になることができます」と説明しましたが、経済学的にどのように説明できるのでしょうか。
皆さん、経済学で「レモンの市場」を聞いたことはありますか?
いわば「市場の失敗」の事例で説明され「悪貨は良貨を駆逐する」と似た言葉です。元々は、国内に価値は異なるが同じ名前の貨幣があり、質の良い貨幣は貯蔵され市場に出回らず、質の悪い貨幣ばかりが世の中に流通してしまうことを表す言葉です。
また「中古車市場での欠陥車」でも同様の事象が発生します。一部の中古車には欠陥車が含まれており、その所有者である売手は自身の中古車の品質の良否を知っているが買手はその情報を持ちません。この情報のもとでは、売手が品質の良い中古車を市場に出しても、買手はそれが欠陥車であることを疑うので、安い値段しか提示しない・・・そのため品質の良い中古車の持ち主は、市場に車を売りに出さなくなり、やがて市場は欠陥車ばかりが出回り、買手がつかなくなって、最後に市場が崩壊するという事例です。
これらが転じて、近年は「悪いものほど世の中に流通し、良いものは失くなってしまう」「悪がはびこると、善が滅びてしまう」といった意味合いで使用されます。
これは、証券市場上の会計情報でも同じことが言えます。
万一、証券の発行企業から投資家への情報提供が不十分であると、資金配分の場としての証券市場が上手く機能しなくなることは、2001年にノーベル経済学賞を受賞しましたアカノフが「レモンの市場」と題する論文で説明しています。
下図④のとおり、レモンとは、外見上はオレンジに似ているが中身は酸っぱくて食べられないという意味で、欠陥品の例えに用いられています。先ほどの「悪貨」「欠陥車」と同様です。証券市場でも、売手が買手に対して積極的な情報提供しないと市場は崩壊します。
下図④下半分に即して説明しますと、A社は財政状態がボロボロで落ち目の企業である反面、B社は将来性のある企業。しかし潜在投資家にとって、もし会計情報が整備されていないと、A社株式とB社株式どちらが将来有望か判別できず、本来B社のような株式投資したいにもかかわらず、財政状態ボロボロのA社株式を購入してしまうリスクがある・・・なので「投資は止そう」との判断になりかねないということです。
上図④から明らかなように、企業から投資家への情報提供は、証券市場を成立させるための必要不可欠な要件です。そして、そのような情報提供の重要な手段としての役割を担っているのが、貸借対照表や損益計算書を中心とした財務諸表なんですね(・・・やっと「会計」っぽくなってきた!)。
したがって、財務諸表のディスクロージャー制度は、経営者・株主・債権者の間の私的な利害調整を超えて、現在では証券市場を円滑に機能させて資金の効率的な配分を促進するという「公的な役割」を果たしているのです。
1-5.グローバル化する投資家への情報提供と国際会計基準
読者の皆さんの中には「IFRS」という単語を、一度は耳にされたことがあるかもしれません。正式名称は「国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)」です。
こんにちのグローバル化した経済に対応するため、会計基準の国際的な統合も積極的に推進されています。今まで説明してきました証券市場への情報提供機能を担う、いわば「ルール」となります、会計基準が国ごとに相違しますと、投資家の投資判断で困ってしまい、企業にとっても資金調達の妨げですので、会計基準の国際的統合は必要不可欠な取り組みでしょう。
会計基準が国ごとに相違するという不便を回避する目的で、世界中で通用する会計基準の形成を目指して、1973年に主要国の会計士団体が集結して「国際会計基準(IAS:Internationai Accounting Standards)」を設定する活動として開始され、2001年から会計士団体とは独立の「国際会計基準審議会(IASB:International Financial Reporting Standards)」がこれを継承して、今日においては「国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)」という名称で会計基準の設定を継続しています。
結果、国際会計基準(IAS)と国際財務報告基準(IFRS)が現在有効な基準として存在しており、これらを一括して「国際会計基準」と総称されています。以降、イメージがつきやすいように国際会計基準のことを「IFRS」と表記します。そしてビジネスパーソンである皆さんにとって、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
「何かとIFRSが話題だが・・・ウチの会社は関係あるの?」
例えば中小企業など、上場会社や有価証券報告書とは一切関係ない非公開の会社。これらの会社は決算書作成時に、今まで説明してきました「証券市場への情報提供」など意識していないはずです。よって国際会計基準のお話とも無関係。そこで下図⑤をご覧ください。日本企業の場合、非公開会社とはタイプCの会社になります。
ちなみに公開企業とは、自らの株式を証券取引所で公開し、誰でも売買可能にしていることを意味します。その証券取引所がグローバルに開かれた以上、世界の投資家を相手に決算書をディスクローズしないといけません。
下図⑤で言いますと、タイプAとタイプBの会社が「国際会計基準」の導入影響を受けることになります。
ところで上図⑤をよく見ますと、日本側は「孤立?」と悲観的ですが、アメリカ側は「いつかはIFRSと統合~♪」と楽観的なイラストにしています。何かありそうですよね・・・この辺をザックリ説明します。
IFRSはEU諸国によっていち早く採用され、EU域内の企業には2005年から国際会計基準に準拠した連結財務諸表の公表が強制されるようになりました。これが皮切りに、世界中で急速に採用が進み、EU諸国の他、カナダ、中国、インド、韓国、ASEAN諸国、アフリカ諸国など、世界の主要国のほとんどがIFRSを採用しています。そして世界に存在する主な会計基準は、IFRS、アメリカ基準そして日本基準の3つとなっています。
ではアメリカと日本の対応はどうなっているでしょうか。アメリカではアメリカ基準に加えて、2007年よりIFRSを受け入れ、それに追随(?)する形で日本でも2009年4月以降に開始する年度からIFRSを受け入れています。
結果、日本おいて準拠する会計基準として、①日本基準のほかに、②アメリカ会計基準および③IFRSのいずれかを採用するという、かなり複雑な形で進んでいるのが現状です。ちなみにアメリカは「アメリカ基準かIFRSか?」というレベルではなく、もっと大きな世界を見ていると言われています。ぶっちゃけ、アメリカは「2007年にIFRSを受け入れてやった・・・ただIFRSを牛耳るのはアメリカだぜぃ!」との勢いで、アメリカ基準とIFRSとの統合を狙い、着々と準備も進めている・・・結果、日本基準は孤立しかねません。
ただでさえ会計基準の国際化は複雑で、日本国内の会計基準の新設や改廃に際しては、IFRSとの調整が重視されることが多いです。どちらの基準による財務諸表を利用しても同一の意思決定結果に到達するレベルにまで合致させることを「コンバージェンス」(convergence:収斂、統合とも訳されます)といいます。現在、日本基準とIFRSの主要な差異を解消するように、改訂する方向で進行しています。
2.私的利害の調整機能
※ここでハーフタイム・・・全体像をまとめます
以上、情報提供機能について見てきましたが、いかがだったでしょうか?IFRSが絡んでくると、ちょっと難しく感じられた方も多いのではないでしょうか?下図⑥で言いますと、下半分の20世紀からのアメリカ中心について見てきました。このnote記事後半は、上半分の17世紀からのオランダ中心に「利害調整機能」について見ていきます。
通常の財務会計の教科書では、利害調整機能の説明をした上で、情報提供機能の説明をすることが多いと思います。このnoteで順序を逆にしたのは、現在の会計のリアルを最初に感じていただきたいためです。上図⑥のとおり、会計の「情報提供機能」が求められ始めたのも歴史的に比較的最近なんですよね。だからリアル!・・・でも変化が激しくて説明が複雑でした。
これから後半は、中世から求められていた、会計による「私的利害の調整機能」です。歴史が古い分、リアルさが欠けます。でも会計を理解するうえで是非知っておきたい知識。中世・近代の世界史を学ぶつもりで、たのしく気軽に読んでいただければ嬉しいです。
2-1.坂本龍馬登場?・・・まずは株式会社の仕組みを知ろう!
これから財務会計の「私的利害の調整機能」について見ていきます。舞台は上図⑥で見ました通り、17世紀オランダ。ところで当時のオランダって、どのようなイメージを持たれますか?
「江戸幕府と貿易していた数少ない国。商売の国オランダ!」
16世紀のオランダは、カトリック色の強いスペインの支配下にありましたが、弾圧を受け続けていたプロテスタントたちの手によって、スペインから独立。宗教に対して寛容の精神で臨んだため、プロテスタントだけではなく、カトリックの信者も集まり「商売の国」として発展。日本の江戸幕府とも交易がありました。舞台はこのオランダから、財務会計の「私的利害の調整機能」について見ていきます。
17世紀のオランダ舞台に、財務会計の私的利害の調整機能が発展してきましたが、日本に入ってきたのは明治時代。また私的利害の調整機能をシッカリ理解するうえで、株式会社制度の特徴も掴むことが不可欠です。
実際、日本初の株式会社は、1873年に渋沢栄一が設立した第一国立銀行(今のみずほ銀行)です。その株式会社の仕組みは、世界で見ると17世紀のオランダで誕生しています。更に言いますと株式会社では、株式を発行しますので、前掲「1.証券市場への情報提供機能」で説明しました証券取引所も当時のオランダで誕生しています。
財務会計を理解するためには、株式会社制度の特徴もおさえましょう!現在でもグローバルで発展している会社は株式会社の形態ですよね。なぜでしょうか?
株式会社形態の企業が繁栄している最大の理由は、経済活動を営むのに必要な資本を調達する点で、最も有利だからです。ポイントは次の2点です。
現在の世界的な巨大企業の多くも、設立時は事業主みずからが自己の資金を出資し、みずから経営を行う「個人事業主」として開始。企業規模の拡大に必要な資金は、利益の再投資や血縁者・知人などから出資を募り、さらには銀行からの借入によって調達されます。しかし、これでも限界があるので事業主とは人的関係のない不特定多数の出資者から資金調達できる仕組みとして「株式会社」制度が誕生しました。
しかし株式会社の資金調達方式は、関係者の間に利害対立の可能性を生みだすことになっています。
利害対立の一つは、株主数が増加して分化が進み、経営業務に関与しない一般株主が、経営陣の業務執行の誠実性に関して不信をいだくことになりました。もう一つは、株主は出資額を上限とする「有限責任」であることから「債権者」の立場を相対的に不利なもの(例えば会社清算時に株主より債権者に優先的に分配するなど)にした結果、株主と債権者との間にも利害対立を生みだすことになりました。
これら経営者・株主・債権者の間の利害関係を調整する一つの手段が、財務会計による「利害調整機能」というわけです。
2-2.オランダ東インド会社…略して「VOC」誕生!
話を17世紀オランダに戻します。オランダ東インド会社のことを以後、略して「VOC」(Verenigde Oost-Indische Compagnie)と表記します。株式会社と証券取引所が誕生した背景を知ることで、財務会計の「利害調整機能」をより深く理解することができるでしょう。
まさに某アニメ?の「時は大海賊時代・・・」のような時代背景です。1602年にオランダは、イギリスから2年遅れて東インド会社を設立しました。当時のオランダは、造船から海運、そして貿易まで幅広く商売を展開し、ヨーロッパの経済中心地となっていました。数か月にわたる長い航海の旅は、厳しい反面稼ぎも多かったと言われています。航海での商売は、宿敵であるスペインやポルトガルと衝突することが多く、安全かつ大砲を備えた強力な船を造り、スペインとポルトガルに対応していたと言われています。
荒くれ者が集まる遠洋航海の背景にビジネスがあり、そのビジネスのツールとして15世紀イタリア発祥の「簿記」の技術を活用。そして世界初の株式会社誕生と、とても興味深い時代背景ですよね!
補足までに、なぜ先に誕生(1600年)したイギリス東インド会社「EIC」(East India Company)ではなく、後にできた(1602年)オランダ東インド会社「VOC」(Verenigde Oost-Indische Compagnie)を中心にみているのでしょうか?答えは、会計期間の考え方にあり、オランダ(VOC)の方が、現在の財務会計の原型に近いからです。
会計期間は航海期間です。イギリス東インド会社「EIC」は航海ごとに生産する方式を採用していましたので、航海期間=会計期間になっていました。対してオランダ東インド会社「VOC」では、いちいち清算することはせず、企業は継続することを前提にしていました。現在のゴーイング・コンサーンの原型です。これによって、人為的な会計期間である「年度」という概念が誕生しました。
2-3.VOCのビジネスを知ることで「会計」も知る
世界初の株式会社は、香辛料などの東方貿易のために設立した東インド会社(VOC)です。荒くれ者が集まる遠洋航海のイメージ通り、非常にリスクが高く、無事帰って来られる可能性は決して高いものではありませんでした。一方で、遠洋航海に必要な資金、例えば大型船の建設に加え、港湾の整備など高額に上りますが、そのようなリスクの高いビジネスに1人で多額の資金を出す人などいません。そこで株式会社の「所有と経営の分離」です。
東インド会社(VOC)では、これまで一致しているのが当たり前であった所有と経営を分離し、出資額を小口化し、経営に携わらない人は少額の出資、しかも出資額を上限とする有限責任のみ負うようにしました。そうすれば、仮に航海が失敗しても、個々の出資者が被る被害は最小限で済みますから、資金を出しやすくなります。1人の出資額は少額でも、多数の人から資金を調達できるので、結果、多額の資金調達が可能になります。
あと忘れてはいけないのが、出資者の動機。東インド会社(VOC)は株式の購入金額に応じて、株主に「儲け(=インカムゲイン)」を配当しています。株主はその配当金の他に、株を売却して設ける「売却益(=キャピタルゲイン)」も得ることができるのです。
こうして下図⑨のように、東方貿易というリスクの高いビジネスにおいて多額の資金を調達することを可能にしたのです。今では当たり前になりました「株式会社」と「証券市場」の原型と言えます。
これで「株式会社」と「証券市場」の基本的考えはざっくり理解できたと思いますので、これからが本題!・・・財務会計の機能に絡めて、以下説明していきます。
出資者である株主たちは、乗組員たちが東方貿易を成功させ、出資額以上のお金を返してもらうことを期待しています。お金持ちである貴族たちが出資者のイメージでしょうか。
港を出てしまえば乗組員たちは、出資者である貴族の目の届かないところに行ってしまいます。長い航海です。荒くれ者の多い乗組員が真面目に任務遂行するでしょうか?
それで出資者である貴族たちは、航海中の乗組員たちにお金の出入りを記録させ、航海から港に戻ってきたら報告させる仕組みを作りました。これが財務会計の原型です。現在もおこなわれている定時株主総会の仕組みと全く同じで、今の会社に置き換えますと、以下のとおりです。
2-4.オランダ東インド会社「VOC」の転落から学ぶ会計のあり方
いよいよ最終パートです。その後の情勢変化にともない、オランダとかつての盟友国イギリスとの関係は悪化し、ついには戦争が始まり敗戦。
かつての経済大国であり、技術大国でもあったオランダは急速に力を失い衰退し、1798年 オランダ東インド会社「VOC」はおよそ二百年のその幕を閉じることになりました。
そして下図⑩をご覧ください。オランダ東インド会社「VOC」の転落。オランダ国力の低下(①)以外、②~④が会計的に重要になってきます。
第1に、高すぎた配当(②)です。ビジネスのもうけは株主への配当だけではなく、内部留保して、次期以降の投資や運用資金に回さなければなりません。しかし、配当は適正に計算されたものでは無く、配当をやり過ぎてしまい、そのため手元の資金が不足し、借り入れに頼るようになり、最後はついに経営が立ち行かなくなってしまいます。
ビジネス面から見ましても、イギリス東インド会社「EIC」との競争で、主力商品である香辛料の価格が下落・・・にもかかわらず、儲けの少ない香辛料に固執し、需要の高い絹・綿織物にシフトできていなかったともいわれています。
第2に、ずさんな会計(③)です。香辛料や絹・綿織物などの商品別の儲けがわからない状況で、正しい経営判断はできていなかったと言われています。また株主に対して、適切な会計報告が行われず、さらに監査制度もなかったので株主からの怒りを買ってしまっていました。
第3に、不正に対する甘さ(④)です。現在の会社に例えても、従業員が平気で盗みを働けるような環境では、株主は安心して会社に出資できませんよね。ましては、荒くれ者の集まる乗組員。「商品を盗むな~!」と言っても意味がなく、それを防ぐチェック機能がないと、株主からすれば安心して出資できません。この仕組みは、後にコーポレート・ガバナンスとよばれるようになります。
このような、オランダ東インド会社「VOC」の転落からの「気づき」が、以後の会計制度の発展のヒントになっているのかもしれませんよね。
以上、財務会計の機能と制度をテーマに、歴史的な切り口とイラストで説明してきました。このテーマは、通常のテキストの一番最初に記載される論点。いわば「財務会計の勘所」なので、この勘所の感性を磨くことで「会計がたのしい!」と感じられるのではないでしょうか?
今回は「財務会計の機能と制度」をテーマに扱いましたが、通常の読者の皆さんが抽象的で苦手意識の高い「会計理論」のテーマは以下のnoteでじっくり解説しています。併せて読んでいただける幸いです。
「簿記の知識が不十分だけど、文章の形で会計の知識を習得したい!」
冒頭に述べました読者ニーズ。このnoteがきっかけとなり「会計がたのしくわかる!」ようになれば、執筆者として望外の喜びです。自称ですが『日本一たのしい会計の授業』のつもりで、このnoteを執筆しましたので。
<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>