「これはあなたのためのフェスです」──そう語るのは、ロッキング・オンとサマソニが共同で立ち上げた、100%洋楽ロックだけにこだわる新フェス『rockin’on sonic』の仕掛け人・山崎洋一郎だ。
2024年1月4日(土)5日(日)、千葉・幕張メッセ国際展示場に集結するのは、PULP、Weezer、Primal Scream、Death Cab for Cutieといった豪華ラインナップ。さらに、若手バンドのWEDNESDAYやセイント・ヴィンセントといった幅広い世代のアーティストも登場する。全16組のステージは「タイムテーブルの被りなし」で展開され、洋楽ロックの「今」と「これから」を存分に堪能できるだろう。
洋楽不振と言われて久しいなか、このラインナップはある種のノスタルジーを感じさせながらも、時代を超えたロックの力を改めて問いかけている。ロックとは、単なる進化ではなく、受け継がれ、混ざり合い、新たな価値を生み出すもの。長年音楽雑誌を作り続け、洋楽シーンを見つめてきた山崎が、このフェスに込めた思いと期待を語ってくれた。
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洋楽不振の中、ある種「開き直り」に近い気持ちで立ち上げたフェス
─ラインナップを拝見して、「これって俺のためのフェス?」と思うくらい本当にツボで(笑)。周りでも30代半ばから50代の洋楽ファンが、「こういうフェスを待っていた!」などと喜んでいる声をよく耳にします。
山崎:ありがとうございます。「これはあなたのためのフェスですよ」と、僕も会う人ごとに言って回っているんですよ(笑)。
─『rockin’on sonic』、通称『ロキソニ』を立ち上げるに至った経緯や、洋楽ロックフェスというテーマに込めた思いを聞かせてもらえますか?
山崎:「洋楽不振」と言われて久しいですが、僕自身もそれを日々痛感しています。音楽雑誌の編集長を長年務めてきた中で、洋楽を聴く人が確実に減り、熱量も薄れているのを目の当たりにしてきました。特に若い世代が洋楽に触れる機会が減っているのは明らかです。
ただ、その一方で、若い世代の洋楽への接し方がここ数年で変わってきているのも感じます。サブスクリプションサービスの普及や邦楽アーティストの影響で、以前とは違う形で洋楽に触れている人が増えている。とはいえ、「洋楽不振が改善したからフェスをやる」というわけではありません。状況は依然として厳しい、それでもやるしかない。『rockin’on sonic』は、そんなある種「開き直り」に近い気持ちで立ち上げたフェスなんです。
─『rockin’on sonic』は『SUMMER SONIC』を主催するクリエイティブマンとの共同開催ですが、それはどんな経緯だったのでしょうか。
山崎:クリエイティブマンさんとは洋楽を通じて長年お付き合いがありましたので、「洋楽イベントをやるなら一緒に」と真っ先に考えました。特に洋楽の場合、海外アーティストのマネジメントとどうパイプを作るかが非常に重要です。ロッキング・オンは『ROCK IN JAPAN』や『COUNTDOWN JAPAN』などのフェスを長年主催してきましたが、洋楽フェスの経験はありません。クリエイティブマンさんの力がどうしても必要だったんです。
僕自身、『FUJI ROCK FESTIVAL』も『SUMMER SONIC』も初回から毎年欠かさず足を運んでいます。『フジロック』は、なんといっても山の中の幻想的な空間が魅力ですよね。一方、『サマソニ』には都市型のフェスならではの機能性と効率性があります。しかも関東と関西の2拠点開催で、多くの人が参加しやすい形をとっている。個人的には、そこが「ロックらしさ」を感じさせる部分だと思っていました。『フジロック』のロマンも素晴らしいですが、『サマソニ』の合理性には独自の魅力があり、そうした点も含めてクリエイティブマンさんとの連携に期待しました。
─ラインナップを拝見して、それこそ2010年前後の『サマソニ』の「SONIC STAGE」や「MOUNTAIN STAGE」(※)を思い出しました。スタジアム級ではないけれど、コアなファンに支持されるアーティストが集まる雰囲気……それが今回の『rockin’on sonic』にも感じられます。
※「SONIC STAGE」は幕張メッセ内の中規模ステージで、「MOUNTAIN STAGE」は幕張メッセ内で最大のステージ。屋外のZOZOマリンスタジアムにある「MARINE STAGE」が最大規模。
山崎:確かに、僕自身の中にもそのイメージはあったと思います。もちろん、大きなアーティストを呼べればそれに越したことはないのですが、今の洋楽の状況を考えると、何万人も動員する規模感は現実的ではありません。それならば、中規模のフェスとして成立する形を目指すべきだと。そこで自然と『サマソニ』の「SONIC STAGE」のようなイメージが湧いてきたんです。メインステージに集まる観客と、セカンドステージやサードステージに集まる観客では雰囲気が異なりますよね。メインステージは「お祭り感」も含めて誰もが楽しめる場所ですが、「SONIC STAGE」や「MOUNTAIN STAGE」は、そのバンドを本当に好きな人たちが集まる特別な空間という印象があります。今回の『rockin’on sonic』も、まさにその「ぎゅっと集まる」感覚をねらった企画ですし、そこはうまくいったと感じていますね。
─アーティストのラインナップはどのように決めたのですか?
山崎:まずは僕がリストを作り、それをクリエイティブマンの清水(直樹)さんにお見せしました。最初のリストには、今回出演が決まったWeezerやPrimal Screamがトップにありました。The LibertinesやThe Smashing Pumpkinsもリストに入れていたのですが、スケジュールやタイミングが合わず実現には至りませんでした。それでも、リストに挙げたアーティストの多くが今回のラインナップに加わってくれています。
─なかでもPULPをヘッドライナーに据えたのは印象的で、ロッキング・オンとしての強い思い入れを感じます。
山崎:実を言うと、最初のリストにはPULPは入っていなかったんですよ。意図的に外したわけではなく、単純に思いつかなかったんですね。ブリットポップ全盛期のイギリスでは、Oasis、Blur、PULPが3大バンドとして並び立っていましたが、日本ではどうしてもOasisとBlurに注目が偏っていたんです。OasisやBlurは何度も来日して大舞台に立っていますが、PULPはこれまで来日の機会が非常に少なく、その魅力に触れるチャンスがほとんどありませんでした。半分くらいロッキング・オンのせいでもあるんですが(笑)、OasisとBlurばかりを推していた結果、PULPへの注目度が低かったのは否めません。おそらく日本では、彼らのステージを観た人はほとんどいないでしょう。今回は、UKロック史における重要バンドの1つを生で観られる貴重な機会だと思います。