芸人を撮る芸人、かが屋・加賀さん1万字インタビュー

芸人を撮る芸人、かが屋・加賀さん1万字インタビュー

芸人たちを撮り続ける、お笑い芸人「かが屋」加賀さん(@kagaya_kaga)。独特な視点で写したオフショットやライブ風景が、SNSやメディアで話題になっています。そんな加賀さんは、写真歴=芸歴8年。今回は、カメラをはじめたきっかけから、芸人たちを撮ること、写真の魅力について、語っていただきました。

 

かが屋

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左:加賀さん、右:賀屋さん

 

2015年結成。加賀翔さんと賀屋壮也さんによるお笑いコンビ(マセキ芸能社)。日常の1コマを題材にしたコントを得意とする。

 

加賀さんが撮影した芸人さんたちの写真

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左:トム・ブラウン、右:虹の黄昏

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左:スタンダップコーギー 奥村さん、右:ニューヨーク 嶋佐さん

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かが屋 賀屋さん

芸人と写真のきっかけを作ったのは、バイト先の店長

―加賀さんが撮る芸人さんの写真は、テレビでは見られないような場面ばかりで、改めてその芸人さんのおもしろさを感じます。

 

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加賀:ありがとうございます! 純粋に「この人たち、おもしろい!」と思って撮ってるんで、それが伝わるとうれしいです。

―そもそもなんですが、カメラをはじめたきっかけは何だったんでしょうか?

加賀:バイト先の店長がきっかけです。賀屋とコンビを組むきっかけを作ってくれたのもこの人なんですよ。

―大恩人がいらっしゃるんですね!

加賀:実はこの店長が、カメラ好きで競馬好きだったんです。「競馬は趣味だったけど、もう行ってない」と言っていたので、「行ってもいいじゃないですか」と話してるうちに、「お前も来てみたら」と誘われて競馬場に行くことになりました。

―はじめはカメラを持たずに?

加賀:身一つで競馬についていって。隣で店長がバシャバシャ馬を撮ってるのを見て、「うわ、めっちゃかっこいいやん!」って、即座にカメラを買う決心をしました。それで買ったのが、NikonのD800です。

 

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8年前から愛用しているNikon D800

 

―たくさんの選択肢がある中で、なぜこのカメラを?

加賀:店長が他メーカーのカメラを使っていて「新しいのを買ったら、売るよ」という話もあったんですけど、それだと選択肢が狭まっちゃうんで他のメーカーにしようと! 純粋にNikonのカメラの見た目が好きだったのも大きいです。
…でも、D800を買うつもりはなかったんですけどね。

―そうなんですか?

加賀:お店の人に「カメラをやりたいんです」と言って、予算があるんで安いカメラをお願いしたんですね。そしたら、「君はもう1個がんばろう」って。「いやいや、お金ないんです」って食い下がっても、「絶対に無理したほうがいい」と言われて。「えー、どれですか」と出てきたのが、D800。D700をある芸人さんが使ってるのを知ってて、「その上だ」って勢いで決めちゃいました!
一緒に50mmと85mmの単焦点レンズと、PCとかいろいろ含めて24回払いで。

―ものすごい決断ですね!

 

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加賀:だから「元取らなきゃ!」って、写真を撮りに競馬場に通い詰めましたよ。走ってる馬は遠くて全然撮れないんですけど、競馬場の雰囲気とか人の感じとかを見て「いいな」って、写真にちょっとずつハマっていったんです。

―レンズは単焦点と決めていたんですか? ズームレンズという選択肢もあったと思うのですが。

加賀:当時は単焦点にしか興味がなかったですね。
店長に借りてズームレンズで撮ってみたりもしたんですけど、鉄道写真家・中井精也さんの本を読んだときに、「焦点距離からレンズの画角が予測できるように訓練したほうがいい」というようなことが書いてたんですよ。それに、自分の好きな写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソンや土門拳の影響もあって、単焦点一択でした。

 

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―写真家について詳しいんですね。

加賀:全然ですよ。賀屋の授業が終わるのを大学の図書館で待っていたときに、美術系の本が山ほどあって、それで知ったり、写真展を観に行ったり。その中でブレッソンや土門拳、それにロバート・キャパやマグナム・フォトのことを知ったんです。

―ブレッソンということは、最初はスナップに興味を持たれたんですか?

加賀:当時はスナップにしか興味がなかったですね。それに、モノクロでしか撮ってなかったです。

 

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モノクロで撮影した賀屋さん

カメラと加賀さんのいい関係

事務所の初仕事は、写真撮影班だった?

―写真の仕事も多くされていますが、その転機はいつだったんでしょうか?

 

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加賀:芸人になるのと同時期ですね。マセキ芸能社は月に1回オーディションライブがあって、合格したらまた翌月のライブに出るというのを連続でできたら、「OK。じゃあ入ろうか」となるんです。
僕らもそれに参加したんですけど、出ている芸人さんの写真も撮ってたんですよ。それをスタッフさんが知っててくれて、「ライブ写真は毎回スタッフが撮ってるんだけど、加賀くんやってみる?」って。

―それで、撮影班として参加を?

加賀:マセキの野外フェスが初撮影でした。僕の自前のフルサイズ一眼レフD800と、もう1台事務所が用意してくれたAPS-Cサイズのカメラの2台持ちで。だから、いきなり「カメラキャラ」になったんです。話したことがない先輩から声をかけてくれたり、「え、加賀も撮影で入ったの」みたいになったんですよ。そこからスタートしてますね。

―オーディションのときから写真を撮っていたんですね。

加賀:息抜きというか、純粋に撮るのが好きっていうのが理由です。
それに、事務所から頼まれなくてもライブは撮影してました。実は結構、必要な場面が多かったんですよ。若手芸人って、ライブの告知やポスターを自分たちで作るので。それはもう、毎月僕の撮った写真がチラシになってましたね。写真を撮ってライブ、写真を撮ってライブ…というのを繰り返していたこともあって、写真は続けられました。

 

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きしたかの 高野さんのライブ

カメラを通して、コミュニケーションがとれる

―写真を撮ることが、芸人としてプラスになっていることはありますか?

加賀:「写真を撮ること」は、距離を縮める大きな武器でした。僕は、人見知り中の人見知りで。でも人を撮るときに、人見知りでは無理なんです。絶対に相手のほうが緊張するんで、こっちが人見知りを出すわけにはいかない。…気づいたら「ナイスですね!」ってテンション高いセリフを言ってました。みんなの中に、「フォトグラファーはカメラを持つとキャラが変わる」というイメージもあるみたいで、そのおかげでキャラを1個乗っけられたと思います。

―元々人見知りで、芸人を目指そうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

 

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加賀:僕自身は本当におもしろくなかったです、冗談抜きで。でも、めちゃくちゃお笑いが好きで、「おもしろくなりたい」っていう気持ちだけはずっとあったんです。そんなくすぶっていたときに、同級生に誘われたんですよ。「やる気がなかったのに、急に誘われて本気になる」ってよく聞く展開だったので「いいじゃん!」って。
必死にお金を貯めて、養成所に振り込んだんですけど…。急にその子が「やっぱり辞める」って言い出して。養成所の要項に「いかなる場合も返金不可」って書かれているのを見て愕然として、「一人で行くしかない」っていうとこからはじまってますね。

―そんな経緯があったんですね。

加賀:そんな話をバイト先の店長にしたら、違う時間のシフトでお笑いに興味があるという人がいるからと、忘年会をセッティングしてくれて。それが相方の賀屋です。

―身近に、運命の人がいたんですね!

写真はネタにも生きる

―お二人のコントは、日常的なシチュエーションの中のおかしさが魅力だと感じていまして、写真を撮っていてネタに生きることもありますか?

 

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加賀:めちゃくちゃ影響します!
芸として、絵で見ておもしろいことがいちばんやりたかったことなので、写真はそっくりそのままですね。だから写真を撮っていれば、日常を見る目がもっとよくなるんじゃないかって思ってます。
僕はピース又吉さんの影響で、「自由律俳句」という五七五や季語にとらわれない俳句が好きなんですけど、本当に何でもない日常の瞬間を句にするんです。これは、写真がなかった時代の写真のようなもので、写真に対して近いものは感じていたんですよ。

撮るからわかる、撮られる側の気持ち

―被写体になることも多いと思いますが、撮る側の気持ちがわかる分、撮られるときに何か意識していることはあったりするんですか?

加賀:「エンジン全開でいこう」と心がけるようになりました。奇妙な動きをしたり、いろんなポーズでいっぱい動いたり、ダサかろうが何だろうが関係なくて。

 

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インタビュー後に、被写体になっていただいた写真

 

加賀:「ここに立ってほしい」「何mmのレンズを使ってるから、もっと相方と寄ったほうがいい」とかは感覚的にわかりますね。コンビって、あんまり引っつきたくないんですけど、僕はガンガン近づきます。

―笑

加賀:「だって今、全然写ってない」ってわかるので。

 

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加賀:ちなみにこれは、セルフで撮った宣材写真です。

―宣材写真もご自身で撮るんですね!

加賀:もうできることは全部やろうと。ボタン押して走ってを繰り返して、何往復もしてヘロヘロになりながら撮影しました!
今後もずっと撮ると思いますし、ゆくゆくは後輩たちの宣伝写真を撮りたいですね。無料でいいんで、やりたいです。

「Nikon」が自分のキャラになる

―2023年の新年の挨拶で、Nikonのポロシャツを着ているのも印象的でした!

 

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加賀:元々はテレビ収録のどこかでボケるために買ったんですけど、結局出すタイミングがなくて、「もったいないから年賀状にしよう」と。設定として、Nikonの社員が社内の人にだけ出す年賀状でした。
でも、このポロシャツは公式サイトで売ってないので、めちゃくちゃ探しましたよ。何とか見つけて、海外から取り寄せました。ちなみに、ポロシャツを脱ぐと、NikonってプリントされたTシャツも着てて。

―細部まで設定の作りこみがすごいですね!

加賀:実はカメラバッグもNikonなんです。

 

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加賀さんが愛用しているNikonのカメラバッグ

 

―形がかわいいですね!

加賀:そうなんですよ! カメラを買うときに、お店の人から「カメラをもう一つ上にがんばってくれたら、これあげる」ってもらって。形がかわいくて、すごく気に入ってるんです。当時もらったのは壊れちゃったんですけど、2代目も同じものを買いました。

―カメラにバッグに、Nikon愛が強いんですね!

加賀:芸人仲間に、「いっつも、Nikonのでっかいの持って!」と言われたことがあったんです。それが、うれしかったんですよね。「Nikonのでっかいの持ってる」というキャラになってるわけですから。
特にキャラもなかった時代に1個「Nikon」が乗っかる。スマホだと、こうはならないですよね。それに、純粋に好きなものがキャラになるっていうのはありがたいです。それがうれしくて、ずっとNikonを使ってます。

芸人を撮ることのおもしろさ

―ブレッソンがお好きとのことですが、芸人さんを撮るときも「決定的瞬間」を意識されますか?

 

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加賀:そうですね。場所や時間が限られているので、諦める部分は多いんですけど、その中でも撮ったライブの写真とかを見返すと笑っちゃうんですよ!

 

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トム・ブラウン みちおさん・布川さんの漫才中の1コマ

 

加賀:トム・ブラウンさんの漫才で、誰かになりきるために、みちおさんは1回後ろを向くんですよ。その後ろを向いてスタンバイ中の写真です。いつ・いかなるときも、にっこにっこ! それがすごくよくて、「なんてかっこいいんだ、君たちは」と思った写真です。

―観客側からはわからない貴重な場面ですね!

 

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トム・ブラウン みちおさんがボケて、布川さんがツッコんだ瞬間

 

加賀:これもすごいですよ。みちおんさんがボケたときに、「ダメ~」って布川さんがツッコむんですけど、その瞬間に汗がしぶきで飛んだんです。みちおさんが漫才中に大量に汗をかいてるって知らなくて。それが、カメラならとらえられるんですよ。

―肉眼では見えない世界ですね!

加賀:僕だけが知ってるお笑い。何百、何千分の1秒で見ても、おもしろいということですよね。

 

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や団さんのネタ合わせ中の写真

 

―この写真は、すごい鬼気迫る瞬間ですね。

 

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加賀:や団さんが、サイコなコントのネタ合わせをしているところですね。スコップを頭に振りかざす動きをチェックしてるときの顔が本気すぎて。
ネタ合わせのときだけこの表情でも、写真は前後が消えるんです。テストだからゆっくり動かしてるんですけど、僕の設定ミスで少しブレたおかげで動きも出て、よりホラーな感じになってますね。

―お笑いと写真がうまくマッチしたおもしろさですね!
TBS『ラヴィット!』でも撮影をされていますが、オフショットやライブを撮るのとは勝手が違いますか?


加賀:生放送の『ラヴィット!』では、芸人がまず大前提で、さらにおもしろいものも撮らなきゃいけないんです。

―それはハードですね。

 

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『ラヴィット!』ポスター企画で、見取り図 盛山さん・リリーさんを撮影した写真

 

加賀:その中で撮った写真をスタジオで出して、笑ってもらえてよかったですよ!
この見取り図さんの写真を出したとき、「めっちゃやらしい目で相方見てるやん!」「相方のこと大好きやん」みたいになったんです。
手前のリリーさんにピントが合って、奥のニコニコしてる盛山さんが少しボケてるから意味があるわけで。盛山さんにピントが合ってたら結果は違ってましたね。失敗できないんでフォーカスはカメラに任せていて、つまり僕じゃなくてNikonのカメラがウケてるんです。「どっちだったらおもしろいか」を判断してくれてるんですよ。

―笑
たしか、このポスターは駅に大きく張り出されていましたね!


加賀:夢のようですよ! みんな撮りに来ていただいて。

―芸人さんの写真をSNSでたくさん投稿されていますけど、お仕事で忙しい中でも発信は欠かさずされているんですね!

 

加賀:コントを見てもらうためには、自分たちの宣伝は必要ですよね。こんなにSNS向きのことをしてるのに、逃げるのはよくないなと。それに、純粋にお笑いが好きなので、「こんなにいいのが撮れたよ!」っていうのを共有したい気持ちがあるんです。

―本当にお笑いが好きなんだなっていうのが伝わってきます!

加賀:お笑いは、何よりも好きです。それに写真と相性がいいですから、撮るのが楽しいんですよ!

いつも写真のことを考えている

―芸人さんを撮る以外では、どういったものを撮るんですか?

 

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ロケの合間に、レゴランド・ジャパン ミニランドで撮影した写真

 

加賀:いろんなものを撮ってますね。この写真はレゴランドです。レゴ ブロックで作られたミニチュアが展示されてたんですけど、爆裂楽しかったですね。ロケで行ってたんですけど、初でめちゃくちゃテンション上がっちゃいました!

―ロケ先で撮れるのはいいですね!

加賀:いろんなところに行って、合間に写真を撮って、芸人って最高です。
あとはプライベートで行くんですけど、水族館もめちゃくちゃ楽しいですよ!

 

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すみだ水族館で撮影した写真

 

加賀:この3枚目のペンギンの写真は、ツノが生えているみたいに見えて、暗い中で設定とか苦労しながら撮影しました。

―水面の反射もおもしろいですね!

加賀:でもみんなに見せると、最初の2枚のほうが「きれい」って評判がいいんですよ。

―見る人の好みもありますよね…。
それにしても、オフでも写真や撮影のことを考えられているんですね!


加賀:僕は写真・カメラに関しては独学で、雑誌を読んだり、YouTubeを観たり、いろんな人の写真を見て勉強してるんです。

―よく参考にする人はいますか?

加賀:参考というか、いいなって思う人はたくさんいますね。
僕らも参加させてもらった写真集『笑いの山脈』を出した正田真広さん。芸人がネタをやっている瞬間を再現する企画で、中判で撮っててすごくかっこいいんです。
それと、梅佳代さん。写真を見たとき「おもろっ!」「写真でこんなかわいいの、ずるくない?」って嫉妬しちゃいました。
YouTubeだと、最近はよく『ふぁらおチャンネル』を観てます。純粋に写真がよくて、ちょっと腹立つなって(笑)「鬱陶しい感じなのに、写真はいい」みたいな、あのボケを本当は自分がやりたいっていう。

 

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―写真×おもしろさもチェックしてるんですね!
加賀さんは、芸人さんたちを撮り続けていますが、8年前と比べて変わったなと思うことはありますか?


加賀:写真を撮る人にとっては当たり前のことだと思いますけど、「光に対する感覚」が鋭くなってきたなって。例えば、劇場に2時間いるとして「光は今この1分くらいしかないから、急いでそこで撮りましょう」という感覚です。

―加賀さんの写真は、光と影も印象的ですよね。

 

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かが屋 賀屋さん

 

加賀:各現場の光のいいところで、相方を撮影してるんですよ! 1回撮るともう覚えられるので、テレビで代役を置いて立ち位置を確認する「スタンドイン」です。

―テスト撮影の賀屋さんが、いちばんいい光で撮れてるってことなんですね!

加賀:でも、ことあるごとに賀屋の写真を出してたら「もういい」って言われて。今はあんまり出さないようにしてます。

―笑

 

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加賀:あとは、実際に舞台に出ているから知っていることもあって。舞台袖って、光が丸々当たる人はいないんですよ。もし当たっていたら出すぎてるってことなんで、絶対にみんな半身が影になるんです。そういうのも知ってるとおもしろいですよね。

 

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スタンバイ中の春とヒコーキ 土岡さんとダウ90000 飯原さん。舞台袖の土岡さんは半身が影になっている。

 

―加賀さんは、お笑いの現場撮影を極められている感じがします!

加賀:勝手にライバルだと思ってる人はいますよ。TOWAさんというフォトグラファーで芸人をめっちゃ撮ってるんです。僕のほうが鬱陶しい存在だとは思いますけど、それはもうごめんなさい。本当に申し訳ないけど、こっちも生活がかかってるんで。

―芸人だから撮れる芸人さんの姿というのもありますか?

加賀:僕じゃなきゃ撮れない写真は、多いと思います。スタッフさんだったら撮るのをためらうような場面もありますからね。あとは圧倒的に数です。毎日撮ってますから。

 

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―毎日撮ってるんですね!

加賀:自分で言いますけど、根性あるなと思いますね。重い機材をよく現場に持ち運び続けたなって。本当に根性だけですね。
でも、毎日撮っていても、悔しい瞬間のほうが多いです。本当はあそこに立ちたい、あそこに行って撮りたい気持ちがめちゃくちゃあります。

―写真に対して、ストイックですね。

加賀:写真に関する仕事もかなり増えてありがたいんですが、怖さもあるんです。
お笑い芸人だし、現場だし、今はしょうがないってなるんですけど。「写真芸人」でメーカーから上位機種を借りてくるとなると、そうも言ってられないですからね。

―そのために、これからチャレンジしていきたいことはありますか?

 

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加賀:作品撮りですね。
切り取った芸人たちの瞬間がおもしろくても、構図としては甘いなと感じる部分があって。海外の人でも興奮するような写真を撮りたいと思ってるんです。

―今後、どんな写真を撮られるのか楽しみです!

Nikonの最新カメラを使ってみて

―インタビューの前から、フルサイズミラーレス Z 7IIを使っていただきましたが、いかがでしたか?

 

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加賀:ずっとD800が一番だと思ってましたけど、Z 7IIには感動しましたね!
ミラーレスは立ち上がりが遅かったり、EVFは目がチカチカするイメージがあったんですけど、まったくそんなことはなくて。EVFは設定が直に反映されるから、暗いところも明るく見えますし! はじめて持ったときに「この性能で、こんな軽いんかい」って思っちゃいましたね。

―さらに最上位機種の Z 9を使っていただいていますが、そちらはいかがですか?

加賀:ちょっとダメですね、すごすぎて。触らないほうがよかったかもしれないです。
特にAFですね。動物・車・バイクとかいろんなモードがあって、「芸人でそんなスピードの撮る機会ないやろ」と思ったんですけど、いや待てよと。異常なスピードで動く芸人を撮る機会は、めちゃくちゃあるんですよ。

 

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動き続ける虹の黄昏の二人(D800で撮影)

 

加賀:例えば、虹の黄昏さん。この人たちは一瞬も止まらず、永遠に動き続けてるんですよ。これはD800で撮った写真ですけど、「Z 9なら、しっかりとらえられるんじゃないか」と期待してますね。

―レンズは元々単焦点派でしたが、今はズームも多いんでしょうか?

加賀:劇場という限られた撮影環境で、かなり撮影の幅が広がりましたね! もう世界が変わるというか。
それまで単焦点しか興味なかったんですけど、よく考えたら「ブレッソン、これ触ってないじゃん! 知らないじゃん」って。その当時の写真家に、F2.8通しのズームレンズを持たせたら、きっとすごかったんだろうなと思いますよ!

―たしかに、そうかもしれませんね!

加賀:それにズームレンズって、見た目も大きく変わるんですよね。
D800のときに24-70mmのF2.8通しのズームレンズを買ったんですけど、単焦点から一気に大きくなって。「デカッ! もうそんなんなの」「そこまできたの」っていう一言がかなり大きかったですね。

 

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加賀:超望遠レンズだと三脚座がついてると思うんですけど、知らない人には「取っ手」にしか見えないんですよね。レンズに取っ手がついてるだけで全部おもしろいですから。
撮影機材として、コンパクトになっていくほうが喜ばれると思うんですけど、お笑い的にはデカければデカいほどありがたいんです。
だから、Nikonさんには安くて大きい、バズーカみたいなレンズを出してほしいです!

―担当に伝えておきますね(笑)
ところで、ミラーレスに移行したらD800はどうされるんですか?


加賀:光学ファインダーが好きなので、残しておきたいと思っていて。

 

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―ファインダー部分がすごいことになってますね!

加賀:現場で落として割れちゃって。その場にいたフォトグラファーさんがテープでぐるぐる巻きにしてくれたのを、そのまま2年間ぐらい使ってたんです。ニオイもきついし、ファインダーが当たる目のまわりだけニキビができるしで、大変だったんですけど。そのフォトグラファーさんに久々に会ったときに「え、まだしてるの?」って驚かれたんですよ。どうやら、その日だけの応急処置だったみたいで(笑)

―でも、今もその状態なんですね!

加賀:悪化しちゃって修理どころじゃなくなって。今は新しいテープで補強してます。
まだ十分撮れるので、この姿を残しておきたいなっていう気持ちもありますね。

―ローンを組んではじめて買った、思い出のカメラですもんね!

写真で変わった人生観

―カメラを買って8年になりますが、振り返ってみて、写真はどういう存在になっていますか?

 

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加賀:…貯金ですね。

―貯金!?

加賀:今思いついたんですけど、「いいこと言ったな」っていう自覚がすごくあります(笑)
その感覚はずっとあったんですけど、写真って見返すだけでも楽しいんですよね!
年を重ねれば重ねるほど、写真を撮ったときから時間が離れれば離れるほど、「うわーこんなことあったわ」っていうことを思い出すわけですよね。

―それは素敵な考え方ですね!

 

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芸人を撮る芸人、かが屋・加賀さん1万字インタビュー

2016年に開催された、きしたかの 高野さんのライブ

 

加賀:これなんて、7年前ですよ。「きしたかの・高野 熱いおしぼりを渡されて熱がらなかったら100万円」という企画。電子レンジを舞台上に置いて、めっちゃ熱いおしぼりを持つんですけど、誰も1秒も持てなくて「熱っ!」っていうのを繰り返すだけなのに、本当におもしろかった…。みんなこのライブのタイトルを忘れてるんですよね。でも、撮った僕は覚えてるんです。
こういう写真がどんどん増えていくから、老後めっちゃ楽しみですよ!

―まさに、「貯金」ですね!

加賀:実は『ラヴィット!』も、過去の写真がきっかけなんですよね。

―最初から「撮ってください」というオファーではなかったんですか?

加賀:まったくそんな話はなくて。「カメラが得意」という話をこちらからして、「自由に撮ってみてください」となったんです。そのときのゲストが、事務所の先輩きしたかのさんでした。昔に高野さんがラヴィットポーズのように指をL字にしている写真を撮ってたんですよ。たまたま僕のPCの中に残っていて、「最後にこれだけ見てもらっていいですか」って出したら、「すごくいい!」と次につながったんです。

 

芸人を撮る芸人、かが屋・加賀さん1万字インタビュー

2016年のときに撮影していた、きしたかの 高野さんが指をL字にしている写真

 

―すごい偶然ですね!

加賀:7年も前の写真ですよ。謎のポーズで、ピントも合ってないし、残してたのも不思議。

 

芸人を撮る芸人、かが屋・加賀さん1万字インタビュー

 

加賀:…ってことはですよ、自分が撮ってる写真の中には、「財産」がめちゃくちゃあるんじゃないかって。写ってるのはみんなの若手時代なんで、売れたときに足しになってくれたらと思いますし、20年後とかに僕が個展を開けば、思い出同窓会をしてくれるかなって。そういうことができたら、うれしいなって思います!

 

* * *

 

 

芸人を撮る芸人、かが屋・加賀さん1万字インタビュー

 

お話がおもしろくて、笑いっぱなしのインタビューでしたが、写真や芸人さんを撮ることへの熱い想いがひしひしと伝わってきました。これからも、加賀さんの写真から目が離せません!

NICO STOPでは今後、加賀さんのフォトエッセイをお届け予定です。ぜひお楽しみに。

 

 

インタビュー写真:小川遼(@ryography_713)
Supported by L&MARK

 

 

加賀翔

加賀翔

マセキ芸能社所属のお笑い芸人。賀屋壮也とのコンビ「かが屋」のメンバー。コンビ結成と同じ2015年に、カメラを購入。WEBや雑誌で写真に関する連載を持つ。『キングオブコント2022』で、2度目の決勝進出。レギュラー番組『かが屋の鶴の間』、『かがやけ!ミラクルボーイズ』、初小説『おおあんごう』刊行。