Media Watch2024.12.26

読売新聞社とYahoo!ニュースの担当者が振り返る——2024年衆議院選挙「インターネット情勢調査」

2024年10月、Yahoo!ニュースはコンテンツパートナーである読売新聞社とともに「インターネット情勢調査」に挑みました。1027日に投開票が行われた「第50回衆議院議員総選挙」の期間中に、Yahoo! JAPANIDを持つユーザーにメールを送信し、投票先などを尋ねています。近年の選挙活動において、SNSなどインターネット情報空間の存在感が増しています。今回、インターネットを使った情勢調査を行ってみての手応えはどうだったのでしょうか。読売新聞社で取り組みをけん引した読売新聞東京本社世論調査部の福田昌史さん、萩原栄太さんに加え、Yahoo!ニュースのメンバーに話を聞きました。(取材・文:Yahoo!ニュース)

インターネット調査の必要性が高まった背景

——これまで読売新聞社では、選挙の投開票前に実施する情勢調査は電話のみで行っていたと聞きます。Yahoo!ニュースと共同でインターネット情勢調査を行った背景にはどういったことがあるのでしょうか。

福田: 私たちにとって、電話調査はこれからも重要な手段です。2019年の参議院選挙までは調査員による電話調査だけで調査していました。人による働きかけなので「あまり答えたくない」という方がいても、説明をしっかりすればお答えを頂戴できるケースもありますし、信頼性は高いんです。現在は調査員の調査に加えて自動音声の電話調査も併せて行っています。 

ただし、電話調査は高齢者の方々の声が多くなる傾向は否めません。固定電話、携帯電話に関わらず、日中の電話に出られる方は限られていますよね。働いている方のなかには対応が厳しい方もいるでしょうし、目下の防犯意識の高まりから電話への抵抗感を覚える方もいます。もちろん、人件費の面もあります。こういった状況下、社内でインターネットを使った調査の必要性が高まってきたのです。高齢の方だけでなく、その下の40代、50代。さらに若い世代に至るまで幅広い声に当たることで、予測精度のさらなる向上を目指しました。

情勢調査は選挙期間中の前半と後半で全2回実施。1017日と1025日の読売新聞朝刊で調査結果が掲載された

「調査慣れ」していない方の声を聞きたい

——インターネットを使った調査会社は他にもあります。なぜYahoo!ニュースを選んだのでしょうか。

福田:専門の調査会社だとモニターとして登録している方が中心です。となると、「調査慣れ」している方が少なくないと思いますが、Yahoo! JAPANIDを持っている方々は必ずしもそうではありません。メール経由でアンケトが配信され、ユーザーが答える形なので、調査会社経由とは異なる層に当たることができ、それがYahoo!ニュースを選んだ理由です。

——今回の衆院選では、101516日の序盤調査、1022日〜23日の終盤調査の2回にわたる調査で約19万人の方が応じてくれました。手応えや気づきを聞かせてください。

福田:Yahoo! JAPANのIDを持っている方は47都道府県で均一にいるわけではないので、たとえば都市部の回答者数は多いなど、偏りは感じました。そういうこともあるので、今後はインターネットと電話の両方を使いながら、お互いを補完するような使い方をしていきたいです。

今回、このような大きなデータを集めたことで、調査結果と選挙結果の比較が可能になりました。「○○党の候補者は、ネット調査では支持が高めになりやすい」などの傾向が分かるはずです。今後さらに分析して、次回以降の精度向上につなげようと思っています。

萩原:全国の支局にいる記者の取材も大事です。なぜこれが重要かというと、競っている選挙区ですよね。A候補とB候補がわずかな差で競っているときは、データだけで判断できない部分があります。

——記者の取材情報は重要なんですね。では今回のインターネット情勢調査は、実際の衆院選をどの程度反映できていましたか?

福田: かなり反映されていたというのが実感です。自民党への支持が序盤から終盤にかけて下落し、自民党の「政治とカネ」問題に対する有権者の不満の高まりが調査データに表れていました。そして、最終盤に自民党の「2000万円問題」が報道されて自民支持がさらに落ち込み、あのような選挙結果になったのだと思います。今回の衆院選は久しぶりに与党と野党が競った展開だったので、表れている変化は本当のものなのか、間違いがないか。緊張感を持って臨んでいました。

写真:ロイター/アフロ

選挙におけるインターネットの存在感は高まっています。衆院選では、国民民主党の玉木雄一郎氏の切り抜き動画が拡散され、同党の支持率増につながった事例もあります。一方、衆院選の1カ月後には兵庫県知事選で斎藤元彦前知事が再選し、大きなニュースになりました。現代の選挙において、インターネットにおける有権者の動向をつかむことは不可避になっています。さらなる精度の向上を目指して取り組んでいきたいですね。

最初は絶対に無理だろうなと思った

今回のようなインターネット上での大規模な調査の取り組みは、Yahoo!ニュースでも過去に実施したことがなく、ゼロから検討を始めた難しいプロジェクトでした。Yahoo!ニュースでプロジェクトをリードした浅野実侑はこう振り返ります。

浅野:読売新聞さんから最初にお話をいただいたのが2021年衆院選後の冬でした。Yahoo!ニュースは多くのユーザーの方に使っていただいていますが、これまで情勢調査のような大規模な社会調査を行ったことはなく、率直に「私たちでは読売新聞さんの期待に応えられない……。絶対に無理だろうな」と頭を抱えたのを覚えています。

それまでYahoo!ニュースには個別に調査を実施する仕組みはなかったですし、そもそも仕組みがあってもどうユーザーの方々に調査を依頼するのか、全国から回答を集めることができるのか。未知の課題だらけでした。

——どのように検討を進めてきたのですか?

浅野:最初の段階では社内にこういった大規模調査の実施事例がなかったので、外部の調査会社さんやLINEヤフーの関係する会社と連携できないか検討しました。ただ、色々調べた結果、多くのユーザーから回答を集めるというところがプロジェクトの肝となる部分であり、それこそが我々の力を活かせる部分だという結論になり、社内サービスで持っている機能を活用してゼロから仕組みを構築することにしました。結果、調査の回答を行うのは懸賞型アンケートが実施できるYahoo!クラウドソーシングを、ユーザーの方々に調査を依頼するのはYahoo!メールを使って大規模に訴求する、という手法を確立しました。確立した、といってもその手法を使って何十回も全国でテストを行ったのでそこから実際に使えると判断するまで2年以上時間はかかっています。

インターネット調査の設問画面。自分の選挙区を把握していない場合も多いことを想定し、設計に当たった

——テストに2年間もかかったとのことですが、課題が多かったのですか?

浅野:「調査結果を得る」という点ではとても順調でした。我々のインターネット調査は電話調査と違って3040代の方が多く回答してくださることが分かりました。福田さんのお話でもあった電話調査で回答が集まりやすい世代と全然違っていたこともあり、「この組み合わせは相性がよさそう」とテストの最初の段階から手応えを感じました。

ただ、データの精度を検証するためのテストは実際の選挙に合わせて行う必要があったため、比較的長期間の検証となりました。2022年の参院選では16選挙区ではじめて大規模にテストをし、その後も知事選や衆参補選でテストをしながら、今回の2024年衆院選をむかえました。

また、社内的な運用オペレーションの点では常に課題の抽出と改善を繰り返してきました。1つの調査を実施するにしても複数のシステムを使うので、調査に関わる社内の人間は10人を優に超えます。人が多くなると事故リスクも高まってしまうので、どこの運用を効率化するか、ミスを防ぐ仕組みをどう導入するかの点が最も時間がかかっています。

——単純な調査に見えて、裏では様々な苦労があったんですね。改めて今回の調査を無事にやりきった感想を聞かせてください。

浅野:今回の衆院選では289のすべての選挙区できちんと事故なく回答を集めることができてほっとしています。インターネットの情勢調査は読売新聞さんのようなメディアが報道で活用する側面もある一方、わたしたち有権者にとっては政治に理解を深めたり、投票先を考えたりする上でも重要な情報になってきます。こういった調査をやっていくことで、読売新聞さんのようなコンテンツパートナーをはじめとして、ユーザーに対しても公共的に価値のある情報が届くようお手伝いができればと思っています。

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