「Eat everything=全部食べる」「深い感動は一次情報」~トップクリエイター、ショーンK氏、Yahoo!ニュースが語る、情報とのつきあい方
当ブログがプロデュースするイベント「リアルnews HACK」第3回目が7月3日、Apple Store銀座店にて行われました。今回のテーマは「情報アクセシビリティ:過去、現在、未来 これからのニュースの届け方」。その本編の模様を、前・後編にわたってお送りいたします。(※後編はこちら)
【出演】(上の写真右から順に)
- 深津貴之氏(iOSアプリ開発者・THE GUILD代表)
- 佐々木康裕氏(takram design engineering・クリエイティブリード/サービスデザイナー)
- 渡邉康太郎氏(takram design engineering・クリエイティブディレクター/デザインエンジニア)
- 河野清宣(ヤフー・Yahoo!ニュースアプリ責任者)
- 片岡裕(ヤフー・ニュース事業本部本部長)
- [モデレーター] ショーン・マクアードル川上氏(経営コンサルタント)
トップクリエイターが語る、情報との付き合い方は?
ショーン・マクアードル川上氏(以下、ショーン) 皆さん本日は雨の中ありがとうございます。それぞれのお立場で付き合っている情報の種類もそれぞれ違うと思いますので、まずは自己紹介も兼ねて、ご自身のお仕事についてと、普段どういうものを有用な情報としてとらえているかなどについて教えて下さい。では深津さんから。
深津貴之氏(以下、深津) 株式会社THE GUILDという私の会社は特殊な会社でして、フリーランスの集合体です。凄腕のデザイナーやデベロッパーがピンで仕事をしていますが、仕事自体はGUILD(名義)で受けてGUILD(名義)で出しています。大きなアプリの設計からファッション・金融まで、メンバーの得意なものによって受ける仕事は様々です。最近ですと、数週間前にchappieという似顔絵アプリをリリースしました。そのほか日経新聞のアプリのリニューアルの設計などをお手伝いさせていただいています。
ショーン そんな中で、どういう情報が深津さんにとってインスパイアされるのでしょうか?
深津 僕は情報の取り方が二分していまして。ツイッターの中で目に触れたものしか取らない、というのが50%。残り50%は、AmazonのKindleストアでランキングに出ている本をノリで30冊くらい買ったりしています。
ショーン ノリで30冊、なかなか買えないですね(笑)
会場 (笑い)
ショーン 深津さんの生き様を踏まえて、どんな情報がいつも“ピン”ときますか?
深津 自分の分野外の、自分にとって使い道のなさそうな業界のトップの人とかが書いた本とかですね。
ショーン これ、大事なところなんですよね。自分が常に掛け算の発想を持っていないと、よそのものってひっかかってこないんですよね。
深津 デザイン業界って、混ぜるのが仕事だったりするので。特に僕はわけのわからないものを混ぜるのが好きな極端な人間。
ショーン 「極端」「混ぜる」「掛ける」、このあたりキーワードですね。
「深い感動は一次情報に近いところ」
ショーン では次にtakramさんから。
渡邉康太郎氏(以下、渡邉) takramでデザインの仕事をしています。takramは、“クリエイティビティ”と“テクノロジー”と“ビジネス”、この三角形を強くしていきたいという思いを持つ40人ほどの仲間が東京とロンドンで働いています。つくっているものはNHKの子供向け番組キャラクターのデザインから、建築や内装の仕事、人工衛星から和菓子まで幅広くやっています。
ショーン クライアントからオーダーをうけて、さっきの3つ(クリエイティビティ・テクノロジー・ビジネス)を踏まえたSomething newを作るわけですよね。クリエイティブな自分を鍛えていくために、どんな風に情報と接していますか?
渡邉 僕も2つありまして、SNSのタイムラインなどのフロー情報から得られた幅広い情報のほかに、実際に足を運んで得る情報も大事だと思っています。一番深い感動を得るのは、「足を運ぶ」とか「味わう」とかを通して得た一次情報に近いものなのではないかと思います。
ショーン とんでもない情報の量がとんでもないスピードで我々に降り注いでいるという中で、どんな風に情報のリテラシーをたかめていったらいいのか、折角あるこうした(Apple Watchのような)デバイスやYahoo!ニュースをどう使っていけばいいのか。今日の着地点は、(観客の)皆さんが(そうした疑問に対して)何か一つ二つキーワードになるものを持って帰っていっていただければと思います。それでは、サービスプロバイダーであるYahoo!ニュースの片岡さんと河野さん。
情報を“情動”に変えるための工夫とは?
片岡裕(以下、片岡) Yahoo!ニュースの片岡です。Yahoo!ニュースは「届ける」ことは当然のこととして、ニュースに接して終わりではなく、発見があり、実際の行動につながるような仕組みづくりを目指しています。行動って、色んなことが考えられると思いますが、渡邉さんが先ほどおっしゃられたようなリアルな場所に行く、ということももちろんそうですし、情報が“移転”してこそ力になることもあると思いますので、SNSでシェアするとか、コメントをみるとかも含めて、見て終わりじゃない世界をつくろうとしています。
ショーン 情報が“情動”に変わる仕組みって、難しい。情報というのは「この情報が来たらこう驚け」とか、「こうせよ」って指示が一緒についてくるわけではないですし。情報を“情動”にする工夫は?
片岡 例えば、Yahoo!ニュース トピックスは機械ではなく編集が何がいま重要かということを人の手で選んでいます。これは皆さんに大事な情報を見ていただきたいという一つのメッセージでもあります。さらにそれをクリックしてみると、その記事を読むだけではなく、(Yahoo!ニュース トピックスでは)関連する情報を編集が手動で編成しています。ただ届けるだけではなく気付きや関心の度合いを高める、ということを第一ステップとしています。
ショーン 深津さんは、キュレーションサイトはあまり見ないですか?
深津 僕はキュレーションサイトも見ますが、自分がツイッター上で信用している人の情報をみています。
ショーン ニュースの情報の「大事」、って、何がきめるんでしょう。皆さんは情報のウエイト付けってどうやっていますか?
佐々木康裕氏(以下、佐々木) 私は情報に関してはヒエラルキーをつけないようにしています。デザインをやっているといろいろなコンテクストで話さなければいけないので、“Eat everything”、全部食べる。例えば「おばあちゃんがスーパーで万引きした」、というニュースも大事だし、ギリシャで起こっていることも大事。そこにはそれぞれのドラマやストーリーがある。ニュースを読むときに「IO比率」と呼んでいるのですが、インプット(Input)とアウトプット(Output)の比率を、なるべくアウトプットのほうが高いようにしています。読みながら書きつつ考える。例えばギリシャの輪転機のニュース(※編集参考:ギリシャ財務相 輪転機壊した - Yahoo!ニュース)を見ていて、自分が輪転機メーカーの社長だったら何するかな、とか、自分が輪転機をつくって納品したらヒーローになれるかな、という妄想をしてみたり。どんなインプットでも考えて咀嚼していくことが大事かなと思います。
ショーン Eat everythingしてくれるカスタマーは、Yahoo!ニュースにとっては最高のお客様ですよね。
河野清宣(以下、河野) そうですね(笑)
ショーン 何が大事だ、という軸がある人もいれば、逆にどの情報がいいのかわからない人もいます。情報に対するウエイトづけは、どうしているのでしょうか?
片岡 選別という意味では、Yahoo!ニュースは「公共性と社会的関心」を大事にしています。エンタメでもスポーツでも関心を集めるものは取り上げますが、一方で災害などの公共性のあるものはクリックされなかろうが、ビジネス的に良くなかろうが伝えていく、ということもしています。
ショーン Yahoo!ニュースが、「クリック数に限らず、これはわかっておいてほしい」という内発的に発信するものに対して、我々ユーザーとしてどう接するのか難しいところですよね。
佐々木 いわゆるニュースの“鵜呑み率”が日本は先進国では高くて、大手メディアのニュースの6~7割を信じてしまっている、と(いうデータを目にしたことがあった)。僕はそれが危険だなと思っていて。受け手側は、常にクリティカルな発想を持つことが大事だなと思っています。
ショーン 私もそう思いますね。例えばアメリカではFOXが保守派寄りの「ブッシュ、バンザイ」という報道をやっていたとしても「FOXを潰せ」いう動きは起こらない。受け手側が「だったらFOXみなければいいでしょ」という風になる。色んな情報の捉え方があっていいのでは。その分、ニュースのバリエーションも相当数ないといけなくなりますよね。となるとヤフーさんってやることいっぱいありますよね。
深津 ヤフーさんに聞きたいのですが、美人投票的にインターネットのニュースって流れがちですが、皆が知るべきだけど、小難しい情報ってどう扱うのがいいのでしょうか。政治家のスキャンダルの話題が流れている一方で、TPPやマイナンバーなど重要な話題って、インターネット上にはあまり流れなかったりします。
片岡 そうですね、さっき佐々木さんがおっしゃっていた通りだと思いますが、事象自体が難しいのであれば、事象とともに関連する情報を付加していくことが有用になっていくと思います。「公共性と社会的関心」その両方を取り上げているが、そのバランスが一番難しいと思っています。
ショーン 世の中のニーズと、公共性の高さ、そしてヤフーとしてこれだけは伝えておきたい、という3つの要件に関してバランスをとりながらやっているんですね。
>>後編(Apple Watchは「情報の関所」? 人気ブログの裏側から谷川俊太郎氏の詩まで~トップクリエイター達が語ったニュースと情報の未来)へ続きます
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