尹錫悦大統領の弾劾訴追案は可決ならず…今後の展開は「弾劾求める市民の圧力」が左右か
3日深夜、突然の非常戒厳宣布以降、極度の混乱の中にある韓国政界。
非常戒厳は国会での解除要求案可決により翌4日早朝に解除されたが、その後、首謀者たる尹大統領の「処置」をめぐる様々な動きが生まれた。そしてそれは、野党による内乱罪での告発と尹大統領の弾劾という二つに絞られた。
●成立に必要な200票に届かず
そして戒厳事態発生から4日が経った7日17時から、国会本会議場では弾劾訴追案の票決が行われた。
可決のため必要な200票を満たすためには与党から最低でも8票の造反が必要だった。
だが、同案票決に先立ち与党・国民の力の所属議員(108人)のほぼ全員が退場したことで全体の票数が規定の200票(在籍議員の3分の2)に届かず、投票不成立となり、結果として可決とはならなかった。
票決の際、与党からは安哲秀(アン・チョルス、62)議員が、次いで金睿智(キム・エジ、43)議員の2人だけが票決に参加した。
与党議員が退場する際、国会議事堂内では野党議員の補佐陣が「内乱同調、国民の力、解体せよ!」、「(議場に)戻れ!」、「違憲政党解散せよ!」と声を上げた。
最大野党・共に民主党の朴賛大(パク・チャンデ、57)院内代表(国対委員長)は、票決の前に与党議員ひとりひとりの名前を呼び上げ議場への復帰をうながしたが反応はなかった。
そのまま票決を締め切ると思いきや、禹元植(ウ・ウォンシク、67)国会議長は改めて与党議員に議場の復帰を訴えた。
そして午後6時半頃、与党の金相旭(キム・サンウク、44)議員が戻ってきた。この時、国会議事堂ホールは野党関係者の大歓声に包まれた。
その後、別の議員も議場に戻ってきたとされたがこれは誤報。与党は所属議員が勝手に動けないよう臨時議員総会を開くことで対抗した。
野党議員は与党議員に直談判を行ったが与党の頑なな姿勢は変わらなかった。
膠着状態の中、21時20分に禹元植議長は票決終了を宣言した。タイムリミットは8日0時48分だった。
なお投票不成立であったため、開票も行われなかった。
●尹大統領と与党の「連係プレー」
一貫して否決の立場を取ってきた与党は、票決に先立ち否決で党議拘束をかけることを改めて確認し、これに従ったことになる。
同党の韓東勲(ハン・ドンフン、50)代表は昨日午前の段階では「尹錫悦大統領の早期の職務執行停止が必要と判断する」と述べ、これに同調する議員も出たが、否決の方針へと意見が統一された。
背景には、尹大統領への説得があったとされる。
7日午前10時、尹大統領は国民向け談話を発表し「任期を含む政局安定の方向」を党に一任することを表明。これは総理を中心とした内政、大統領の「第二線への後退」、つまり内政からの離脱といった動きにつながる内容で、結果として与党に弾劾以外の選択肢を与えることとなった。
大統領の座に留まりたい尹大統領の保身欲と、朴槿惠・尹錫悦と二連続で大統領が弾劾される場合には「破滅する」と激しく動揺する与党の生存本能という、「負の欲望」が噛み合った形だ。
なお、弾劾訴追案に先だって行われた金建希(キム・ゴニ、52)大統領夫人への特別検察法も否決となった。
尹大統領の拒否権行使による差し戻しの票決だった。同法案の廃案は通算三度目だ。賛成198票、反対102票と与党から6人の造反者が出たが、一歩及ばなかった。
●今後のカギは「ピープルパワー」
野党は今後、弾劾発議を続けるとしている。11日にも臨時国会を開く計画を明かしている。共に民主党の李在明代表は7日、「可決されるまで無限に繰り返す」と強調した。
だが、一度目の票決に失敗したことによって勢いが落ち、弾劾が実現する可能性は下がるというのが韓国メディアには多数を占める。
金建希夫人特別検察法票決の過程で6人の造反者が出たことで、「200票までもうひと息」と見ることもできるが、こちらは可決されるという予想もあったため厳しい結果であることは変わらない。
それでは今後、尹大統領弾劾の可能性は潰えてしまうのか。
この日、日中の気温が4度にとどまり、日が暮れてからは零下となる中、国会のある汝矣島(ヨイド)前には15万人を超える市民(警察発表。主催者発表は100万人だが現実的でない)が集結し「尹錫悦弾劾」の声を上げた。
否決、そして与党・国民の力の投票ボイコットという責任放棄を受け、弾劾を求める市民の声がさらに高まることは間違いない。この力をもって野党はふたたび弾劾への勢いをつけていくことになるだろう。
8年前の朴槿惠弾劾訴追案可決時(16年12月9日)には、直前の数週間にわたり100万人以上の市民が広場を埋めたことが与党議員の危機感を生み、ついに62人の造反者を生んだ。
これと同じように、大統領弾劾の成否の行方は結局、市民の圧力に委ねられることとなった。厳しい冬が続く。