松本人志さんの独占インタビュー記事、「第一声」を届ける相手に「個人記者」を選択したことへの驚きと意図
2024年1月より芸能活動を休止しているお笑い芸人・松本人志さん(ダウンタウン)の独占インタビュー記事が12月25日、Yahoo!ニュースのサービスの一つ「エキスパート」内で掲載された(出典:Yahoo!ニュース 中西正男 2024/12/25(水))。
「エキスパート」とは、各分野の専門家や有識者、ジャーナリスト、クリエイターが情報発信者として専門性に基づいて、自らの意思および判断でコンテンツ制作・発信するサービスのこと(Yahoo!ニュース内「エキスパートとは?」より)。
独占インタビューをおこなったのは、この「エキスパート」内で芸能関連のインタビュー記事などを掲載している、中西正男記者。中西正男記者は大阪を拠点としながら全国規模で活動。テレビ番組、ラジオ番組への出演も多く、マスコミの間ではよく知られた存在。これまで数多くのお笑い芸人のインタビューも担当し、著書も発表している。記事公開後、Xでは松本人志さんの名前とともに、中西正男記者もトレンドワードにランクインした。
独占インタビュー記事、ポイントは「まず『第一声』を届ける」ということ
松本人志さんは、2023年末のいわゆる「文春報道」以降、事前収録のテレビ番組などを除き、公に向けて正式なメッセージを発したのはX(旧Twitter)だけだった。そのほかは所属事務所の吉本興業を通してのもの。そんな松本人志さんが「第一声」を届ける相手に選んだのが、中西正男記者である。
SNSでは今回の記事内容への是非が飛び交っている。「真相についてなにも話していない」という不満も出ているほか、どんなことでも答えるとしながら「答えていない」と考える読者も見られた。
ただ筆者自身、一人の芸能記者・ライターである以上、こういう「大仕事」を担うことへの羨望は当然持つ。その点で中西正男記者への尊敬はもちろんのこと、自分がそういう役割になれなかったことへの、悔しさ、嫉妬などいろんな感情が先立つ(ちなみに筆者は普段、そういった気持ちになることがない)。
いろんな意見はあるが、そもそもこの記事の趣旨は、松本人志さんの「第一声」を届けることだろう。
松本人志さんの言葉を濁りなく、まっすぐ伝えてくれる人・メディアはどこなのか――。そういう意味で、中西正男記者はもっとも適任だという判断だったのではないか。休業中の松本人志さんの「第一声」を届ける役割をつとめるには、信頼、実績、評価、能力などすべてが揃っていないといけない。もちろんなにかしらの関係性も加味されるかもしれないが、それも「まず『第一声』を届ける」という趣旨としては当然求められて然るべき条件だ。
記事内容を「偏向的」「迎合している」と読む人もいる。それも読み手の自由な捉え方。ただ今回に限っては、第一は松本人志さんの「言い分」をそっくりそのまま伝えることだった。それ以上でも、それ以下でもない。それを「仕事」として引き受けて達成するには、これまで積み重ねてきたものがないといけない。やはりそれは、中西正男記者がコツコツとお笑い芸人を取材し続けてきたこと自体への「信頼」が強く影響している。
記事内容に賛否はあるが、松本人志さんの「現状」に直接触れた唯一の記者
中西正男記者のインタビュー記事の特徴は、自分(取材者)の質問や意見を多く載せないところ。
文章内では「自分」の存在をほぼ抑え込み、取材相手の言葉を伝えることに徹している。これは多くの記者・ライターができそうで、できないこと。良い、悪いは別にしてやはり「自分」が出たりする。もし筆者が取材を担当したら、その欲は抑えられないだろう。その点、中西正男記者の出すぎないスタンスは独自の手法と言える。
そしてこの記事スタイルこそ、「松本人志さんが中西正男記者のインタビューを受けた理由(もしくはインタビュアーに選んだ理由)」の一つにもなるのではないか。
松本人志さんはもしかすると今後、どこかのメディアのインタビューや、場合によっては会見を開く機会があるかもしれない。しかしあくまで「第一声」に関しては、「この形」だったのだ。
この独占インタビュー記事は、今後のすべての関連報道のソース元になる。ありとあらゆるマスコミはこの記事をもとに報道する。またほとんどのタレント、芸能関係者も記事を読むだろう。お笑いファンはもちろんのこと、お笑いに興味がなかったり、今回の件で松本人志さんの行動や発言に対して疑問を持っていたり、いろんな人もこのインタビュー記事を目にする。記者・ライターであれば、それ自体は「もっともやりたい仕事」だ。
記事内容に賛否はあれど、松本人志さんの「現状」に直接触れた唯一の記者である。記者・ライターとして今後何年も語り継がれておかしくない「大仕事」だ。
「第一声」を伝える場がテレビ番組、新聞などではなく「個人記者」だったことへの驚き
そうは言っても「第一声」の発信相手・場所が「個人記者」だったのはかなり驚きだ。
松本人志さんとしてはこれまでも、出演していた番組『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、一部の発言だけにクローズアップした「キリトリ記事」などの既存のニュースメディアの報道の仕方を否定していた。そういったものへの疑いがある以上、「まず『第一声』をそのまま伝える」という点では、既存の大手ニュースメディアへの不信感は拭えなかったのではないか。
テレビ番組、新聞などに関しては特定のものに絞りきれなかったことも、理由として感じられる。なによりテレビ番組、新聞社などは、取材者だけではなくメディア側の複数の関係者もそこに携わる。そうなってくると「『第一声』については、その言葉をそっくりそのまま伝える」という趣旨に反する可能性も出てくる。
それでも「気持ち」を発信するには、なにかしらのメディアを通さなければならない。そういったことから、自分の意思でほぼ判断でき、内容を伝えてくれる「エキスパート」の個人の記者(中西正男記者)こそが、今回の取材に関してはもっともバランスが良く、そして役割として適していたのではないか。
このように長々と綴ってきたが、筆者が同件を深いところまで食い込んで取材できていない立場である以上、中西正男記者とは大きな開きがある。そのように考えると、中西正男記者が、「イチ記者」としてこの大きな役割を担ったこと自体、とにかく感服するしかない。