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Hagexさん刺殺事件、動機となった通報は「アカウント停止の理由ではない」はてな社が証言

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
公判が行われている福岡地裁。筆者撮影

 2018年6月に福岡で起きたIT講師(以下、被害者が書いていたブログ上のハンドルネームよりHagexさんと記載)刺殺事件の第2回公判が、福岡地裁で11月12日に開かれました。

 その午前中の公判で証人として呼ばれた株式会社はてな(以下、はてな社)の担当者は、「事件当時、被告人のアカウントを停止した理由はユーザーからの通報ではなく、複数アカウントの利用による規約違反だった」と明かしました。

 この事件で殺害に至った動機については「通報されてアカウントが停止されたことに恨みを持っていた」と被告人が供述し、それが事実であるかのように広まっていましたが、はてな社担当者の証言により通報は被告人のアカウント停止とは関係なかったことがわかりました。

アカウントの初停止は2016年前半

 はてな社担当者によると被告人が同社の匿名ブログサービス『はてな匿名ダイアリー』を利用し始めたのは2015年からで、通常は好きなアニメの話を書いていたとのことです。

 ところがまれにスイッチが入ったかのようにほかのユーザーを「低能」、「バカ」、「死ねばいい」などと罵倒することがあり、多いときには1時間で100件もの投稿があったそうです。

 その後、2016年前半に“複数アカウントの使い分け”が判明し、このときにアカウントを初めて停止したということでした。

はてな社「監視体制を強化し、通報に関係なく停止していた」

 被告人は「殺害を決意する決定打になった」理由として、Hagexさんが2018年5月2日に被告人の罵倒行為をはてな社に通報していることを明かしたブログの記事を公開したことだと、午後の公判で語りました(参考:低能先生に対するはてなの対応が迅速でビックリ)。

 しかしながらはてな社担当者の証言によると、すでにこのころには監視体制が強化されており、ユーザーからの通報に関係なくアカウントが被告人のものだとわかった段階で停止していたとのことです。

 裁判官から「被告人のアカウント取得自体への対策はしなかったのか?」という質問もありましたが、はてな社担当者は「アカウントの取得に必要なのはメールアドレスのみのため難しく、やろうとはしたものの反対意見があったため見送られた」と語りました。

被告人は「停止1回目は罵倒が理由、複数アカウントは2回目」と反論

 なお、午後の公判で被告人がはてな社担当者の証言について「事実誤認がある」と反論したことも記載しておきます。

 具体的には「停止した理由の1回目はユーザーを罵倒したことで、複数アカウントを理由にしたものは2回目だった」とのことです。

 はてな社担当者によると、被告人は最終的に約500個のアカウントを取得していました。

 なお、アカウントがたびたび停止されるなかで被告人は「匿名の『はてな匿名ダイアリー』でほかのユーザーを罵倒するのは許されない」とはてな社から伝えられたことから、IDの表示される『はてなブックマーク』でも投稿するようになったと証言しました。

 被告人による『はてなブックマーク』での投稿は、1年間に8,000件にのぼったとはてな社は明かしています。

もはや「通報」は関係ない段階になっていた

 この事件はその後の犯行声明文らしき匿名の書き込み(後に自分が書いたと供述)に「俺を『低能先生』の一言でゲラゲラ笑いながら通報&封殺してきたお前らへの返答だ」、「はてブと通報厨には恩など欠片もない」などとあったことから、「通報」が恨みの理由とされてきました。

 しかし今回のはてな社担当者の証言により、「殺害を決意する決定打になった」というHagexさんの記事が公開された時点ですでに通報に関係なく削除される段階になっていたことがわかりました。

 たしかに被告人の視点ではそれが恨みの理由になっているのだと考えられます。けれども事件当時にアカウントが停止されてきた理由は被告人による過度な複数アカウントの取得と、そうした行為への対処としての監視体制の強化であり、Hagexさんやほかのユーザーからの通報は関係なかったと言えます。

 通報されたことを恨むこととは別の種類の逆恨みと言え、理不尽な被害にあったHagexさんのことが残念でなりません。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。インターネット(SNS)で起きる炎上の解説、デマのファクトチェック、スマホやガジェットの話題、生成AIが専門。最近はYouTubeでも活動しています。執筆や取材の依頼は [email protected] まで

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