北朝鮮の「軍人小隊」を叩きのめした高卒男子たちの怒り
北朝鮮の東海岸、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の端川(タンチョン)市にある検徳(コムドク)鉱山は、国内有数の鉛、亜鉛鉱山だ。そこで今月、乱闘騒ぎが起き、多くの負傷者が発生する事態となった。その原因は、度重なる「嫌がらせ」だ。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは今月初旬のことだ。検徳鉱業連合企業所の退役軍人小隊と高級中学校卒業生嘆願小隊の間で乱闘が起き、複数の人が負傷して、一部は病院に搬送される騒ぎとなった。
(参考記事:【動画】北朝鮮労働者とタジキスタン労働者、ロシアで大乱闘)
退役軍人小隊は、文字通り朝鮮人民軍(北朝鮮軍)で兵役を終えた人々からなるグループで、高級中学校卒業生嘆願小隊は、高級中学校(高校)を卒業して、「嘆願」して鉱山にやってきた人々からなる。いずれも、表向きは自らの意思でやってきたことになっているが、実際は半強制的に送り込まれた人々だ。
卒業生は将来の夢を断たれ、汚くて危険できつい鉱山に一生を捧げることになった。退役軍人も、10年にも及ぶ兵役を勤め上げたのに、実家に戻ることを許されず、鉱山に無理やり連れてこられた。くさっているのは双方とも同じだ。
退役軍人小隊のメンバーは、嘆願小隊から装備を奪ったり、口汚く罵ったりするなど、普段から横暴な振る舞いが目立っていた。
そして、年末計画(ノルマ)の達成を巡り、トラブルが発生した。
退役軍人小隊には、廃坑と言っても過言ではないボロボロの坑道で作業することが命じられた。そこで共に作業する小隊に、嘆願小隊を指名したのだ。嘆願小隊のメンバーは、またいつもの嫌がらせに違いないと怒った。
「自分たちの意のままに翻弄し、振り回すために自分たちを指名したのだ」
「自分たちを再び苦しめようとしている」
しばらくして、両者間で口論が起きた。しばらくして怒号に変わり、ついには手が出るようになった。乱闘は30分も続いた。
高校を出たばかりの嘆願小隊が、軍隊上がりの退役軍人小隊を叩きのめして乱闘は終わった。その2時間後、炭鉱内の安全部(警察署)は、首謀者全員を呼び出して、身柄を拘束した。
朝鮮労働党の炭鉱内の委員会は、年末計画と工場の雰囲気を乱す集団的な暴動だったとみなし、首謀者に対して懲戒措置を取ることにした。両小隊の長は解任、降格の処分を受け、別の職場に配置換えされた上で、無報酬労働2カ月の処分を受けるものと見られている。また、双方のメンバー全員は、教養事業(思想教育)を受けることとなった。
(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界】28歳で頂点に立った伝説の男)
北朝鮮の軍人は、プライドが高く、仲間意識が強いことで知られており、他の部隊の兵士や民間人相手に暴力を振るうことがしばしばある。今回、20歳そこそこの嘆願小隊に鼻っ柱をへし折られたことから、安全部が介入しなければ、血で血を洗う抗争に発展していたかもしれない。
鉱山の上層部は、若い鉱山労働者に思想教育を施して、事件の再発を防ごうとしているが、無駄だろう。
北朝鮮では都市と農村、鉱山の格差がとてつもなく激しい。自由が制限された北朝鮮とは言え、都市では成功するチャンスが転がっている。一方で農村や鉱山は、ほとんどの場合、死ぬまでつらく苦しい労働を続けるしかなく、日々の暮らしも非常に苦しい。商売をしても、人口が少ないため、儲けは小さい。
また、当局が、追放(流刑)の行き先として寒村や山奥の鉱山を使っているため、これら地域のイメージは極めて悪い。嘆願で送り込まれた人々も、なんとかチャンスを見つけて都会に逃げ出そうとしている。
労働環境、住環境の劣悪さが改善されなければ、問題が根本的に解決することはないだろう。