「なぜ土葬はダメ?」 多文化共生を問われる日本社会
鈴木 貫太郎
大分県のある町で、イスラム教徒(ムスリム)の土葬墓地の計画が地元住民の反対によって頓挫した。日本では土葬は禁じられていないが、各地で同様の問題が生じている。なぜ土葬が難しいのか。在住外国人がますます増えると予想される中、筆者はこの問題が日本の目指す多文化共生社会への試金石になるとみる。
反対派町長の誕生で計画頓挫
宗教法人「別府ムスリム協会」(大分県別府市)の代表、カーン・ムハマド・タヒル・アバス氏は2001年に留学生としてパキスタンから来日し、現在は立命館アジア太平洋大学(同市)の教授を務める。「日本人はとても親切で、良い人が多いです」。こう話すカーン氏は日本国籍を取得しており、日本は「第二の母国」である。 日本を愛してやまないカーン氏だが、同協会が抱える「土葬墓地の確保」の問題について話すときだけは、柔らかい表情が固くなる。筆者の目をまっすぐ見つめ、カーン氏は焦燥感をあらわにした。
「イスラム教では火葬が禁じられています。でも、日本には土葬できる場所が極端に少ない。九州や中国地方で亡くなったムスリムの中には、多額の費用をかけて遺体を(土葬墓地のある)関東まで運ぶ人もいます。一刻も早く地元で土葬ができる場所を見つけて、根本的に問題を解決したい」 別府ムスリム協会は18年12月、信者向けの墓地建設を目指して、別府市に隣接する大分県日出(ひじ)町の山中に土地を確保した。「九州地方では初」となるムスリム向けの土葬墓地として、この建設計画はテレビや新聞でも報道されて注目を集めた。建設予定地は周辺に人の住む集落がない山中で、カーン氏ら別府ムスリム協会は20年中の完成を目指していた。
順調に進むかに見えた計画は、地元住民から不安の声が出始めると足踏み状態となった。一部の住民と対話を重ね、代替案として町有地を建設候補地に選定するなど、状況が好転する気配が生まれた時期もあった。だが、24年8月に行われた町長選挙で、土葬墓地建設への反対を訴えた安部徹也氏が、現職候補に3500票以上の差をつけて勝利すると、計画は再び暗礁に乗り上げた。 安部新町長は当選後、選挙戦での訴え通り「町有地は売却しない」方針を明言している。町有地を取得できなければ、土葬墓地は建設できない。カーン氏は「これからも日出町と交渉を続けたい」と語るが、進展は絶望的といえる状況だ。