異例の早さで完成 各地に展開!業務スーパー流『地熱革命』パッケージ化など独自戦略
[2024/04/06 11:00]
2024年3月1日、熊本県小国町の山中に、画期的な地熱発電所が完成し運転を開始した。
手掛けるのは、国内で1000店舗以上を展開する業務スーパーの創業者、沼田昭二さん(69)だ。沼田さんは、業務スーパーの経営を長男に譲り、新会社「町おこしエネルギー」を立ち上げ、流通業界で培った独自の手法を取り入れて、日本各地で地熱開発を進めている。
熊本県小国町に完成したのは、記念すべき、その第1号機。出力約5000キロワット、8000世帯分の電力を生む本格的な地熱発電所だ。売電収入は年間14億円を見込んでいる。
(テレビ朝日アナウンサー 山口豊)
驚異的なスピードで完成した“業務スーパー流”地熱発電所
私は約2年間にわたり沼田さんの取材を続けてきた。
今年1月下旬は地熱発電所の心臓部、タービン試運転の日。まだ雪の残る山道を4輪駆動車で上がると、山中に蒸気が立ち上る地熱発電所が現れた。
堂々たる建屋に、配管が張り巡らされているが、全体は整然とコンパクトにまとめられ、周囲の自然環境に不思議なほど馴染んでいた。
この日、沼田さんが立ち合って行われた試運転は、無事成功を収めた。
3月から順調に運転を続けているこの地熱発電所の特筆すべきポイントの一つは、完成までの速さだ。
通常は運転開始まで10〜15年かかるとされる地熱発電所を、5年余りで完成させ、今後は3〜5年での完成も可能という独自の地熱開発には、沼田さんの強い思いと、業務スーパーを成功させた独創的なアイデアが詰まっている。それはまさに“地熱革命”とも言えるものだ。
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世界3位の資源を活かすため、人生を賭けた挑戦世界3位の資源を活かすため、人生を賭けた挑戦
地熱発電は、地下深くから熱水と蒸気をくみ上げて分離し、蒸気の勢いでタービンを回して発電する。天候に左右されず、安定して発電できる再生可能エネルギーだ。
一定期間にどれだけ有効に発電できたかを表す設備利用率は83%と極めて高く、原発や火力発電をも上回り、ベースロード電源になり得る。
火山大国である日本の地熱資源量は、2347万キロワットと原発23基分にも上り世界3位を誇るが、日本では開発が進まず、実際の導入量では世界10位に後退。電源構成に占める地熱の割合は、わずか0.3%に過ぎない。
日本でこれまで地熱開発が進まなかった理由として、熱源の多くが国立公園内にあることや、温泉組合の反対に会うことなどが指摘されている。しかし、沼田さんによれば、最大の課題は、地下深くの地熱貯留層を掘り当てる難しさと、リスクだという。
地熱貯留層を掘り当てる成功率は約3割と言われている。1回の掘削で5〜8億円の費用が掛かり、失敗すれば、莫大な損失を被らなければならない。
だからこそ、沼田さんは、これまでに120億円の私財を投じ、リスクを取ってスタートアップの「町おこしエネルギー」を立ち上げ、地熱開発に挑んでいるのだ。
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地熱改革その1 「必要なものは自分たちで作る」地熱改革その1 「必要なものは自分たちで作る」
業務スーパー流の地熱改革。そこには、流通業界で成功を収めてきた沼田さんの、大胆かつ緻密な戦略が凝縮されている。
沼田さんの経営哲学の根本にあるのが、「必要なものは自分たちで作る」という考え方だ。
業務スーパーは、国内25ヵ所の自社工場を持ち、自分たちで商品を製造し、コストを削減。さらに店舗の中心に設置される冷凍ケースまで、自分たちで設計・開発している。商品が段ボール一箱分、そのまま冷凍ケースに収まる工夫が施されているのだ。
こうした手法を地熱にも応用していると沼田さんは語る。
沼田さんが地熱用に独自に開発したのが、自走式の掘削機だ。
キャタピラーがついていて、細い山道でも自由に上がっていくことができる。
やぐらを組まずに、自らアームをあげて掘削可能で、約2億円という地熱の調査費用を3分の1以下に減らすことが出来た。
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地熱改革その2 「パッケージ化」地熱改革その2 「パッケージ化」
さらに、沼田さんが地熱開発に取り入れた画期的な手法が「パッケージ化」だ。従来の地熱発電所では、熱源の大きさに合わせて、いわばオーダーメードで、一から調査・設計・開発するなどしていたため、運転開始まで10年以上という長い歳月と莫大な費用を要していた。
しかし、沼田さんは、パッケージ化により、大幅なコスト削減と3〜5年という短期間での地熱発電所の開発を可能にしたのだ。
業務スーパーでは、自社製作の統一された冷凍ケースや冷蔵棚などを、店舗の大きさや形に合わせて配置し、店づくりを行っている。沼田さんは、このパッケージ化の考え方を地熱にも持ち込んだのだ。
町おこしエネルギーは、基本的には5千キロワットの同じ設計の地熱発電所を各地に展開していく。熱源の大きな所には、同じものを複数並べるという発想だ。例えば、1万5千キロワットの熱源が見込める場所には、5千キロワットの発電所を3つ並べればいいということになる。
沼田さんは、同じ小国町で開発中の地熱発電所2号機の現場で、1号機と2号機の設計図面を並べて見せてくれた。建屋などの並び方が若干異なるものの、ほぼ同じ内容だ。沼田さんは、こう解説した。
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地熱改革その3 「フランチャイズ化」地熱改革その3 「フランチャイズ化」
そして、沼田さんのさらなる秘策が、地熱発電所の「フランチャイズ化」だ。
全国に1,000店舗以上ある「業務スーパー」だが、実は、別にオーナーがいるフランチャイズ店が大半で、急拡大の原動力は、“フランチャイズ方式”の活用にあるという。「町おこしエネルギー」のフランチャイズ方式は、地下部分の掘削リスクや費用を沼田さんが負い、建屋や配管など地上部分の建設費用を別の企業と折半するというものだ。
募集をしたのは2週間だけなんですけど、上場企業だけで10数社の応募がありました。フランチャイズ化により、非常にスピードも上がり、毎年1発電所ずつ、全国展開も可能かと思っています」
新社名に込めた思い
「町おこしエネルギー」という会社名には沼田さんの思いが込められている。
沼田さんは、現地法人を作り、地元の人を雇用することを基本としている。
現在、鹿児島県湧水町で地熱発電所3号機を開発しているが、湧水町役場に足しげく通い、行政との信頼関係を構築。さらに、廃業の危機にあった温泉旅館の再生に乗り出し、観光施設の遊歩道を整備するなど、地域貢献に力を入れている。
沼田さんは、地域の再生にこだわる理由をこう話した。
地域と共生し地域を元気にすることが、沼田さんの地熱開発の大前提なのだ。
今、沼田さんのもとには、全国の自治体から地熱開発の依頼が相次ぎ、30カ所以上から掘削の許可を得ているという。
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大病を乗り越え、地熱開発に挑む!大病を乗り越え、地熱開発に挑む!
農家の末っ子として生まれ、若い頃は、布団カバーなどの行商をして生計を立てていたという沼田さん。業務スーパーで大きな成功を収めても、なお、地熱への挑戦を続ける背景には、社会に恩返しをしたいという信念があるという。
現在、日本のエネルギーは海外からの化石燃料に大きく依存。エネルギー自給率は13%ほどと極めて低く、2022年度の化石燃料購入代金は35兆円を超えた。また、電源構成の7割を火力発電に頼る日本では、その燃料代が12.5兆円にも上り、巨額の富が海外に流出している。
沼田さんは50歳の時に甲状腺がんを患った。60歳の時には脳幹脳梗塞で、3日以内に50%の確率で亡くなると家族は聞かされた。いつ自分が死んでもおかしくない経験を2度もしながら奇跡的に生還した沼田さんは、あることを誓ったのだという。
日本が貿易赤字になってしまう最大の要因の化石燃料の費用を何とか解決したい。そういう思いで地熱開発をさせて頂いています。化石燃料からグリーンエネルギーへの転換を必ずすべきだと思っています。
それから、地球温暖化の防止ですね。日本や世界の次世代の子供たちのことを考えると、これをいち早くやらないと、取り返しがつかなくなると考えています」
沼田さんが北海道白糠町に開校した掘削技術専門学校からは、この春、技術を習得した第二期生が卒業。うち2人は、町おこしエネルギーに入社した。今、新たな若い力も得て、沼田さんは地熱改革にまい進している。
日本が誇る国産エネルギー、地熱。沼田さんの情熱と改革により、少しでも拡大することを心より願いたい。