“闇バイト”の深い闇<前編>特殊詐欺に手を染めた少年“ぶどう作り”で更生なるか?
[2023/11/04 10:00]
「やめたいって言ったら『やめられるわけないだろ』って体中あざになるぐらいまで殴られちゃって…」
今夏、私はいわゆる「闇バイト」から特殊詐欺に手を染め少年院送致になった少年たちから話を聴くことができた。ここ数年、詐欺罪で送致される少年の割合が増えていると聞きその実態を知りたいと思ったからだ。
(テレビ朝日 報道局デスク 清田浩司)
■「高額バイト」「安心安全」につられ…
特殊詐欺は平成の初期には見られなかった犯罪である。「犯罪白書」によると新たに少年院に入ってくる者の中で詐欺事犯者が占める割合は、2001年(平成13年)は0.4%に満たなかったが、5年前のピーク時の2018年(平成30年)には15.9%と大きく増加した。
時代、社会情勢の変化と共に生まれた新たな犯罪といえ、スマホからSNSに安易に接触し「高額バイト」「安心安全」などの書き込みにつられ正に“バイト感覚”で特殊詐欺に関わってしまう少年たちが今も多いのだ。
少年たちが特殊詐欺事件で逮捕されるニュースはよく耳にするが、実際に逮捕された少年本人を目の前にして生の声を聞くというのは長年記者をしている自分にとっても貴重な経験だった。個人的になるが今回取材した少年たちは自分の子供と同世代で、被害者は親の世代の高齢者たち、話を聴くにつれ身につまされる思いだった。
■少年院と刑務所の違いは??
「清田さん、今年は少年たちが作ったぶどうの出来がものすごくよくて、初めてワインにできそうです。ぜひ、取材におこしください」
大仏さまが街を見下ろす茨城県牛久市にある少年院、茨城農芸学院の馬場尚文院長から電話があったのは6月のことだった。
3年前、前任地・新潟の少年院の院長時代からのお付き合いで、その時から特殊詐欺事犯の少年たちが増えている現状の取材をお願いしていたが、折からのコロナ禍でなかなか実現できなかった。
新潟では取材ができるタイミングがないまま馬場院長が茨城に異動し、その後新型コロナが5類になったこともあり、今夏“3年越しの取材”が実現できた。
そもそも少年院と刑務所の違いはあまり知られていないかもしれない。入院するのは概ね12歳から20歳未満、刑事裁判ではなく家庭裁判所での審判で少年院送致となった者だ。入院すると3級からスタートする。
学校と同じように個別に担任教官がつき、生活態度や学習状況などからどこまで更生が進んでいるか評価し、月に一度「成績告知」という形で面談が行われる。
この成績次第で在院期間は長くも短くもなり、2級前期、2級後期を経て1級となれば出院となる。概ね11カ月程度の在院期間だが成績や罪名によっては長期収容のケースもある。
刑務所は懲役など「刑罰」を与える場所だが、少年院はあくまで「教育」により少年たちを更生させ社会復帰させる場なのだ。
■広大な敷地で野菜・果物作り 初めての“地ワイン”用のぶどうも
茨城農芸学院は東京ドーム2.5個分の広い敷地を有する。「農芸学院」の名の通り、様々な野菜や果物を育てているが、これは情操教育的な意味合いもある。
施設では3年前から地元のワイナリーと連携して“地ワイン”用のぶどうを育ててきた。去年までは木が若くゼリーにするくらいしか収穫できなかった。
今年は木も育ち初めてワインができる収穫量だと馬場院長が連絡をくれたのだ。ぶどうを育てているハウスはフェンスの外で施設外にあることから、携わるのは社会復帰が近い1級の少年たちだ。詐欺と窃盗の罪で少年院送致となり、今回ぶどうの収穫もした18歳の少年から話を聴くことができた。
■学校を休み暴力団の手先として「出し子」繰り返す
「高齢者の家に行って現金とキャッシュカードを受け取ってコンビニのATMでお金をおろして暴力団の人にお金を渡して、というのをずっとやっちゃってました」
少年は淡々と自らの罪状を話し始めた。中学の頃から不良グループに入り、バイクで暴走行為をしたり、ガソリン代やたばこ代欲しさに親の財布からお金を盗んだりを繰り返し親との関係も悪くなっていったという。受験勉強は頑張り高校に入りバイトもしていたが、お金が入ると外食代やファッションなどですぐに散財してしまう。
お金に困っていた頃、そのグループの先輩から暴力団関係者を紹介される。
「暴力団って聞いて引いてしまうところはなかったんですか、怖いというか?」
「正直、怖いっていうのは最初あったんですけど、なんか自分のことをかわいがってくれたっていうか、自分は結構、人を信じやすいタイプなんで優しくしてもらって、そのままついて行っちゃったら詐欺までしてしまって…」
そして高校3年の時、少年の信じやすい性格が仇ともなり特殊詐欺に関わってしまう。
「簡単に稼げる仕事って言われて、最初に犯罪系の仕事ですか?って聞いたんですけど、向こうは全然、普通の仕事だよって言われたんで、じゃあやりますって」
「詐欺っていう言葉は使わなかった?」
「最初は使わなかったです。いざやってみたら詐欺で…1回目は成功したけど詐欺は嫌だったので、やめたいって言ったら『やめられるわけないだろ』って言われて体中あざになるぐらいまで殴られました。それから2〜3週間ぐらい毎日詐欺やって結局捕まりました」
「犯行を繰り返している時はこのまま捕まらないだろうと思っていたのですか?」
「正直、思っていました。何回も成功しちゃっていたんで、何か勝手に自分イケてるわって思っちゃって…」
「変な自信を持っちゃったんですかね?」
「はい」
犯行中は学校を休んでいたが「友達の家に泊まりに行って学校へ行く」と親には嘘をついていた。10数件犯行を繰り返し被害総額は約2千万円にも上るという。結局、高校も退学。指示役とは電話のみで会ったことはないという。
今回、取材した少年たちは大体1、2週間くらい犯行を続け足がつき逮捕されるというパターンだった。犯行グループがいわば“捨て駒”のように少年たちに末端の役割を担わせ切り捨てているという現実も忘れてはならない。
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■猛暑の中“奇跡のぶどう”を収穫 地元離れ更生なるか?■猛暑の中“奇跡のぶどう”を収穫 地元離れ更生なるか?
猛暑日が続いていた8月、少年たちがフェンスを出てぶどうのハウスへと向かった。インタビューした少年の姿もあった。教官から作業の手順の説明を受けると早速、収穫が始まった。
立っているだけで汗だくになる、うだるような暑さのハウスの中だが、少年たちはハサミを手に黙々とぶどうを刈り取る。その表情は実に活き活きとして達成感を覚えているようで見ていて私も清々しい気持ちになった。
かごはあっという間に、少年たちが収穫したぶどうであふれていた。
「ぶどう作りに携ってよかったですか?」
「はい、やりがいを感じます。やっぱり目標を見つけて、地道な作業でもコツコツやれば、いずれは良い結果につながるということを感じました。何事にも諦めないで、しっかりやるのがいいなって思います」
自分なりに“自信”もつかんだような表情だった。
まもなく社会復帰となる少年、幸い就職先の目途も立っていて家族とは離れ離れになるが“悪い仲間”のいる地元を離れる覚悟だ。最後に同世代に対して“しくじり先生”としてこう呼び掛けた。
「簡単に稼げる仕事はないっていうのと、やっぱりとりあえず家族に相談するとか、誰か大人の人に相談するのが絶対いいなと自分は思います」
後編では安易に「高額バイト」というSNSの書き込みから「出し子」を繰り返してしまった19歳少年の証言、そして最近は、非行歴がないものの自立性に乏しいタイプの少年たちが特殊詐欺に関わるケースが増えているという最新の分析などご紹介したい。