2024年の「農業」倒産 過去最多の87件 きのこ業者や農業ベンチャーの倒産が増加
2025年01月09日 16時00分東京商工リサーチ
2024年(1-12月)「農業の倒産動向」調査
2024年の「農業」倒産は87件(前年比12.9%増)で、コロナ禍の影響で年間最多となった2020年の80件を超え、過去最多を更新した。
負債総額は192億6,000万円(前年比47.0%増)で、前年の約1.5倍に膨らんだ。負債10億円以上の大型倒産が7件(前年3件)と2倍以上に増えたのが大きな要因。
業種別では、野菜作農業などの「耕種農業」が最多の58件(前年比26.0%増)と約7割(66.6%)を占めた。次いで、「畜産農業」が25件(同4.1%増)で続く。耕種農業では、きのこ類の生産をメインとする業者の倒産が13件(前年14件)発生し、高止まりが続いている。温度や湿度管理に伴う燃料代の高騰が収益を圧迫し、生産効率の半面でコストアップなどの事業環境の悪化が浮き彫りとなった。
「農業」は、担い手不足の解消という根本的な課題を抱えながら、コロナ禍での需要減に加え、深刻な燃料高、飼料・肥料の値上がりが続く。さらに天候不順や伝染病など予想が難しいリスクも追い打ちをかけ、苦境に陥った業者の行き詰まりが鮮明となっている。
完全人工光型野菜プラントなどに高度なノウハウを蓄積した(株)スプレッド(TSR企業コード:642077363、京都市下京区、8月民事再生)や、大学発ベンチャーで食用コオロギ生産の(株)グリラス(TSR企業コード:131368567、徳島市、11月破産)も倒産に追い込まれ、技術力や話題性を武器に新たな試みを展開した農業関連ベンチャーの破綻も話題となった。
2025年も引き続き、コストが高止まりし、農業を取り巻く事業環境の改善は期待しづらい。ただ、食の安全確保や地域ブランドの育成、雇用の受け皿など、今後の農業分野にかかる期待は大きく、農業施策の舵取りにも注目が集まっている。
※ 本調査は、 2024年(1-12月、負債1,000万円以上)の倒産から、日本産業分類の「農業」(「耕種農業」「畜産農業」「農業サービス業」「園芸サービス業」)を抽出し、分析した。
「農業」の倒産 2020年を上回り、最多を更新
「農業」の倒産の年間推移は、2020年に80件発生し、コロナ禍に伴う急激な需要減から倒産が増加した。その後、2021年はコロナ関連支援が浸透して42件と半減したが、2022年以降は深刻な燃料高・飼料高でコストアップが収益を直撃。さらに、畜産業での伝染病など想定外のリスクで大手業者の破たんが相次ぎ、再び増加に転じた。
2024年は燃料や飼料の高止まりに加え、コロナ関連支援の縮小による息切れやあきらめ倒産が増加。これまで最多だった2020年を超えて、過去最多を更新した。
【業種別】「野菜作農業」が最多 きのこ類生産業者の倒産が高止まり
業種別(小分類)では、最多が「耕種農業」の58件(前年比26.0%増)だった。耕種農業のうち、最多は野菜作農業の36件で突出した。36件のうち、きのこ類の生産業者の倒産が13件だった。きのこ類の生産業者の倒産は、2022年4件、2023年14件、2024件13件で推移。前年以降に急増したが、2024年も引き続き高止まりの状況が続き、負債10億円以上の大型倒産も2件発生した。
きのこ類は省スペースで生産が可能な反面、温度や湿度管理が求められるため、燃料費の高騰が経営を直撃している。また、「令和の米騒動」としてクローズアップされた米作農業は7件(前年2件)と急増し、米価上昇が事業環境の好転に繋がった気配はみられない。
次いで、「畜産農業」の25件(同4.1%増、前年24件)で、前年と同水準だった。このうち最多は養鶏業の8件(前年3件)、酪農業の7件(同4件)、肉用牛生産業が4件(同5件)と続く。「畜産農業」も引き続き飼料や燃料費の高騰が継続し、関連業者の経営を圧迫している。こうしたなか、2024年の秋口以降は全国的な鳥インフルエンザの伝染拡大が深刻化しており、業界への影響が注目される。
【負債額別】10億円以上の大型倒産が増加
負債額のレンジ別では負債1千万円以上5千万円未満が最多の38件(前年比52.0%増)だった。これらを含む負債1億円未満が57件(構成比65.5%)と、全体の6割以上を占めた。
中堅規模の負債1億円以上10億円未満は19件(前年比29.6%減)と減少した一方で、負債10億円以上の大型倒産は7件(同133.3%増)と前年の2倍以上に増加した。平均負債額は2億2,100万円(同24.7%増、前年1億7,000万円)で、負債が大型化した点が特徴。
負債の最大は人工光で野菜生産を手掛けていた(株)スプレッド(TSR企業コード:642077363、京都市下京区、2024年8月民事再生)の18億6,800万円。採算割れの経営が続き、生産設備への多額の投資が財務を圧迫していた。
次いで、きのこ生産業者の(有)マルヨ(TSR企業コード:412056321、長野県中野市、2024年4月民事再生)の14億5,000万円。相場が低迷するなかで過去の設備投資に伴う多額の借入金が重荷となっていた。
【形態別】消滅型倒産が9割超え
形態別では「破産」が最多の68件(前年比3.0%増)で全体の約8割(構成比78.1%)にのぼった。このほか、特別清算12件(前年比50.0%増)を含む消滅型倒産が80件(構成比91.9%)で9割を占めた。
再建型倒産は、民事再生法の6件(同6.8%)のみにとどまった。前年(2社)からは大幅に増加したが、このうち3社は個人企業の小規模個人再生に伴う手続きによるもの。
【地区別】九州が最多の18件
地区別では、九州が最多の18件(構成比20.6%、前年同数)で全体の2割を占めた。次いで、東北(前年11件)と関東(同12件)が同数の各13件、近畿が11件(同13件)、中部(同8件)と中国(同4件)が同数の9件、北海道(同7件)と四国(同4件)が同数の各6件、北陸が2件(同ゼロ)だった。
9地区のうち、6地区で前年を上回り、2地区で減少、1地区が同数だった。
農業が盛んな地域を中心に、全国に倒産が分散している点が「農業」倒産の特徴といえる。
【都道府県別】最多は北海道 長野県は5件中全てがきのこ類の生産業者
都道府県別では、最多が北海道(前年同数)と島根県(同2件)の各6件だった。北海道では半数の3件が「畜産農業」だった。島根県は「耕種農業」が4件で、このうち果樹作農業が2件発生した。次いで長野県(同2件)と長崎県(同ゼロ)が各5件だったが、長野県では5件中、全てがきのこ類の生産業者だった。きのこ類の生産が盛んな地域だけに地元業界への影響が懸念される。47都道府県のうち、増加は20都道府県、減少は15府県、前年同数は12県で増勢傾向が目立った。