お辞儀ハンコのイメージ(写真:photolibrary)

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’20年11月に河野太郎行政改革担当大臣が“行政手続きにおける認印の押印を全廃する”と発表してから8カ月。実際に改革は進んでいるようで、ある官公庁職員は「最近は河野行革相の下、ハンコ手続きは全省的にかなり減った印象があります」と語る。

脱ハンコの流れが加速する中、注目を集めているのがデジタル端末上で押印可能な電子印鑑。「パソコンで作った書類をわざわざ出力してハンコを押す」「リモートワークなのに印鑑を押すためだけに出社する」などの手間がなくなると評判だ。

しかし効率的な電子印鑑でも驚きの“謎マナー”が残っているという。それは「お辞儀ハンコ」だ。

お辞儀ハンコとは、稟議書のように社内で複数人の承認が必要な書類で、“部下が上司にお辞儀をしているよう「左斜めに傾けて」ハンコを押す”というもの。主に金融業界や官公庁などで見られる商習慣だ。都市伝説かと思いきや、20代のメガバンク職員は「新人研修の時に、傾けて押すように習いました。今もハンコを押す際は傾けて押しています」と語る。

電子印鑑でも、この“お辞儀マナー”が生き残っているというのだ。SNS上で話題になったのは、電子印鑑を利用して、従来紙で行っていた稟議書や見積書などの押印処理をデジタル化できる、シヤチハタ株式会社の電子決裁サービス「Shachihata Cloud(シヤチハタクラウド)」。このサービスではハンコを押す角度を0〜360度まで自由に変えることができる。

電子印鑑サービスが「お辞儀ハンコ」に対応していることに対して、SNSでは

《まだこんなことをやってるのか……》
《無くしたい文化ですね》
《くだらねぇぇ》

と呆れた声が数多く寄せられている。

そもそもなぜ電子印鑑で“お辞儀”できるようにしたのだろうか? シヤチハタ株式会社に話を聞いた。

「弊社としては、傾けて押すことは推奨している訳ではありません。しかし、『傾けられるようにしてほしい』という要望があり、印影を傾けられる機能を追加しました。要望は主に官公庁からだったと聞いています」(シヤチハタ広報・山口高正さん 以下同)

シヤチハタでは’95年から電子印鑑システム『パソコン決裁』というサービスを開発・提供してきた。’07年にパソコン決裁6にバージョンアップした際に、日本の商習慣の中で見受けられる『印影の角度で意志を表現する』ことに対応。印影に傾きをつけることができるようになったという。

今回話題になった「Shachihata Cloud」では、’20年11月から、傾けての押印ができるように。電子印鑑でも意志の表現ができることは、同月発表された河野大臣の“脱ハンコ”宣言推進の後押しとなった可能性もあるだろう。

印影の角度で表現する“意志”としては、お辞儀ハンコのように、傾けて“敬意”を表すほか、逆さにして押すことで“不本意”を示す場合があるという。ハンコで不本意を表現する状況などあるのだろうか?

「引き上げ承認と言うのですが、例えば課長不在の場合、先に部長の決裁を求めることがあります。部長の捺印がある書類に、後からハンコを捺す課長は『書類は見たけど、自分は賛成できない』という場合は“逆さに押す”ということがあるようです」

ハンコマナーといえば“上司より大きいハンコを使ってはいけない”というマナーもあるとされるがーー。

「印鑑の大きさは、それ自体に意味を持たせている場合があり、印鑑の大きさ、書体を見ただけでどの部署のどの役職の人かが分かるルールを敷いている会社もあります」

会議はオンラインに、メールはチャットに、印鑑は電子印鑑に……仕事を行うツールが変わっても、アナログ時代に築かれたマナーは残っているようだ。ちなみに、シヤチハタにはハンコに関する社内マナーはないという。