創作集団CLAMPの圧倒的世界を堪能…約800点の原画、没入感ある映像展示、心に刺さる言葉たち

2024年7月27日(土)8時0分 JBpress

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少年漫画、少女漫画、青年漫画を横断してヒット作を生み出し続けている創作集団CLAMP。創作活動35年の軌跡をたどる展覧会「CLAMP展」が国立新美術館で開幕した。

文=川岸 徹 

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

あなどれないマンガ展

 漫画家や漫画作品をテーマにした「マンガ展」が、美術展のひとつのジャンルとして定着し、その本数も年々増加している。会場となる美術館には、いまだに「子供向けの娯楽であるマンガの展覧会を、美術館でやるなどけしからん」といった批判の声がある程度届くという。だが、日常の娯楽の中にアート性を見出し、自分の頭の中にある「これがアートだ」という枠を広げていくのは、大切かつ楽しい作業だ。

 本題に入る前に、マンガ展の歴史を振り返りつつ、これまでの“神展覧会”をいくつか挙げてみたい。まずは1990年に東京国立近代美術館で開催された「手塚治虫展」。マンガ展の草分けといわれる展覧会で、原画を中心にした構成が評判を呼び、39日間の開催期間に12万人以上の来場者を集めた。だが、時代が早過ぎたのか、国立の美術館がマンガ展を開催することに対して批判の意見が相次いだという。


伝説の展覧会が続々と

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 2000年代に入ると過去の原画を並べるだけでなく、新作の発表など新しい見せ方によるマンガ展が増加していく。「井上雄彦 最後のマンガ展」(上野の森美術館など。2008〜10年)は、作家自身が展示空間に合わせて100点以上の直筆画を描き下ろした。この瞬間、この場限りの「空間マンガ」。井上雄彦といえば、2004年に神奈川県の廃校になった高校を舞台に、教室の黒板23枚にチョークで描いた『SLAM DUNK』の続きも話題を集めた。

 2017年に森アーツセンターギャラリーで開幕した「THEドラえもん展」は、村上隆、奈良美智、梅佳代、しりあがり寿ら、日本を代表する現代美術作家が、自分なりの「ドラえもん」を表現。誰もが知る国民的キャラクターを共通の素材とすることで各作家の個性が際立ち、心からわくわくする展覧会だった。「世界中の人に見てほしい」と願っていたら、今もなお巡回展が続き、シンガポール、台北を経て、今年8月2日からは上海展が始まるそうだ。

 海外でも日本のマンガをテーマにした展覧会が相次いでおり、その決定版といえるのが2019年にイギリスの大英博物館で開催された大規模マンガ展「The Citi exhibition Manga」だ。約3カ月の会期中に約18万人の来場者を記録。これは大英博物館の企画展としては歴代最多来場者数なのだという。日本のマンガの全貌を各時代の代表作で包括的に見せる試み。作家や出版社が抱える“大人の事情と垣根”を越えた内容で、日本では実現できない展覧会だといわれた。

 こうしたマンガ展の歴史を、今なぜここで振り返ったのか。その理由は国立新美術館で開幕した「CLAMP展」がここに加わるだけのポテンシャルとクオリティをもった展覧会だと感じたからだ。


約800点の原画、見せ方が巧み

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 CLAMPはひとりのアーティスト名ではなく、いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこなの女性4名からなる創作集団。1989年「サウス」第3号(新書館)にて、作品『聖伝-RG VEDA-』で商業誌デビュー。その後、少女誌、少年誌、青年誌など多彩な媒体で活躍し、『東京BABYLON』『X-エックス-』『魔法騎士レイアース』『カードキャプターさくら』『ANGELIC LAYER』『ちょびっツ』『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』『xxxHOLiC』『こばと。』『GATE 7』など、数多くのヒット作を生み出した。海外でも人気が高く、作品はアメリカ、フランス、中国、台湾、韓国をはじめ世界20か国以上で翻訳され、総売上部数は1億部を突破している。

 35年におよぶ創作活動の軌跡をたどる本展では、デビュー作『聖伝-RG VEDA-』から最新作『カードキャプターさくら クリアカード編』まで全23作品を網羅し、約800点もの原画を展示。まず、この原画が素晴らしい。

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 会場の冒頭「COLOR」と題されたエリアにはカラー原画が展示されており、各作品独自の世界観を形成するために様々な画材が使い分けられていることに気づかされる。初期の作品は水彩カラーインクで描かれたものが多く、その後の『東京BABYLON』ではカラーのスクリーントーンが、『魔法騎士レイアース』ではコピックが多用されている。こうした新たなチャレンジにより、CLAMPは長年にわたってファンを楽しませ続けてきたのだ。

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 CLAMPの作品は、国立新美術館という会場とも相性がいいと感じた。天井の高さを十分に生かした展示構成。約800点の原画をぎゅっと詰め込むのではなく、白壁の余白をうまい具合に残している。魔法や冒険など描いたスケールの大きなCLAMP作品の世界が、さらに大きく、外へ外へと広がっていくようだ。


映像と言葉でCLAMPの奥深さを知る

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

「MAGIC」エリアでは巨大な壁面に3つのスクリーンを設置。『カードキャプターさくら』や『xxxHOLiC』などから数々のキャクターが登場し、鑑賞者をスクリーンの中へと引き込んでいく。今や映像展示は珍しいものではないが、本展の映像は不思議なほど没入感が高い。展覧会の資料に「CLAMP作品を読んだ時の魔法にかけられたような体験」とあるが、決して大袈裟な煽りではないと思う。

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 そして「PHRASE」エリア。ここはCLAMP作品に出てくる独創的なフレーズを集めた空間。壁にCLAMPの言葉が並べられており、これが思いのほか心に刺さる。展示室の一画にはおみくじ箱のようなケースが置かれ、1人1枚、箱の中からステッカーを引くことができる。ステッカーにはCLAMPの言葉。ちなみに記者が引いたは「貴方の『痛み』や『苦しみ』は貴方にしかわからないのに誰も貴方を笑っていい筈ありません」という『東京BABYLON』皇昴流の言葉だった。このステッカーは会場に設えられた壁に貼り付けて「体験展示」に参加するもよし、大切に持ち帰ってもいいとのこと。

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 約800点もの原画をはじめ、映像、言葉、体験……と、様々な要素が融合した大回顧展。会場の最後には、CLAMPが本展のために新たに描き下ろした『聖伝-RG VEDA-』の阿修羅と『カードキャプターさくら』のさくらの新作も展示されている。

©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 完成度が高く、CLAMPファンにはたまらない内容だろう。そう思ってSNSを覗くと「全人類行ったほうがいい」「4時間あっても足りません」といった充実ぶりを讃える声が大多数。みんなで幸せな時間を共有できる素敵な展覧会。よくぞここまで作り上げたと、拍手を贈りたい。

筆者:川岸 徹

JBpress

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