町田ゼルビアはなぜ失速したのか…“色眼鏡”なしで2024シーズンを検証

2024年12月21日(土)18時0分 FOOTBALL TRIBE

町田ゼルビア 写真:Getty Images

2024シーズンの明治安田J1リーグで台風の目となった町田ゼルビア。開幕から5戦負けなしで首位に立つと、途中セレッソ大阪やヴィッセル神戸にその座を譲ることもあったが、第15節で再び首位につけて第28節までその座を守り続け、“J1初昇格即初優勝”という夢をサポーターに示し続けた。


ロングスローを筆頭としたセットプレーと、ハイプレスからのダイレクトプレーでゴールを目指すサッカーが黒田剛監督の下チーム全員に浸透し、相手の弱点を突くスカウティングも相まって、J1の強豪を次々に撃破していった町田。その結果が19勝10敗9引き分けで勝ち点66の3位という結果につながったのだが、シーズンの半分以上を首位で過ごした事実を見ると、その健闘ぶりと同時に“もったいなさ”も感じてしまう。


8月25日の第28節アルビレックス新潟戦でスコアレスドローとなり、翌週8月31日の第29節浦和レッズ戦で敗色濃厚な中後半アディショナルタイムに追いつき2-2の引き分け、サンフレッチェ広島に首位の座を明け渡してしまう。9月14日の第30節アビスパ福岡戦(3-0)で快勝し再び首位に立ったが、9月21日の第31節北海道コンサドーレ札幌戦(0-0)から11月3日の第35節サガン鳥栖戦(1-2)まで5戦勝ち無し(3敗2引き分け)で、神戸にも抜かれ3位に転落。11月9日の第36節FC東京戦(3-0)、11月30日の第37節京都サンガ戦(1-0)と持ち直し、最終節まで逆転優勝の可能性を残したものの、鹿島アントラーズに1-3で完敗し、夢はここで潰えた。しかし3位に入ったことで、来シーズンはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場することになる。


とかくピッチ外での話題には事欠かなかった町田だが、ここではチームそのものにフォーカスし、開幕からの快進撃と終盤戦の大ブレーキを、来2025シーズンへの展望と共に検証したい。




オ・セフン 写真:Getty Images

開幕快進撃の要因となった選手たち


町田は選手・スタッフによる投票により主将に任命されたDF昌子源を負傷で欠く中、2月24日開幕戦のガンバ大阪戦(町田GIONスタジアム)を迎えたが、その穴を2023シーズンから所属しJ2優勝に大きく貢献したDFチャン・ミンギュが見事に埋めてみせ、5節終了時点でわずか3失点という強固な守備力によって、開幕ダッシュに成功した。


またチャンは、DFドレシェヴィッチの負傷欠場時にもその穴を埋め、貴重なバックアッパーとして欠かせない存在だった。攻撃陣ばかりに目が行きそうだが、DF陣のみならず守備時の切り替えも早く、「全員守備」の意識がチーム全体に行き届いていたことが、快進撃の大きな要因となっていた。


前線では、FWオ・セフンとFWナ・サンホの韓国人2トップが開幕スタメンを張ったが、ナ・サンホがG大阪戦の前半で負傷交代してしまう。そのピンチをチャンスに変えたのが、FW藤尾翔太だ。セレッソ大阪の下部組織出身ながら、2021シーズンに水戸ホーリーホック、2022シーズンに徳島ヴォルティスとレンタル移籍を繰り返し、2023シーズンに当時J2の町田に加入。33試合8得点をマークし、J1昇格に貢献。そして2024シーズン完全移籍に移行した苦労人でもある。


また、2023年8月に前十字靭帯断裂の重傷を負ったFWエリキも、5月3日の第11節柏レイソル戦で復帰。徐々に出場時間を増やしながら、8月31日の第29節浦和戦では、後半36分から投入され、後半アディショナルタイムのラストプレーで同点ゴールを決めるなど、印象に残るプレーを見せた。


加えて山梨学院大時代の2021-2022年に特別指定選手としてプレーし、2023年に正式に入団、通算70試合に出場したFW平河悠も右インサイドハーフとしてチャンスメイク。オーストラリア代表でもあるFWミッチェル・デュークも33歳という年齢を感じさせない運動量で、チームを下支えした。


強豪の宿命でもあるのだが、W杯予選のため代表選手を抱えるチームは、度々主力の離脱を余儀なくされる。デュークは母国の代表ではレギュラーだ。しかし、オ・セフンが韓国代表に初招集され、いきなりW杯アジア最終予選で2戦連発と結果を残しレギュラーポジションを奪ったことは、さすがの黒田監督にとっても嬉しい誤算だったに違いない。


平河悠(町田ゼルビア所属時)写真:Getty Images

夏の移籍期間の動き


これら前線のタレントが揃い、それぞれのストロングポイントを発揮した結果が首位という形で表れた町田。しかし夏の移籍期間に、平河がEFLチャンピオンシップ(イングランド2部)のブリストル・シティに移籍してしまう。当初は2シャドーの一角として起用されていたが、守備意識の高さから右ウイングバックにコンバートされるという皮肉な現実に直面しながらも、18試合消化時点で2得点1アシストの結果を残していた。


「彼の夢を後押ししたい」と快く送り出した町田フロントだったが、本気で優勝を狙うのであれば、せめてあと半年引き留めるという選択肢はなかったのだろうか。23歳の若さながら、実質上4年目を迎えるチームの中心選手の退団は、その戦力以上にチームの穴となる。しかも移籍金が入らないレンタル移籍だ。少々お人好しが過ぎたのではないだろうか。


平河の代役探しと戦力アップのため、町田フロントは夏の移籍期間に積極補強に動く。EFLチャンピオンシップのハダースフィールド・タウンとの契約を満了した元日本代表DF中山雄太の獲得に始まり、Jリーグ間の移籍では異例ともいえる推定3億4,000万円もの移籍金を払い、名古屋グランパスから元日本代表FW相馬勇紀を獲得。さらには湘南ベルマーレからDF杉岡大暉、清水エスパルスからMF白崎凌兵をレンタルで加入させた。


一方で、カップ戦要員となっていたMF高橋大悟を大分トリニータに、MF宇野禅斗を清水にレンタル移籍させ、総勢13人もの選手を放出した。高橋も宇野も移籍先ですぐにレギュラーポジションをつかみ、宇野に至っては移籍即スタメン出場した8月3日のJ2第25節ベガルタ仙台戦で、いきなり挨拶代わりのミドルシュートまで決めてみせた。


少々、清水側からの目線が入ってしまうが、宇野のような好選手を放出し、ベンチを温めることが多かった白崎を獲得する町田の補強戦略に疑問を感じたファンは多かったはず。しかし黒田監督は白崎を8月7日の第25節セレッソ大阪戦で途中出場させた後、8月11日の第26節湘南戦からは最終節まで先発起用。白崎もその期待に違わぬ働きを見せ、ボランチとして中盤の底を締めるだけではなく、1得点1アシストを記録。見事なまでに再生した。結果論ではあるが、町田にとっても清水にとっても「ウィンウィン」のトレードだった。


しかし、中山は加入して4試合目の第30節アビスパ福岡戦で負傷して長期欠場を強いられ、相馬も2列目起用によって、その卓越した得点力を生かし切ったとは言えなかった。


その間、大卒ルーキーの右サイドバックDF望月ヘンリー海輝が台頭し、日本代表にまで選ばれるほどに成長したが、下降気味だったチームの雰囲気を一変させる役割を任せるには、あまりにも酷だった。




藤田晋氏 写真:Getty Images

さらなる補強で“シーズン2”に期待


町田の社長である藤田晋氏は、ABEMAで配信中の『ZELVIA 異端の新参者』で、「(この夏に)来年分の補強もしたつもり」という趣旨の発言をしている。この選手層では、ACLも戦う来季を乗り切るのは、いくらやり繰り上手でシーズン終盤には3バックにフォーメーションを変更しチームを立て直した黒田監督でも難しいミッションとなるだろう。


その黒田監督もシーズンが進むにつれ、優勝へのプレッシャーやピッチ外での騒ぎが要因と思われる睡眠障害に陥り、導入剤を服用していたと同番組で告白している。おそらく監督のみならず、選手も試合と並行して、そうした重圧と闘っていたと思われる。その中での3位フィニッシュには、賛辞を贈りたい。


来シーズンは、福岡の監督に就任した金明輝前ヘッドコーチに代わり、有馬賢二氏がヘッドコーチに就任する町田。有馬氏はJ3のY.S.C.C.横浜(2014-2015)、U-15/17日本代表(2017-2018)、当時J2のファジアーノ岡山(2019-2021)で監督を歴任したが、通常、特に日本人監督の場合、監督経験のあるヘッドコーチを招聘することを敬遠する指揮官が多い。“代わり”が横にいることで、成績次第ですぐにでもクビにされる体制が整ってしまうからだ。


そんな些末なことを抜きにして、有馬氏を新たな右腕として来シーズンに挑む黒田監督。しかし、まずやるべきことは、一貫して強化担当としてのキャリアを進んでいる“強化のプロ”原靖FD(フットボールダイレクター)を通じて、藤田社長にさらなる補強を勧めることだろう。


来シーズンはマークがさらに厳しくなることが予想される中、現状維持の道を進むことは、すなわち“後退”を意味し、マンネリ化というリスクも抱えることにもなる。研究され尽くしたことで、今シーズンと同じ戦い方では通用しないと思われる。真価を問われることになる黒田劇場“シーズン2”に期待したいところだ。

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