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新しいスキルは休憩がなければ上達しない
多くの人が、ピアノや自転車など、新しい技能の獲得のために時間をかけて繰り返し練習した経験があると思います。
皆さんはこうした練習の際、どのタイミングで技能が獲得でき、上達したと感じているでしょうか?
ひょっとすると、いくらやっても全然上手くできなかったのに「一晩寝たらできるようになった」ということはないでしょうか?
実はこれはよく報告されている事実で、この不思議な現象は脳科学でも大きなテーマにされています。
こうした休憩に伴う上達効果は、別に一晩置かずとも「目覚めた休憩」でも起こることが知られています。
難しくて投げてしまった部分を、トイレから戻ってやってみると、すんなりできてしまったという覚えを持つ人も多いでしょう。
しかし多くの人が経験として知っている現象であっても、僅かな休憩で技能が上達する理由はわかっていませんでした。
そこで今回、アメリカの国立衛生研究所(NINDS)の研究チームは、この「目覚めた休憩」が上達をうながすメカニズムの解明を試みたのです。
こうした研究で難しいのが、被験者たちに何を練習してもらうかという問題です。
ピアノや縄跳びなどスキルは数多く存在しますが、ピアノは音楽性やリズム感、縄跳びは筋肉量や肥満度など、上達を制限・ブーストする複数の要因があるため、結果にノイズがまじってしまいます。
そこで研究者たちは極めて簡単な作業練習を選択しました。内容は「4・1・2・3・4」という5ケタのキー入力を10秒間に可能な限り早く行うというものです。
この研究では、まず練習時の脳活動を測定するために、人間が特定の数字を脳内で念じた時に、どのような脳波パターンが発生するかが調査されました。
そしてその結果を反映させて、作業時に被験者が脳内でどの数字を念じているか感知する装置が開発されました。
研究者たちは33人の被験者に対して10秒間のキー入力練習と10秒間の休憩というセットを35回行ってもらい、その間の被験者たちの脳活動を測定しました。
すると意外な結果が分かりました。
上の図が示すように、練習の成果は練習中に全く上達しない一方で、10秒間の休憩が終わるごとに上達していたのです。
また上達度は35回のうち、最初の11回の休憩中が最も大きく、その後は横ばいになっていました。
これは日常的な経験則とも一致します。
楽器や自転車の練習でも、演奏中や乗車中にモリモリ上達するという感覚は少なく、日をはさんだり休憩をはさんで何度も取り組むうちに、気付いたら上手くなっていきます。
そして、その上達の度合いは最初が早く、繰り返すほど緩やかになります。
実験結果は、それが5ケタの数字の入力するという、極めて単純な作業の練習でも起きていることを示します。
さらに興味深いことに、起きている間の短い休憩は、1晩おく休憩よりも上達度を上げるのに効果的であることもわかりました。
どうやら休憩を挟んで起きる上達効果は、ほんの「秒」単位でも起きているようです。
しかしそうなると、気になるのが休憩中に脳内で何が起きているかです。