宇多丸 野外フェス『波物語2021』問題を語る

宇多丸 野外フェス『波物語2021』問題を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2021年8月30日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で野外フェス『波物語(NAMIMONOGATARI)』が新型コロナウイルス感染拡大対策を軽視して開催されていた件について話していました。

(宇多丸)いや、本当にでもこれだけ気をつけていたってね、その特にデルタ株の感染力ね、めちゃめちゃ強くて。どうなるかわかんないというこういう状況の中、ちょっと音楽周り……たとえば先々週末かな? フジロックの開催に関してもいろんなご意見あった中で、さらにちょっとそれを上回ると言いしょうか、ちょっと大問題な状況というのがネット上とかでも話題になっているようで。僕は全然知らなかったんですね。いっぱいメールをいただいて。「こういうことでしたか」なんていうのがありまして。いっぱいメールをいただいているんですが、その中からひとつ、選んでご紹介をさせてください。

(熊崎風斗)「SNSで炎上しています愛知県で行われたヒップポップフェス『波物語(NAMIMONOGATARI)』についてです。土曜日はMCバトル、日曜日がライブという日程で私は土曜日のMCバトルを見に行きました。会場は広く、お客さんも思ったより少なく、十分な距離をとって楽しむことができましたが、今朝SNSで日曜日のライブの状況を知って驚愕しました。チケットはソールドアウトとのことでしたが、土曜日の100倍くらいの人。

会場のキャパに疑問を感じましたし、ディスタンス用のバミリはありましたが、その通りの立ち位置ではとても入りきれないほどの人の多さに見えます。アルコール販売もありだったので、完全にコロナ前のフェスのように密になっていてとても恐怖を感じました。今年から場所が変わったこともあり、行かれたお客さんたちも皆、会場に入ってからそう思われていたと思います。

今のヒップホップシーン最前線で活躍しているメンツが勢揃いしているので熱くなる、そういう気持ちはもちろん分かりますし、野外で炎天下の中、マスクも暑苦しい、息苦しいし、アルコールが入ったら開放的な気分になると思いますが、主催者側はそれらを考慮した上で開催すべきではないかと、あまりにも無神経で憤りも感じます。これが今後のヒップホップシーンのみならず、音楽シーン、さまざまなエンタメシーンにも影響を及ぼしてしまうのではないかと思うと、とても不安です。ウタさん、まとめてください」。

(宇多丸)出た。「学級委員じゃねえぞ、この野郎」という話で。まあ、しょうがないよな。ということでヒップホップイベントというかね、『波物語』というのがあって。今、いろいろとネットとかでも拡散をされて。まあ、写真なんかを見ると要するにお客さんが非常に密な状態でいて。お酒も出されていて、とかね。要するに、今の状況の中でね、みんないろんなやり方で……たとえば音楽イベントとかもね、すごく当然、気をつけてやっているところがほとんどなんですよ。なんだけど、明らかに配慮を欠いた状態でめっちゃやっちゃってるという。

で、ヒップホップ系のイベントなので、RHYMESTERも一応、そのヒップホップグループの端くれなんでね。というか、『波物語2012』で1回、僕らは出たことがあるんですけどね。場所は今回と違うんですけども。当時は伊良湖でやってたんですけど。で、もちろん皆さんも仰る通り、非難されてこれ、当然の状況で。特に開催者が全く、お客さんがどういう状態になるか、みたいなことを計算しなかったのか、何なのか。まあ、もう配慮を欠いているのは明らかだし。これは非難されて当然だと思いますよ。

で、2012年に出た感じで言うと、出る側のメンツも、あといらっしゃるお客さん側も、どっちかっていうとヒップホップシーンでもヤンチャ系というか。だから今回の件に関してね、「ヒップホップの連中は……」みたいな。まあ、どっちかっていうとヤンチャ寄りな感じ、空気のイベントで。だからって許されることじゃないですよ? なので、ちょっとワイルドにやっちゃったのかな?っていうのはなんとなく想像もつくんだけど。でも、その主催者側とか……出てる側は割と行ってから「あちゃー」って思った人も結構多いと思うよ。「この状況か……」みたいなね。「でも今更……」みたいな感じでやった方もいるのかもしれないけど。

まあ、「ヒップホップ」っていうことで今、ひと括りにできるほどね、考え方とかアーティストのカラーも違うので。僕ごときがなんか上から目線で、先輩だからって何かを言うようなシーンでもないんでね。なんだけど、僕の意見、RHYMESTERの宇多丸の意見として言うならば、やっぱりそのヒップホップシーンっていうのはヤンチャでもあるけども、同時にいち早くそういう意識のアップデートとかも含めて、いろんな意味で時代の先を走っているべき。走っていてほしいシーンで。

意識のアップデートも含めてヒップホップは最先端であるべき

(宇多丸)だから、ヤンチャであるっていうことと、その今回みたいなちょっと周りから見て「そういう意識の持ち方なんですか?」なんて言われるようなのはちょっと恥ずかしいっていうか。ヒップホップシーンこそがそういうところでいち早く進んだ手を打つというような。いろんな面に関してね。歌詞の中身とかもそうだけど。意識のアップデートしてこそ、音楽的にだけじゃなくて、そういう意識の意識という意味でも最先端を行って……実際、アメリカのシーンはそれを成し遂げているんで。

たとえば差別的な……もちろん人差別に対しては抗議的なことを歌ってきたけど、じゃあその一方で性差別に関してはどうなんだ? とか。他のいろんな、黒人以外の人種に関してはどうなんだ? みたいな。あとはホモフォビア、同性愛嫌悪に関してはどうなんだ、みたいなところもアメリカのシーンはいち早く、すごくアップデートを遂げたわけで。

そういう意識のアップデートみたいなところをしてこそ、真にかっこいいカルチャーだという風に僕は思うから。そういう風にあってほしいと思うし。だからそういう意味ではちょっと、まあ「反省しろ」としか言いようがないけどね。とにかくこれは本当によくなかったと思います。でもね、これはちょっと関係ない話じゃなくて。やっぱりこのイベントは僕らはもちろんブッキングをされていないけど、今後も音楽フェス、いろいろ企画されていて。僕らも出演が発表されているものもあるし、まだ発表されてないものはわかんないけど。とにかく、ブッキングが着々と進んでいるものももう、あるわけですよ。

で、僕が今年出た中で言うと、たとえば『森、道、市場』とかは、僕の見る限り……少なくとも僕の目が届く範囲では客席も非常にコントロールされた状況でやってたから納得できる状況でできたけど。あの時とはまた感染状況も状況が違って。今はさらに気をつけるべきなのは間違いないし。それで、どうするか?っていうところで、たとえば我々に関して言えば所属事務所のスタープレイヤーズ社長の岸くん。主に岸くんが先方、主催者とちゃんと、どのぐらいの安全対策というのを……でも、今はどのぐらいだったらOKと言えるのかとか。そういうことに関して非常に密に話し合いと、こちらからの提案とか、本当に厳しくやっています。

なので、既に発表されてるものも込みで、僕らRHYMESTERとしてはやっぱり、もちろん音楽業界をね、回していかなきゃいけない。本当は回していきたい。気をつけながら開催して……いろんなスタッフがいるわけですよ。音響とか、照明とか、舞台を作る人たちとか。いろんな人たちがいて、そういう人たち全体を何とか回したいという気持ちもあるけど……やっぱり今じゃないだろうっていうこともあるわけですよね。僕はやっぱり強くそういうのも思うし。

だから、話し合いを重ねて。RHYMESTERとして、たとえば向こうとの話し合い次第によってはいろんな決断をしなきゃいけないかもしれない。僕らも、その僕らの責任の範囲で。「RHYMESTERとしてはこうです」と。だから、ちょっとわかりませんよ。ちょっとここから先のことなので。まだ話し合いもいろんなところでまだ、折衝がいろいろと続いていますし。ちょっと僕、今この場では軽々しいことは言えないんだけど。

でも、今回の一件を見てより、本当に自分で……要するに「行ってダメでした」なんていうのは言い訳にならないなっていうか。やっぱり事前に本当にどういうことになるのか。どういう状況でやることになるのか。あと、もうひとつさ、それこそ客席もそうだけど。俺、ぶっちゃけ、そういう感染対策がゆるゆるなところのバックステージとかね、絶対に行きたくねえし。俺もかかりたくないから。

(熊崎風斗)そうですよね。

(宇多丸)絶対、そういうところでもう本当に、全員のために気をつけたいと思う。自分のためにもそうだし、あとは何と言ってもやっぱり移してしまうっていうのは……万が一でも、自分がその感染拡大に加担するようなことは絶対にしたくないから。

(熊崎風斗)そうですね。本当に万全の対策をした上でだったら……。

(宇多丸)いや、でもしていたとしても、リスクが……なんというか、高まりこそすれ、低くなることはないよね? だから、そんな中でここから近々にものに関して。ここから半年以内とかのものに関してはどういう風にしていくかは、やっぱりこれはより厳しく、事務所としてもRHYMESTERとしても、自分たちと自分たちのファン、お越しいただく皆さんに対して、自分たちとして責任が取れるような選択をしなきゃいけないなっていうのはすごい強く思いました。だから、やっぱりそれは。これでは、当然いけないし。

自分たちが責任が取れるような選択をしなければいけない

(宇多丸)なので、音楽業界にどういう影響があるかと言えば、これはたぶんみんな「これはダメだ」っていう。要するに、「もっと厳しくやらなきゃダメだ」とか「じゃあ、自分たちはどうなんだ?」っていう時に、たぶん己に問うている人が大半だと思います。だから、より厳しくやろうって思ってるところがたぶん大半なんじゃないでしょうか。と、思います。で、もちろん主催者側とかね、出た側も「マズいことをしたな」っていう風にきっとみんな思ってると思うし。

これでね、たとえば感染がある程度拡大するようなことになってしまっているのだとしたら、そればかりは取り返しがつかないけども。できるとしたら、やっぱり今後に反省として生かすっていうことですかね。本当にね。と、思いました。でもやっぱり音楽業界でやってる中で、もちろんそこまで無配慮にやるってことは絶対に俺らはあり得ないけど。じゃあ、それは程度問題なのか? とかね。いろんなことを考えたりしますよね。

(熊崎風斗)そうですね。難しいですね。

(宇多丸)いや、難しいというか、簡単なんですよ。だからそれはやっぱり安全第一でそこは考えるべきなんですよ。ただ、いろんな諸事情をってなると難しい問題みたいになっちゃうけども。でも、優先すべきことは僕は明白だと思うので。無理してまでやることなのか?っていうことは正直、思いますけどね。

ただ、いろんな……ちょっとすいません。僕だけの一存では……RHYMESTERと事務所、これはチームで動いているからね。それに関しては、追々いろんなことが発表になったりとか。場合によってはそのイベントそのものが中止・延期ということもこれからさらに増えてくるんじゃないでしょうかね。もちろん、その向こうにはすごくみんな苦しんでる……生活とかも含めて。というのがあるのも皆さん、こんないちいち言わなくてもね、みんなそれぞれの暮らしが大変だろうから。あると思うけど。

まあ、とにかくちょっと、これはちょっとやってくれちゃったなっていうのはありますね。そして、これはコロナとは関係ないけど。「会場がすごいゴミだらけだった」みたいなのもそのついでみたいな感じで。「ほら、ガラが悪い!」みたいな。

(熊崎風斗)写真が出ていましたね。

(宇多丸)だから、僕は何度も言うけど、ヤンチャであることとそうやって意識を高く持つことは全然、本当に両立することで。それがちゃんと行けるところがやっぱりヒップホップのかっこよさでもあるんだから。これはヒップホップシーン全体が意識面からも、もうちょっと日本のヒップホップシーン、先に進もうぜっていう風に考え直す契機にもなるならばせめて……という気もしますけどね。なんてことをね、50からのおじさんが言ったってね、そんなものはね、学級委員じゃねえって言ってるんだよ。本当に。知らないよ、本当に。小声で言いましたけどね。

(熊崎風斗)聴こえてましたよ(笑)。

(宇多丸)聞こえたと思いますけどもね。

<書き起こしおわり>

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