町山智浩 映画『万引き家族』を語る

プチ鹿島 映画大好き安倍晋三首相と『万引き家族』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について話していました。

(町山智浩)あ、もう時間がすごくたっちゃって。今日、すいません。話しすぎた(笑)。本題の『万引き家族』の話をしなきゃいけないんですけど。とにかく『万引き家族』がカンヌ映画祭でグランプリをとったというところから、日本でものすごいバッシングなんですね。

(山里亮太)そう。「日本の恥をさらすな」みたいなことを言われているっていう。

(町山智浩)そうなんですよ。だから『万引き家族』なんていうタイトルの映画だからということで。中身を見ないうちからタイトルだけで……「万引きをする家族を素晴らしく描いているんじゃないか?」みたいなことを察したんでしょうけど。タイトルのみで、映画を見ないでね。で、さらに福祉に関しての政府のやり方に対して異議を示したりするような監督の映画であるにもかかわらず、この映画を作るのに国の助成金をいただいているということで、「国を批判するなら助成金なんかもらうな!」ってまた叩かれているんですよ。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)「ちょっと待て!」って思いますよね。本当にね。というのは、この『万引き家族』の是枝裕和監督はもともと、ある家族が自分の親が死んだことを隠して、その親の年金を受け取り続けてきた家族がそれが発覚した時に、その年金を不正受給した家族たちのことをものすごくテレビのワイドショーを含めて普通の人たちが叩いたということがあって。「こいつら、許せねえ! 年金を不正受給しやがって!」みたいな感じで。で、是枝監督はそれを見て「なんだろう?」って。「親の年金に頼らないと生活をできないような状況にある人がいるっていうことに対してそれを徹底的に叩く。いちばん弱い人たちを叩く。これは、なんなんだろう?」っていうところからこの『万引き家族』を作ろうとしたとインタビューで言っていますんで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そしたら、実際にその映画を作ったら「助成金だけ取りやがって!」とかね、言って叩いている。その通りじゃないかという(笑)。監督の思ったとおりにハマっていてどうするんだ?って思いましたよ。だから、是枝監督は政府を批判しているんじゃなくて、「そういう弱い人……上手く生きられなかったから、すごく変な形でしかお金を得られない、生活をできない人たちを叩く。いちばん弱い人たちを叩くっていうのはなんなのか?」って言っているのに、それを描いた映画を叩くっていうね。日本はどこまで弱い者いじめの人たちばっかりになっちゃったんだ?って思いますよ。

(山里亮太)たしかに、そうだよな。

(赤江珠緒)ねえ。それはまあ、本当に一部の人だとは思いますけども。

いちばん弱い人を叩く風潮

(町山智浩)まあ、もちろんそうだと思います。映画を見ないで言っているわけだから……まあ、映画を見ないで言うっていうのもあれだけど。

(赤江珠緒)そうなんですよ。

(町山智浩)なんなんですけどね。で、映画を見るとまず、どういう映画か?っていうと、ものすごくこの家族が愛おしくなる映画でしょう?

(赤江珠緒)はい。そうなんですよ。

(町山智浩)あの子たちが本当にかわいくてしょうがないでしょう?

(赤江珠緒)そうそう。

(山里亮太)だから何が正解かがわからないんだよね。もうこうなってくると……。

(赤江珠緒)ねえ。なにかきれいなものを見たわけじゃないのに、すごく美しい映画だったなって思っちゃう感じがあるんですよね。

(町山智浩)まあ、きれいなものを見たんですよね。見た目は汚いけどね。だからいつも言っているように、写真には写らない美しさがあるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(山里亮太)『リンダリンダ』だ。

(町山智浩)ねえ。あと、その映画を見ないで攻撃している人とかはね、「そんな万引きなんかで生活をしているやつらはクズだ!」みたいなことを言って、ひどいことを言っているんですけど、あの家族は働いているんですよ。実際に映画の中でこのリリー・フランキー演じるお父さんは建設現場で働いているんですよ。安藤サクラさん演じるお母さんもクリーニング屋さんで一生懸命働いているんですよ。働いているのに、それでもご飯を食べるのが大変なんですよ。それで、「万引きする」って言っているけどなにを万引きしているのかっていうと、食べ物ですよ。

(赤江珠緒)うん。

足りない食べ物を万引き

(町山智浩)スーパーでほんの少し、家族全員が食べるご飯をとっているだけなんですよ。それで「万引きなんかしやがって! 万引きなんか犯罪じゃないか!」って……ちょっと待て。彼らは働いていてもご飯が食べられなくて、わずかな食べ物がほしくて万引きをしているんですよ。この映画の中でね。それ、スーパーとかで年間、どれぐらいの食料が賞味期限切れということで捨てられていると思いますか?

(山里亮太)ものすごい量なんですよね。

(赤江珠緒)そうなんですよね。廃棄率がね。

(町山智浩)600万トン以上ですよ。600万トン以上の食料が廃棄されているんですよ。それをたとえば食べれない人たち、ホームレスの人たちに行き渡ったら、それだけで相当救われるでしょう? そういうことをしていないじゃないですか。

(山里亮太)アメリカはそういうこと、していますよね。たしか。

(町山智浩)アメリカやヨーロッパはしています。そういうのが無駄にならないように、全部タダで配っていますよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)日本はまだ、始まったばっかりですよね? だから「万引きが!」って言うよりも、まずはそれをやれよっていう話ですよね。で、そのシーンっていうのは僕、この映画を見ていて思ったのは、この前の前の年にカンヌ映画祭でグランプリをとった映画があるんですけども。『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていうイギリス映画があって。そこでもシングルマザーのお母さんが飢えて廃棄というか寄付された食料にかぶりつくっていうシーンがあるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、この『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていう映画は『万引き家族』とすごく似ているんですよ。ポスターとかも似ているんですけども。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』と似ている

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)これはずーっと働いてきたおじさんが60近くになってケガをして働けなくなるんですよ。同じでしょう? リリーさんと。それで政府の失業手当みたいなものを受けようとすると、いろいろと難癖をつけて手当を支給しないんですね。お金を政府が払わないんですよ。そのうちにどんどんどんどんヤバくなっていくっていう話なんですけども。それは実際にイギリスであったことで、その当時の保守党政権が緊縮、緊縮っていうことで福祉を削っていく中で起こっていったことを描いたんで。この『わたしは、ダニエル・ブレイク』がカンヌ映画祭で賞をとった時にもイギリス政府の保守的な人たちは「国の恥だ!」って言っていたんでそっくりなんですよね。

(赤江珠緒)えっ、そうなんですか! そういうところの世界共通というか。

(町山智浩)世界共通なんですけども。もう全然時間がないですね。続きは来週やろうかな? とにかく、いわゆる「弱者利権」っていう言葉を作って弱者を叩いているような人が問題であって。政府よりもこの『万引き家族』が問題として見すえているのは――見えないんですけども――そういう、いちばん弱い人に攻撃を向けるようになってしまった日本人の心というものが問題なんだなって僕は思うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それで……もう全然時間がないんで、話せないな(笑)。

(赤江珠緒)大丈夫。町山さん、この話しきれない部分は引き続き、来週やりましょう。

(町山智浩)そうですね。はい。来週もじっくりやりましょう。

(赤江珠緒)ねえ。語りたい映画ですもんね。

(町山智浩)じゃあ、もう来週やりましょう。来週までにみなさん、見ておいてください。そしたらネタバレもなんでもありなんでね。

(山里亮太)たしかに(笑)。

(町山智浩)来週楽しく聞いていただくために、ぜひみなさん、これから映画館に行って『万引き家族』を見てください。すいません(笑)。

(赤江珠緒)でも町山さん、(現在取材中の)そのフィラデルフィアの街の精神とどこか通じるところがある気がしますね。

(町山智浩)ありますね。はい。だからフィラデルフィアで『ロッキー』の第一作目というのはみんな、本当に希望がなくなって貧乏でどうしようもなくなっているところにロッキーが希望を与えるっていう話だったんですよ。で、いろんなものに似ているんで。『デッドプール2』にも似ているし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.2』にも似ているんですよ。『万引き家族』は。だから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とか『デッドプール2』とかマーベル映画が好きな人も、ぜひ『万引き家族』を見ていただきたいと思います。

(山里亮太)どういう共通点があるのかはじゃあ、来週。

(赤江珠緒)来週たっぷりうかがいましょう。

(町山智浩)はい、すいません(笑)。

(山里亮太)町山さん、ありがとうございました。

(赤江珠緒)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした(笑)。

<書き起こしおわり>


※翌週の仕切り直し解説です。あわせてぜひご覧ください!

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