町山智浩『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を語る

町山智浩 クインシー・ジョーンズと楳図かずおを追悼する こねくと

町山智浩さんが2025年1月7日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を紹介していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得て、町山さんの発言を抜粋して記事化しております。

(町山智浩)今日はですね、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』という映画を紹介します。

(町山智浩)今、みんな心の中でたぶんこの曲を聞きながら「愛してるよなんて♪」って思っていたと思うんですけども。歌い出したらいきなり知らない言葉が出てきてびっくりしたと思います。「誘ってもくれない」とかって歌詞を想像していたのに違う歌詞が出たんでびっくりしたと思いますが。これは広東語バージョンの『ダンシング・ヒーロー』なんですね。で、この曲が大ヒットしたのは1987年なんですが、その頃を舞台にした香港のカンフーアクション映画です。

で、なぜこの映画を今日紹介するかと言うと、この映画で大ボスを演じているサモ・ハン・キンポーさんの誕生日です、今日は。サモ・ハンさん、もう70を過ぎてまして、まだお元気ですけども。で、この映画は九龍城という……日本で九龍城として知られてたんですが、本当はガオルン城っていうらしいんですけども。香港の、なんて言うんですか? 世界最大のスラムを舞台にしたギャングカンフーアクション映画なんですね。で、この映画は電線映画なんですよ。電線がもうずっと、ものすごい量で滝のように建物の中を駆け巡ってるのがずっと映ってる映画ですね。はい。これね、九龍城というのはなんて言うんですかね? どこの国でもない土地だったんですよ。

元々、香港は清王朝という中国の王朝の持ち物だったわけですけど。中国の国土でしたからね。で、その清王朝の国土防衛用の砦として作られた建物らしいんですよ、最初は。で、そこに清の軍隊が駐留してたんですけども、アヘン戦争で香港がイギリスに借款されることになって。で、香港がイギリス領になった時、そこだけ清の軍の砦として残されたらしいんですよ。飛び地として。で、その時は軍がそこに駐留していたらしいんですけども。で、その後、清という国がなくなっちゃうんですよね。だから、そこが無人になっちゃうわけですよ。

で、無人になるんだけど英国もその土地の権利は持ってないわけですよ。で、中国は共産国になるんですけども、その後もずっとその九龍城は誰のどの国のものでもないものであり続けるんですよ。すると、どうなるかというと警察が入れないんですよ。だから中国から逃げてきた難民の人たちがそこに住むでしょう。あとヤクザが住むでしょう。追われてきた人たちがそこに隠れるでしょう。だから完全な無法地帯になるんですよ。

だからちっちゃい『マッドマックス』みたいな世界ですよね。屋内『マッドマックス』ですね。『北斗の拳』みたいな世界が屋内にある状態ですよ。これは怖いですよ。逃げ場がないからね。で、電線がすごくいっぱい増えたっていうのは最初、そこには電気が流れてなかったらしいんですよ。だから他から引いてきて、各自が引いていたんで。それでそうなったらしいんですね。途中からは電気を送るようになったらしいですけど。で、内部では一時、人口密度が世界一になったのかな? サッカーコートの3.5倍くらいの面積に5万人、住んでたことがあるらしくて。もうすごいんですよ。

で、この建物はバラバラに作られたらしくて。要するに法律も何もないから、各自が勝手に建物を作って、付け足していったんですね。増築していって、ああいう四角い塊になってますけど、中身は全部バラバラの建物らしいんですよ。しかもですね、プロの建築家が作っていなくて、基礎工事もしてないで建ててるんですよ。高さ15階くらいまで行ったらしいんですけど。でも、みっちりしてるところに建ていくから、互いに支え合って倒れないという。

でも中は隙間だらけだし、床の高さも合ってないしっていう、もうめちゃくちゃなんですよね。中がね。で、これは1987年、さっきの荻野目ちゃんの歌が流行ってた頃に香港政府が……要するに香港は中国から借りてる状態だったんでイギリスが香港を中国に返還するっていうことになって。で、九龍城も結局、破壊しなければならないということになった時の物語がこの『決戦!九龍城砦』なんですね。それだけで見たくなりますよね?

で、この映画のプロデューサーはそこで生まれ育った子供らしいんですよ。生まれ故郷は九龍城っていう。もう、すごい世界ですよ。そりゃいるでしょうね。最大で5万人も住んでたんだからね。でね、主人公はチャンっていう青年で中国本土から来た難民なんですね。で、偽パスポートを作ろうといてサモ・ハン扮するボスにお金を払うんだけども、騙されて。で、ドラッグを持ってサモ・ハンのアジトから逃げ出して、この九龍城に逃げ込んで。で、その九龍城を仕切っているのは竜巻(サイクロン)という名前のボスなんですよ。

で、その彼の元で弟子として修行して……「修行」っつっても、なるのはヤクザですけど。それでその九龍城を守ろうとするという話なんですよ。で、どうしてそのサモ・ハンたちが九龍城を狙っているかというと、その九龍城の人たち5万人を要するにそこから出さなきゃなんないんですよ。だから香港政府は立ち退き料を払おうとしてるんですね。サモ・ハンはそれをかすめ取ろうとしているんですよ。これ、莫大な金額ですよ。だからそこで入り込もうとして、そこを仕切っているそのサイクロン組にサモ・ハンの組が侵略戦争をかけるという話なんですね。

そう聞くと、ものすごくリアルな感じがするじゃないですか。だけどこれ、原作が漫画なんです。それも少年ジャンプみたいな漫画なんですよ。だから今のシチュエーションはすごくリアルなんですけど、ヤクザなんだけども、戦ってるとたとえばパンチをバーンと出すじゃないですか。するとパンチされたヤクザがピューって飛んでいくんですよ。何メートルも。全然リアルじゃない(笑)。しかも途中にコンクリートの壁とかあると、突き抜けます(笑)。『ドラゴンボール』か?っていうね。これ、原作通りなんですけども。でもね、これがまたいい感じなんですよ。

香港映画の黄金時代だった1987年

(町山智浩)というのは、これは1987年を舞台にしてるんですが、1987年というのは実は香港アクションの黄金時代なんです。これね、僕なんかも本当にそれを実感してるんですけど。特にこの1987年前後に作られた香港映画ってのはすごくて。たとえばジャッキー・チェンの最高傑作と言われてる『ポリス・ストーリー/香港国際警察』はこの頃に作られているんですよ。

ジャッキー・チェンがもうこれ以上のアクションは撮れないだろうってぐらいのすさまじいなんですよ。内容は。人が死んでないのがおかしいぐらい……まあジャッキー・チェンは大怪我して救急車で運ばれますけどね。ラストで。それとかですね、あとミシェル・ヨーさんっていう女優さんがいますね。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアカデミー賞主演女優賞を輝いた。あの人がデビューしたのがこの頃なんですよ。それが『皇家戦士』というアクション映画で、共演が真田広之さんです。

あとは『男たちの挽歌』という映画があるんですよ。香港ノワールの大傑作でチョウ・ユンファさんが主演したやつですが、あれも作られたのはこの頃なんですよ。だから香港映画が大変ことになっていたのは1985年から89年にかけてなんですよ。その5年間っていうのはあまりにもすごくて。あんまりにもすさまじいアクションばっかりやりすぎて大怪我をしたり……ミシェル・ヨーさんも大怪我しましたし、ジャッキー・チェンも大怪我しました。重傷者まで出たんで、さすがにこの路線もまずいってことで縮小したんですけども。

大爆発に巻き込まれて主演女優が全身大やけどっていう事態にまでなりまして。エスカレートしていっちゃったんですよ。香港アクション映画は。やりすぎたんですね。はい。その頃のやりすぎな感じがものすごく出てるんですが。この『決戦!九龍城砦』という作品のアクションを監督した人は日本人です。谷垣健治さんという日本の方です。彼はその頃に香港アクション映画の80年代の傑作を見て「この世界に行きたい」って決めて、1人で香港に行って、エキストラからスタントマン、そしてアクション監督へと成り上がった男なんですよ。それこそもう全身ボロボロになりながらやったわけです。その頃の香港映画っていうのは、とにかくマットを敷いてない床に2階から飛び降りるとか、そういう世界ですからね。

法律的に間違ってるんですよ。法律的に間違った世界ですから。その頃の香港映画っていうのは。だからそれこそ、真田広之さんがハリウッドで何年もかけて。それで最終的にプロデューサーとして『SHOGUN』で成功したりね。あと『Mr. Jimmy』のジミー桜井さんがジミー・ペイジになろうとして本当にジミー・ペイジから認められたのと同じなんですよ。谷垣さんは。ジャッキー・チェンになりたくて。だからね、この87年っていう時代設定とその87年に作られていた香港映画のことを考えると非常に胸が熱くなるんで。人が飛んでいって壁をぶち抜いても「それはOK!」っていう感じなんですよ。それが基本だからっていう。で、サモ・ハンっていう人はまた素晴らしい人で。サモ・ハンはブルース・リーの弟子ですよ? 本当に直系の……香港アクション映画を作ったのはブルース・リーですけども。その本当のお弟子さんなんでね。それをここで出してくるというね、まあ素晴らしい映画なんですが。ちょっとね、ここで1曲、かけてもらいます?

これ、吉川晃司さんの『モニカ』なんですけども。この『トワイライト・ウォリアーズ』、すさまじい香港カンフーバトルが続くんですが。その中で最強の敵がこの歌を歌うんですよ。カラオケで歌うんです。当時、香港でもヒットしたんですね。で、こいつがものすごい最強で、どのくらい最強かって言うと気功を極めたがゆえに体が鋼鉄のようになって、拳銃の弾丸も日本刀も受け付けないぐらい体の硬い男なんですよ。

もう面白いですよ。日本刀で切りつけても、いきなり日本刀の刃を噛み砕いて、飲み込んじゃうんですよ。めちゃくちゃ強いんですけど。それで「サンクス、サンクス♪」とか言ってるんですけど。こいつをどうやって倒すか?って話になってくるんですよ。

でもこんなに強い男がですね、なぜか僕、見ていると昔のTBSラジオのプロデューサーで橋本さんっていうプロデューサーがいたんですよ。橋Pですよ。こいつ、橋Pそっくりなんですよ! 衣装とか演技とかは北村一輝系なんですけど。北村一輝の一番くどい演技をやってますけど。「やめろ!」って言いたくなるような演技してるんですけど、最強なんですよ。銃で撃っても死なないんですよ。でも見た目は橋Pなんですよ。

橋Pそっくりな最強の敵

(町山智浩)しかもね、ものすごいイキったやつでね。イキったところを示すために燃えてる石炭をかじって、つまみにしたりしてるやつなんですよ、こいつは。でもこの映画ね、そんなにすとんでもない映画なんですが、見てると悲しくなっちゃうんですよ。これ、『トワイライト・ウォリアーズ』って「黄昏の戦士たち」っていう意味なんですけど。つまり、その九龍城っていうのはなんだかんだ言って戦ったところで、結局はなくなっちゃうよってことなんですよ。もう滅びる運命にある人たちなんですよ。これがなぜ今、中国で作られたかってことがあって。今、香港は滅びつつあるんですよ。

中国共産党のすさまじい圧力で、香港のでたらめなところが全部なくなっていって。で、香港といえばネオンが有名だったんですけど今、香港にはあのネオン、もうないんですよ。あのネオンのない香港に誰が行きますかね? で、中国共産党政府は徹底的な香港の弾圧をやってるんで、もう年間に10万人、20万人っていう勢いで住民が外国に逃げて行って。人口が急激に減少してるんですけど。で、たぶんこの映画を作った人たちの中には懐かしい香港。香港がまだいかがわしかった頃。香港がもうトワイライトでね、もしかしたら滅びてしまうかもしれないという不思議な哀愁が漂ってるんですが。

でも、橋Pが『モニカ』を歌いながらね、石炭をかじったりしてる映画なんで。非常にそれも難しいところなのですが。というね、ちょっと情報量が多くてすいませんでした。はい。

映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』予告編

『アメリカ流れ者』2025年1月7日放送回

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