ヴィニャーレス、所属チーム離脱に思う

ほぼ可能性は失っていたとはいえ、前戦モテギでは劇的な最終ラップの攻防からチャンピオンシップリーダーが転倒し、ポイントスタンディング的は面白みがぶり返して来た印象であったMoto3クラスだったが、思わぬ展開は、まるでお昼のドラマ観ているようだった。

マーヴェリック・ヴィニャーレスはモテギまで戦っていた所属チーム、ブルセンス・アヴィンティアを一方的に離脱。金曜から開催されていたマレーシアGPを棄権した。すでにヴィニャーレスと彼の代理人であり父親のアンヘルは帰国の途についている。

この話、最初に聞いたときはアラゴンGPでのマシントラブルからスターティンググリッドにも着けない事態となり、ポイント争いから戦わずして離脱したのが大きく影響している、と感じた。コース脇に力なくマシンを止めたヴィニャーレスは、マシンを乱暴に倒し、彼の悔しさと失望は画面上からも感じ取れた。もちろんこの行為については賛否がある。

後日談としては、当初ECUの問題と云われていたアラゴンでのトラブルは、どうもチームによる過剰なエンジンチューニングが原因だったようで、そのトラブルもアラゴン戦だけではなく、これまで度々あったらしい。関係者の間でもブルセンス・アヴィンティアはトップチームに位置してはいない、との認識でもあったようだ。

日本GPではレースウィーク中に彼らのピットでは見慣れない白いシャツを着たHRCエンジニアとおぼしき日本人スタッフが出入りしていた。より積極的な技術的支援でテコ入れされている印象があった。それでもヴィニャーレスはストレートで明らかな劣勢が感じられ、中々集団グループから抜け出せないでいた。体格の問題もあるだろうが、同じHONDAエンジンを使用するアレッサンドロ・ツヌーチにも及ばなかったのは相当悔しかったようだ。

ヴィニャーレスはこのような状況に口を噤んでいる様なタイプではなく、公式にもマシンやチームのポテンシャルについての不満を辛らつに語っていたようだ。それもここまで5勝をあげた自負もあっただろう。

このようにチームに不満があったヴィニャーレスだが、アラゴンGP開催中にはブルセンス・アヴィンティアと2014年までの契約更新に調印していた。

では何故ここに来てヴィニャーレスはチームを非難し、一方的に離脱と言う暴挙に至ったのか？。それはヴィニャーレスの交渉窓口でもあり、エージェントのリカルド・ジョベの存在がある。ジョベはヴィニャーレスの個人マネージャーでもあり、ブルセンス・アヴィンティアの代表でもあるのだ。

ヴィニャーレスにはその才能をからライヴァルであるKTM系のチームから来季に向けオファーがあったようだ。しかし交渉窓口となるジョベはブルセンス・アヴィンティアの代表でもある。若き才能をみすみす獲り逃がす事はできない。それは自らのチームの弱小化にも繋がるからだ。

ジョベはこのオファーをもみ消し、ヴィニャーレス側に伝えなかったようだ。これをヴィニャーレスが何だかの理由から知ることになり、このKTM系チームと契約（二重契約）をしてしまい、今季マレーシアGPを含めた全戦の欠場。来季からの2年契約の解消、が事の顛末となる。

しかしエージェントを所属チームの代表に任せるものか？。互いの利害が交錯するのは目に見えていただろう。まぁ、事実任せていたのだからこうなったのだろうが。

リカルド・ジョベには似たような前歴があるようで、エスパルガロ兄弟、トニ・エリアス、フリアン・シモン、以前ではパブロ・ニエトなどとの関係も解消している経緯があるようだ。

しかし契約は約束であり、ヴィニャーレスは約束を守る責任がある。いくら17歳とはいえ、プロスポーツの世界に身をおく立場としては、契約の重みは重々承知しているだろう。金を払い企業色に彩られたマシンを乱暴に扱ったらどうなるか？、も理解できると思う。一説によるとレプソルとのサポートも今季をもって打ち切られると言うことだ。

ヴィニャーレスが負う代償は少なくない。それでも自らの才能を信じ勝ち続け、存在の正当性を証明するしかないのだろう。