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トレンドビュー◎夜間救急、効率化の切り札
普及が進む「院内トリアージ」ってどんなもの?
医療安全の質的向上にも一役、有用性の検証進む

 ある日の23時過ぎ、倉敷中央病院(岡山県倉敷市)に56歳の男性が胸部の圧迫感を主訴に来院した。患者は顔色がやや青白いものの、呼吸・意識障害は認めず、歩行や会話は可能だった。発汗もなかった。来院から5分後の23時17分、トリアージナースがバイタルサインのチェック、フィジカルアセスメント、症状の経過などについてのインタビューを開始した。

 患者は、「就寝してからしばらくたった22時ごろ、突然胸部が圧迫されるような感じがあり、冷汗が出た」と話した。しばらく寝ていると症状は治まったが、初めての経験だったので不安になって来院したという。

 来院当初の血圧は160/74mmHg(右)、163/78mmHg(左)、心拍数80回/分、呼吸数18回/分、体温は36.6℃、SPO2は98%、GCSは15、疼痛レベルは胸痛0/10。バイタルサインと症状の経過から、トリアージナースは急性冠症候群(ACS)、大動脈解離、気胸の可能性を予測。しかし、背部痛や呼吸困難、複雑音、呼吸音の左右差や血圧の左右差は認めなかった。

 来院時には胸部の圧迫感は消失していたが、(1)冷汗を伴う胸部圧迫感が20分程度続いていたこと、(2)動脈硬化が進行している可能性が否定できないこと、(3)顔色が悪く、虚血によるショック徴候とも考えられること――から、トリアージナースはこの患者の症状は心原性の胸痛と推定。急変する可能性があると判断し、院内トリアージの指標は、迅速な治療が必要な「緊急(レベル2)」とした。

 トリアージ後にACSかどうかを判断する目的で、救急医の指示の下、23時25分に心電図検査を実施。その結果、V1~V4、II、III、aVFでST変化が認められたため、循環器内科の医師に診察を依頼した。処置室へ移動し、モニターを装着。ベッドで安静にするよう伝え、医師による診察を待ってもらった。

 来院から約20分後の23時32分、医師による診察を待っている間に突然、患者の意識が消失。痙攣を生じ、心室細動(VF)を認めた。蘇生が必要と判断し、23時33分に一次救命処置としてBLS(Basic life support)を開始。23時40分に医師が到着し、除細動(DC)200Jを実施した。

 23時42分に心拍再開。呼びかけに反応するようになり、血圧は90/53mmHg、心拍数77回/分、SPO2は100%(5L酸素投与下)となった。その後、急性冠症候群と診断され、緊急冠動脈インターベンション(PCI)を施行。心疾患集中治療室(CCU)へ入室し、一命を取り留めた。

患者の容体変化を素早く拾い上げる
 夜間に医療機関を訪れる患者の中には、一見、重篤には見えなくても、緊急度の高い患者がいる。冒頭で紹介した症例のように、夜間救急で診察の順番を待っているうちに、患者が突然急変したケースを経験したことのある医師も少なくないだろう。

 「多くの来院患者の中から、緊急性の高い患者を拾い上げ、重症化する前に処置できる体制にしたい。そんな看護師からの声がきっかけとなり、院内トリアージの導入に踏み切った」と話すのは倉敷中央病院救命救急センター・救急科主任部長の池上徹則氏だ。冒頭の症例についても、「来院後すぐに院内トリアージを実施していたからこそ、容体が変わっても適切に対応できた」と話す。

 院内トリアージとは、来院した患者の緊急度をトリアージ専任の医師や看護師が判断するシステムのこと。医師の診察の前に、トリアージ専任スタッフが患者への問診や測定値から緊急度を推測し、診察を受ける順序を決めたり、専門医に診療を依頼するかどうかを判断する(写真1)。

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