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外来診療クイックリファレンス

社交不安症/社交不安障害

 
吉永尚紀(宮崎大学医学部看護学科准教授)、清水栄司(千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学教授)

 社交不安症/社交不安障害(以下、社交不安症)は、人との交流状況で生じる顕著な不安・恐怖によって、生活上の支障を来す精神疾患である。社交不安症は一般的な病気であり、世界における12カ月有病率は2.4%、生涯有病率は4.0%と報告されている。日本を含む東アジア圏での有病率は欧米諸国と比べて低いが(日本での12カ月有病率:0.8%)、社交不安が許容される程度は文化によって異なるため、潜在患者数は多いと考えられている。
 社交不安症に特化した診療ガイドラインとしては英国国立医療技術評価機構(NICE)が発表したものがあり(わが国では作成中)、個人面接による認知行動療法が第1選択治療として推奨されている。第2選択以降の推奨治療には、抗うつ薬や短期力動的精神療法などがある。(最終更新日:2020年3月)

定義・概念

 DSM-5(「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」)における社交不安症の基本的特徴には、1つ以上の社交場面に対する著しい不安・恐怖の存在、自己の振る舞いが否定的な評価を受けることの恐れ、その社交場面を回避するあるいはその不安・恐怖を耐え忍んでいる、その不安・恐怖は社会文化的背景に釣り合わない、その不安・恐怖・回避による臨床的な苦痛や社会的/職業的な機能障害の存在、などが挙げられている。その恐怖が人前でのスピーチや演技などの行為に限定される場合、パフォーマンス限局型と特定される。
 病因については多くの精神疾患と同様にまだわかっていないが、社交不安症を持つ近親者の存在や幼少期の行動抑制(怖がりの気質)といった遺伝的要因、幼少期の虐待やいじめを受けた経験といった環境的要因などが、複雑に絡み合って発症に至ると考えられている。

診断

1. 社交不安症を疑う愁訴・症状


 人との交流状況で他者から否定的な評価を受けることに対し、顕著な不安・恐怖を抱くことが最大の特徴である。苦手とする状況はさまざまで、人前でのスピーチ、会食や飲み会への参加、隣人との雑談、人前での食事や署名などがある。多くの患者がその不安・恐怖に伴い、顔面の紅潮、動悸、振戦、声の震え、発汗、胃腸の不快感、下痢などの身体症状を経験する。当然のことながら、誰でも就職面接など重要な社交状況では、否定的な評価を恐れ、緊張や不安を感じることがある。しかし社交不安症では、さほど重要でない友人との雑談といった場面でも強い恐怖を感じてしまう。さらに、社交場面を回避することで、引きこもりや不登校、趣味や職業選択の制限といった生活上の支障を来していることが、単なるあがり症とは大きく異なる。

2. 初診時に必要な検査


 社交不安症に特異的な検査はない。社交不安症の評価スケール(Liebowitz Social Anxiety Scale 日本語版:LSAS-J)は、社交不安症の重症度評価に有用な心理検査である。しかし、うつ病患者が強い自責感や低い自尊心により否定的評価を恐れるなど、他の精神疾患においてもLSAS-Jが高得点になる場合があり、診断特異性が低いことに注意が必要である。内科など他科の受診歴がない患者の場合、身体疾患が背景に存在しないか調べる、あるいは鑑別診断のために血液検査や神経学的検査などの臨床検査を併せて実施することが望ましい。

3. 鑑別診断


 社交不安症の約60%が他の精神疾患を併存するという報告があるため、鑑別診断は重要である。社交場面での顕著な不安や回避が、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用、うつ病、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では説明されず、また他の医学的疾患と無関係あるいは過剰であることを確認しなければならない。動悸や震え、発汗といった症状は、甲状腺機能亢進症など他の身体疾患でもみられるため、血液検査や神経学的検査などを適宜実施する。

4. 確定診断


 本人または家族への詳細な問診から得られる情報(主訴・病歴・生活歴・家族歴など)、前述の各種臨床検査の結果といった情報を多角的に収集したうえで、DSM-5や国際疾病分類第11版(ICD-11)に従った操作的診断を行う。

管理・治療

1. 管理・治療の目標


 患者と治療者の間で、「社交場面で不安を感じたとしても、ありのままの自分でいられること、自分らしく社会生活を送っていくこと」が治療のゴールであることを共有する。不安を感じること自体は誰もが経験することであり、治療の最終目標が「社交場面で不安を感じなくなること」「社交的な人間になること」ではないことを確認しておく。

2. 治療方法


 社交不安症に特化した診療ガイドラインとしてはNICEが発表したものがある(全体像を図に示す)。NICEガイドラインでは、成人の社交不安症に対する第1選択治療として、個人面接による認知行動療法が推奨されている。個人認知行動療法を拒む場合には、治療者のサポートを受けながらのセルフヘルプ認知行動療法が提案される。これらの認知行動療法を拒み、薬物療法を希望する場合には、十分な話し合いを持ったうえで、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬を検討する。認知行動療法と抗うつ薬の両方を拒む場合には、短期力動的精神療法を考慮する。
 ここでは、上記の推奨治療のうち、個人認知行動療法とSSRIについて詳述する。ただしわが国では、体系的な精神療法を行える医療機関は限られているため、初期治療として薬物療法が頻用されていることをここに附記しておく。

(1)個人認知行動療法
 NICEガイドラインでの推奨治療、かつわが国で保険収載されている治療は、クラークとウェルズのモデルに基づく認知行動療法である。通常、週1回50分のマニュアルに基づく個人面接を約4カ月かけて実施する。面接ではまず、社交不安の問題を維持する悪循環を患者自身が理解するために、個別の社交不安モデルを作成する。その後、面接室や実際の社交場面でさまざまな実験に取り組んでいく。例えば、これまでの過剰な対処行動(安全行動)をやめたときに、恐れていることが現実になるかについて、実際の社交場面で検証していく(表)。患者は実験に取り組む状況を思い浮かべ、予想を立て、その予想を検証する方法を考える。実験に取り組む際には、安全行動と自己注目をやめ、他者の反応を注意深く観察する。実験後は、結果と得られた学びを振り返り、納得がいかないことがあれば次の行動実験で検証していく。これらの実験を通して、社交不安の問題を維持する非機能的な認知や行動を修正していく。治療の終盤には、再発予防に向けた計画を立てる。

(2)SSRI
 わが国で社交不安症への適応が取れている抗うつ薬は、SSRIであるフルボキサミンマレイン酸塩(ルボックスなど)、パロキセチン塩酸塩水和物(パキシルなど)、エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ)の3剤である。いずれも少量から開始し、経過をみながら、至適用量に至るまで1~2週間ごとに漸増する。通常は2~4週で初期効果、8~12週で最大効果が発現し、その間に十分な効果が認められる場合は再発を防ぐために半年以上は内服を継続する。SSRIの内服にあわせて、段階的に苦手な社交場面に挑戦するよう患者を後押しする。

3. 管理


 どの治療法を用いる場合でも、患者―治療者間の良好な関係を築くこと、LSAS-Jなどを用いて定期的に治療効果を評価すること、患者の治療に対するアドヒアランスをモニタリングすること、有害事象の有無を確認することは必須である。
 個人認知行動療法において、治療者は面接の質を担保するために適切な訓練とスーパービジョン(熟練者からの指導)を受けることが望ましい。SSRIでは、賦活症候群や中断症候群に注意し、また、患者にも自己判断で急激な増量や断薬をしないよう指導する。特に内服開始初期(1カ月程度)は、希死念慮や自傷のリスクを注意深く観察する。
認知行動療法またはSSRIの単独治療が奏効しない場合、両者を併用することは次の治療選択肢になり得る。しかし、併用治療が単独治療を上回るという明確なエビデンスはないため、少なくとも初期治療としては推奨されないだろう。

経過・予後

 ほとんどの社交不安症が10代半ばに発症し、成人期以降の発症はまれとされる。性格の問題と誤解されやすいことで、社交不安を主訴に医療機関を受診する患者は約3%ときわめて低く、多くが長年この問題に悩み苦しんでいる。治療を受けない場合、約60%の人は数年またはそれ以上症状が持続する。その過程で二次的にうつ病、物質依存・乱用、その他の不安症が発症し、重症化する場合も少なくない。社交不安症患者の予後を調べた研究によると、一般人口と比較して、学校の中退率が高く学歴が低い、婚姻率が低い、生活の質(QOL)がうつ病患者並に低く自殺リスクが高い、就職率が低く所得も低いことなどが報告されている。
 NICEガイドラインの作成過程で行われた分析によると、治療が終了した5年後の時点で社交不安症の診断がつかなくなる患者の割合(寛解率)は、個人認知行動療法が41.4%(クラークとウェルズモデルの場合は50.3%)、パロキセチンが30.0%、フルボキサミンが29.1%、エスシタロプラムが28.1%となっている。

処方例

(以下のいずれかを選択)
ルボックス錠(75mg) 1回1錠 1日2回 朝 夕 食後
[フルボキサミンマレイン酸塩]

パキシル錠(20mg) 1回2錠 1日1回 夕食後
[パロキセチン塩酸塩水和物]

レクサプロ錠(20mg) 1回1錠 1日1回 夕食後
[エスシタロプラムシュウ酸塩]

どのような場合に専門医に紹介すべきか

●社交不安症が疑われるが、確定診断が下せない場合
●社交不安症と診断したが、この疾患に対する薬物療法や精神療法に精通していない場合

患者・家族への説明のポイント

(1)決してまれな病気ではないが、性格の問題と誤解されやすく、多くの人が長期にわたって苦しんでいる。
(2)認知行動療法と呼ばれる精神療法や抗うつ薬などの治療によって、改善する可能性が十分にある。
(3)社交場面で不安を感じること自体は誰もが経験することであるため、治療のゴールは「不安を感じたとしても、ありのままの自分でいられること、自分らしく社会生活を送っていくこと」である。

参考文献

National Institute for Health and Care Excellence (NICE) : ""Social anxiety disorder : recognition, assessment and treatment."" Clinical guideline [CG159]. National Collaborating Centre for Mental Health, London. 2013.
吉永尚紀 編著:社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)第3版(清水栄司 監修).2016.〈http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000113841.pdf〉
Schneier FR : Social anxiety disorder in adults : Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis. Hermann R, ed. UpToDate. Waltham, MA, 2019. 〈https://www.uptodate.com〉

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連載の紹介

外来診療クイックリファレンス
日常の外来でよく診る主要100疾患+αについて、各領域の専門医が最新の診療ガイドラインに基づき、診断や治療を分かりやすく解説します。ガイドラインの改訂や新薬登場などに応じて内容は定期的に更新します。

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