特別企画

ジャンプ+の意欲作「デッドプール:SAMURAI」が4周年。不死身のミュータントがテーブルに着く“死の賭け”とは?

ラブコメの皮を被って異例のカムバックを果たした意欲作

【デッドプール:SAMURAI】

2020年12月10日 連載開始

「デッドプール:SAMURAI」

 笠間三四郎氏原作、植杉光氏作画の「デッドプール:SAMURAI」が、12月10日で連載4周年を迎える。本作は集英社が運営するコミック配信サイト「少年ジャンプ+」に掲載されたマンガであり、アメリカのニューヨークに本社をおくコミック出版社、マーベル・コミック出身の破天荒ヒーローであるデッドプールを主役としたマンガ作品である。

 デッドプールといえば、日本では20世紀スタジオ製作の実写映画「デッドプール」が2016年に、第2作目となる「デッドプール2」が2018年に公開。なお20世紀スタジオは2019年にマーベル・コミックを傘下に収めたウォルト・ディズニーに買収され、その後2024年に第3作目「デッドプール&ウルヴァリン」が公開された。2008年公開の映画「アイアンマン」から始まったマーベル・シネマティック・ユニバースのヒットも影響し、デッドプールは前述の映画シリーズによって、それまでアメコミにあまり詳しくなかった層にも知られることとなった。

「デッドプール:SAMURAI」1巻

「デッドプール:SAMURAI」の主役デッドプールはどんなやつ?

 「デッドプール:SAMURAI」は2019年10月16日に公開された読切版を経て、2020年12月10日から本連載がスタートしたヒーローマンガ。数多のヒーローを世に送り出してきたマーベルの歴史上でも、ほかに類を見ない破天荒なおふざけキャラクターであるデッドプールが、日本マンガ界の雄である集英社の「ジャンプ」ブランドとコラボレーションを果たすという点がミソの作品だ。

 ここで、本作の主人公となるデッドプールについての紹介をはさみたい。赤と黒を基調とした全身タイツ型のスーツに身を包み、2本の日本刀を十字に背負った出で立ちが特徴的なこのヒーローは、本名をウェイド・ウィルソンという。彼は軍の特殊部隊出身で卓越した戦闘技術を備える一方、自身がコミックのキャラクターであることを自覚しているメタ的なジョークや下ネタ、命の大切さを説きながらたやすく敵を殺害するなど、とにかく支離滅裂な行動をする存在として描かれている。

 基本的には傭兵として活動する彼が、悪化する世界情勢に対処しきれなくなったアベンジャーズから依頼を受け来日。日本の平和を守るため、サムライスクワッドとしてチームアップするというのが本作のあらすじだ。「1st season」は短期集中連載という形で15話を公開したのちに一旦完結となったが、2024年8月にラブコメの皮を被って連載を再開する。

【映画『デッドプール』予告編】

「2nd season」として異例のカムバックを果たした「デッドプール:SAMURAI」

 「デッドプール&ウルヴァリン」が封切りとなった後の2024年8月8日に本作は「2nd season」として異例の再始動を果たした。この「2nd season」の始まりがまたひとクセあり、「デッドプール:SAMURAI」がカムバックしたことを伏せ、見習い執事×ワガママお嬢様が繰り広げるラブコメ「Secret★Steward」が新連載したというテイで公開されたのである。

 「Secret★Steward」は物語冒頭に主人公の大森ユウと、架場シノという2人が登場する。キャッチコピーも「見習い執事×ワガママお嬢様ラブコメ、始動――!!」となっており、学園モノのラブコメが始まるかと思われた矢先に、20ページ足らずで突如、大森ユウがトラックに轢かれる。それを運転していたのが見覚えのある赤タイツで……という、実は「デッドプール:SAMURAI 2nd season」の始まりを告げるエピソードだったのだ。

 「2nd season」でも笠間三四郎氏原作・植杉光氏作画という座組みは健在のため、コアなファンであれば作者をチェックした際にピンときただろうが、X(旧Twitter)で拡散されてきた「Secret★Steward」をなんの気なしに読み始めてしまった筆者はまんまと一杯食わされた。個人的には執事×お嬢様という設定にはどうしても「ハヤテのごとく!」(小学館の週刊少年サンデーに掲載)を連想してしまうところがあり、「そこはジャンプ作品のパロディじゃないんかい」と内心ツッコんでしまう、この人を食ったようなデッドプールらしい姿勢がクスリと笑えた。

どう見てもラブコメな「Secret★Steward」。「デッドプール:SAMURAI」という名前は伏せて8月に突如公開された

“第4の壁”を破りまくる破天荒ヒーローが「ジャンプ」を舞台に暴れる!

 映画など様々な展開を見せる作品だが、マンガ「デッドプール:SAMURAI」という作品は、創作作品のデッドプールを主人公にしつつ、明らかにそのことを自覚していて、時折読者や視聴者に話しかけることまである(「第4の壁を破る」と言われる)破天荒なヒーローを、「ジャンプ」という舞台上で暴れさせようという趣旨のマンガなのだ。悪の組織と命のやりとりをするような場面でも終始ふざけ倒すデッドプールは、敵への対応に詰まった時に「次回の俺ちゃんに任せる!!」と発言してみたり、派手に建物を爆破するシーンを差し込む際にはその作画を担当するアシスタントの負担を心配してみたりと、マンガ文化に基づいたメタ発言をしまくる。

 それだけでなく、マーベル・シネマティック・ユニバース関連のネタをはじめ、ジャンプ作品のキャラクター名を口にしてみたり、扉絵が「鬼滅の刃」風に描かれていたり(第3話、扉絵)、敵にやられた際は「ドラゴンボール」のヤムチャを思わせるポースで倒れていたり(第12話・作中)、挙句の果てには「僕のヒーローアカデミア」作者である堀越耕平氏直筆のオールマイトを登場させて展開に絡めてみたり(第9話および第10話)など、いかにも“デッドプールがジャンプにやってきたらやりそうなこと”をハイペースで連発する。

オールマイトと共闘するデッドプール(第10話より)

 正直なところ、この“デッドプールらしさ”を感じさせるテンポを維持するためか、作中の展開は多少強引に感じる点があることは否めないが、それ以上にマーベル・コミックと集英社のクロスオーバーを実現した、唯一無二で意欲的な取り組みを評価したいと思える作品だ。

集英社どころか小学館や岩波書店の有名作品もパロディしている(画像は笠間三四郎氏の公式Xより)

おふざけヒーローが“死の賭け”にベットするもの

 さて、そんなおふざけヒーローである彼にも、シリアスになるシーンはある。それは彼のヒーローネームでもあるデッドプール(死の賭け)にまつわるオリジンだ。様々なスーパーパワーがキャラクター性と密接に絡み合うマーベル・ヒーローだが、デッドプールも例外ではない。

 日本のマンガとは異なり、多数のパラレル展開が当たり前となっているアメコミでは、同一のヒーローであってもそのパーソナリティやスーパーパワーを得た経緯などは多彩な展開を見せる。筆者もそのすべてを網羅できている訳ではないが、デッドプールの場合はヒーリング・ファクターというほぼ不死身に近い治癒能力を、実験や事故などで後天的に身に着けていることが基本的なアイデンティティとなっている。

 通常の戦闘では死ぬことがなく、自身の死など賭けのチップとしては安すぎる彼が、何故“死の賭け”という名を名乗っているのか。「デッドプール2」や「デッドプール&ウルヴァリン」、そして本作「デッドプール:SAMURAI」においてもそういった描写は存在し読み解くことができるが、デッドプールが自身の戦いに賭けているのは、“彼が大切に思っている周囲の人間の命”だ。もちろんそんなことは直接明言されている訳ではないし、ウェイド・ウィルソンがデッドプールを名乗り始めた際に賭けていたのは、自分の命だったと思われる。

 しかし戦いを繰り返し、自身の不死性について自覚を深める反面、大切にしたい命はあまりに脆いことに気づいたのではないだろうか。自身の行動や戦いにそれがかかっている重圧に耐えるように、デッドプールはふざけ続ける。そんな彼が「ジャンプ」という舞台で踊り続けた先になにが待っているのか。その結末が楽しみで仕方ない。

コミックス最新3巻は12月4日に発売