はむはむ絵本 ~2児のママがおすすめする絵本のご紹介~

3歳男の子と6歳女の子のママです。これまでに読み聞かせてきた絵本を紹介しています。

【読書感想文/レビュー】おつきさま でたよ / 寺村輝夫・いもとようこ

『おつきさま でたよ』 読み解く、月の光と静寂、そして子供心

福音館書店の『おつきさま でたよ』は、シンプルながらも奥深い魅力を持つ絵本です。一見すると、おだんごを焼く様子と月の出を待つ場面が描かれているだけの、短いお話です。しかし、その簡潔な描写の中に、子供の繊細な感情や、自然への畏敬の念が凝縮されていることに、読み進めるごとに気づかされます。本書の魅力を、様々な視点から深く掘り下げていきたいと思います。

穏やかな時間の流れと、高まる期待感

まず、本書全体を覆う静謐な雰囲気に惹かれます。おおはらぽんたは、丁寧に、そしてじっくりとおだんごを作ります。その様子は、文章だけでなく、絵本の挿絵からも伝わってきます。焦げ付かないよう火加減を調整し、一つ一つ丁寧に並べる様子は、まるで時間そのものを味わっているかのようです。この静けさは、物語全体にゆったりとしたリズムを与え、読者にも落ち着いた気持ちをもたらしてくれます。

一方で、おだんごを焼きながら月が出るのを待つぽんたの気持ちは、徐々に高まっていきます。最初は淡々と作業を進めていたぽんたですが、空を見上げる回数が増え、月の出への期待感が言葉や表情に表れてきます。この期待感の増幅は、読者にも共有される感情であり、月が顔を出す瞬間への高揚感を高めてくれます。この静と動、静寂と期待感の対比が、物語に絶妙な緊張感と魅力を与えていると感じます。

緻密な描写と、想像力を掻き立てる余白

絵本の挿絵は、緻密で温かみのあるタッチです。おだんごの焦げ加減や、ぽんたの表情、そして空の色合いや月の光といった細部まで丁寧に描かれており、読者はまるでその場に居合わせているかのような臨場感を味わうことができます。特に、月が昇る様子は、徐々に明るくなっていく空のグラデーションと、ぽんたの驚きと喜びに満ちた表情が絶妙にマッチしており、感動的なシーンとなっています。

しかし、本書の素晴らしい点は、描写の緻密さだけでなく、想像力を掻き立てる余白がある点です。例えば、ぽんたがなぜおだんごを焼いているのか、月を見ることにどんな思いを抱いているのかといった点は、直接的に説明されていません。読者は、絵本の描写から、そして自分の経験や想像力を駆使しながら、これらの点を自由に解釈することができます。この余白こそが、本書の奥深さ、そして読み手の主体性を引き出す鍵となっていると言えるでしょう。

自然と人間の調和、そして普遍的な喜び

『おつきさま でたよ』は、単なる月の出を描いた絵本ではありません。それは、自然と人間の調和、そしてシンプルな喜びを表現した作品です。ぽんたは、自然の営みの中で、自分のペースで生活し、月の出という自然現象を心から喜びます。このシーンは、現代社会において忘れられがちな、自然との繋がり、そして日々のささやかな喜びを改めて思い出させてくれます。

おだんごを焼くという行為、そして月を待つという行為は、一見すると日常的な出来事ですが、本書ではそれらが特別な時間、特別な出来事として描かれています。この特別な時間の描写は、読者に日々の生活の中にこそ、喜びや感動を見出すことができるというメッセージを伝えているように感じます。

子供心に寄り添う、優しくも力強い物語

本書は、子供にも大人にも響く普遍的なテーマを描いています。それは、期待感、喜び、そして自然への畏敬の念です。子供たちは、ぽんたの気持ちに共感し、一緒に月の出を待ちわび、そして感動を分かち合うことができるでしょう。大人たちは、子供の頃の純粋な感動を再び思い出し、日々の生活を見つめ直す機会を得ることができるのではないでしょうか。

簡潔な文章と、緻密で温かみのある絵は、子供たちの心に優しく寄り添い、豊かな想像力を育みます。そして、同時に、大人たちの心に、忘れていた大切な何かを思い出させてくれる、そんな力強さを感じます。

終わりに

『おつきさま でたよ』は、一見シンプルな絵本ですが、その中に込められたメッセージは深く、そして普遍的です。静寂と期待感のバランス、緻密な描写と想像力を掻き立てる余白、自然と人間の調和、そして子供心に寄り添う優しさ、これらの要素が絶妙に組み合わさることで、本書は他に類を見ない魅力を持つ作品となっているのです。 何度も読み返したくなる、そんな絵本です。 静かな夜に、この絵本を開いて、月とともにある静寂と喜びを感じてみることを、強くお勧めします。