あだち充の『みゆき』のモデルになったのは「暗い印象」の国民的歌手だった?
1980年から「少年ビッグコミックス」で連載されていた、あだち充先生の代表作『みゆき』はアニメ化もされて大ヒットしました。どこにでもいる平凡な男子が、全くタイプの違う美少女ふたりから愛される夢のようなラブコメディですが、 ヒロイン・みゆきのモデルになったのは、あの国民的歌手だったそうです。
本人のキャラと歌の内容とのギャップが話題になった歌手
1980年から「少年ビッグコミックス」で連載されたあだち充先生の『みゆき』は、平凡な男子高校生が清楚な同級生と活発な血の繋がらない妹という、「ふたりのみゆき」に愛されるラブコメディです。1983年にはTVアニメ化もされて大ヒットた同作の肝である、ふたりの『みゆきというアイデアを発案したのはあだち先生の担当編集者Kさんでした。
Kさんが「みゆき」たちのモデルにしたのは、国民的歌手の中島みゆきさんです。2022年に出版された『週刊少年マガジン』や『ヤングマガジン』の編集者だった石井徹さんの著書『「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書 感情を揺さぶる表現は、こう描け!』(以下、『マンガ最強の教科書』)では、『みゆき』誕生の秘密が明らかになりました。石井さんは講談社の編集者でしたが、他社である小学館の編集者Kさんから話を聞き出しています。
「ある時Kさんが中島みゆきのコンサートに行った。そこでびっくりした。中島みゆきの曲はたいがい『暗い』けれど、コンサートでトーク中の中島みゆきは超『明るい』。コンサートが終わって会場の外に出た瞬間、設定が浮かんだのだそうです。『同じ名前で、まったく違う性格の女の子ふたりに、主人公が好かれたら面白いのではないか』と。あとの細かいことは、歩きながら記憶のフラッシュバックのように浮かんだそうです。だからタイトルは『みゆき』なのです」(『マンガ最強の教科書』より)
中島みゆきさんは今でこそ「時代」「地上の星」など人生の応援ソングを歌うイメージもありますが、当初は「わかれうた」「ひとり上手」など、恋に破れた女心を描く楽曲が多くて暗い印象がありました。しかも、歌がヒットしてもTVに出演しないため、その素顔を知っている人は少なかったのです。しかし1979年からパーソナリティを担当した『中島みゆきのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)では軽妙なトークを展開し、歌と本人とのギャップに多くの人が驚きました。
日常のちょっとした気付きをマンガに結びつけたKさんのひらめきは見事でした。ちなみに『マンガ最強の教科書』では、『みゆき』の設定と性別を反対にした作品が『タッチ』だと明かされています。このような誕生秘話を踏まえれば、『みゆき』の見え方も変わってくるかもしれません。
(LUIS FIELD)