『エリア88』新谷かおる氏が語る、愛すべき航空機たち 「原点は松本零士氏のスタジオに」
航空戦記マンガ『エリア88』などの名作を手掛けた新谷かおるさんの画集『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』(玄光社刊)が、2023年7月28日に刊行されます。40年余にわたるマンガ家生活で描かれた航空機を収録しています。新谷かおるさん本人に、自身が描いてきた航空戦記マンガについて聞きました。
ヒコーキの爆音が、子守り歌替わりだった

『エリア88』など航空戦記マンガの名手として知られる新谷かおるさんは、第二次世界大戦で活躍したレシプロ機から戦後のジェット機まで、たくさんの航空機を描いてきました。2021年に重版となった画集『新谷かおるARTWORKS』の反響に応え、『新谷かおる航空機グラフィティ』(以上、玄光社刊)が2023年7月28日(金)に刊行されます。ご自身にとっての航空機への思いをお聞きしました。
――新谷かおる先生が、航空機に興味を持つようになったきっかけをお聞かせください。
新谷 私は、大阪府豊中市の出身です。伊丹空港、現在の大阪国際空港ですが、その近くで育ちました。ヒコーキの爆音が、赤ん坊だった私の子守り歌替わり。そのためか、子供の頃から航空機が大好きだったんです。
高校卒業後、空港でアルバイトしていた時のこと。海外から、輸送専門の航空会社が来ていました。その会社のジャンボ機の機首には、軍用航空機さながらのシャークマウスのペイントが施されていました。いかにも「不良ジャンボ」といった感じで、機長をはじめとする乗員たちはアブナイ雰囲気。帽子を斜めにかぶり、レイバンのサングラスを掛けて、何やら打ち合わせをしている。鞄の上に「ドカッ!」と足を乗っけながらです。禁煙区域でも平気で煙草を吸う彼らを見て、私は「爆撃機上がりだ!」と想像しました。この時の鮮烈な記憶が、のちに私の作品として結実しています。
――「コミックバーガー」(スコラ)に連載された『ALICE12』は、B-52爆撃機上がりのモーガン機長が操縦する「貨物便ALICE12」のお話です。爆撃機には、昔から興味があったのですか。
新谷 私が青春時代を過ごした1960年代は、海外ドラマの秀作揃いでした。グレゴリー・ペック主演で有名なアメリカ映画『頭上の敵機』(1949年)。この作品は、のちにドラマとしてテレビシリーズ化されています。第二次世界大戦の欧州戦線で、対ドイツ戦略爆撃を行ったアメリカ陸軍航空隊第8航空軍のお話です。
昔のアメリカのドラマは、タイトルが映されるまでの導入部分、プロローグが長かった。最初に爆撃機乗りたちの会話劇が続いて、それから「バーン!」とタイトルが出るんです。アメリカならではのセリフ回しの楽しさに魅了されました。
いつか、B-17フライングフォートレスやデ・ハビランド モスキートが登場する「爆撃機もの」を描いてみたい……。『頭上の敵機』や、『633爆撃隊』(1964年)などの映像作品に感銘を受けていた私は、のちに「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)に『RAISE』という作品を発表しています。B-17爆撃機に乗った囚人搭乗員たちのお話です。
B-17には、10人の搭乗員が乗っていました。だけど、援護なしの昼間爆撃は犠牲が多い。たとえば1000機の出撃で、300機が撃墜されたら3000人の犠牲が出るんですね。まさに「行くも地獄、帰るも地獄」の片道切符。私は、爆撃に命運を賭けた男たちの思いをセリフに託したくて、爆弾投下の合図を「レイズ!」という掛け声にしています。「レイズ」は、ポーカーで勝負に出る時の掛け声なんです。