「お金、又はそれにまつわる様々な経験に触れながら、お金の本質の話をおさめた、目から鱗のおもしろ対談本」
この本は、10年前に出た本の文庫化である。しかし、ふたりの語り口も軽妙で、まったく古くさくなく、なによりお金の本質をこれだけわかりやすく、自分の経験をもとにして話してくれる本にであう事はそうそうないのではないだろうか。
まず、さすが糸井さんと思ってしまったのは、「お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ」というタイトル。ぼく自身も逃げまわっていた実感がある。いや、もっとちゃんと言うならば、どう考えていいのか、お金ってなんなのか、なきゃ困るのか、いっぱいあったらどうなるのか、そんな程度の幼稚で、漠然としたことぐらいしか考えず、自分は大人になったらどうやって生きていくのかを、とりあえず考えないようにして生きていた。何をやりたいかだけは生意気にも考えて、声高に主張していたのにだ(書いてて本当に恥ずかしくなってきたな、オレ)。時間は残酷で、そんなぼくでもみんなと一緒に、あっという間にキッチリと大人の年になってしまった。
一応、言い訳がある。ぼくの家庭は両親と少し年のはなれた妹の4人の核家族である。父親は売れていない画家で、母親は公立の小学校の教師である。ぼくが思うに、この両親がまず「お金をちゃんと考えることから逃げまわっていた」ように思う。父親はなんとなく売れる絵を描く画家に対して批判的であったし、芸術とお金はまったく切り離されていた。家族は父親が絵を描いている事を誇りに思っていたが、お金の教育の話で言えば、父の口から芸術論は聞いても、経済については聞いた覚えがない。
また、母親は公務員であるから、お金に関して事業性の感覚は持ち合わせていなかったように思う。つまり、「お金」というものを考える上で、バランスが悪かった。そして、うちの家庭は母親の収入、つまり公務員の収入によって安定が保たれ、もちろん、父親も画業のかたわら勤め仕事もしていたので、周りと比べてもごく平均的な生活水準であったように思う。そしてその我が家の経済は、景気やバブルの崩壊等にもさほど左右されず、浮いた沈んだとテレビの中では騒いでいても、直接家庭に陰を落とすという事はなかった。ある意味、これは恵まれた環境だったとも言える。
たぶん、我が家の経済はお金の事を考える必要がなかったとまでは言わないが、収入と支出を理解していれば大体OKという、比較的必要性の薄い感じであったと思う。そうなると、お金というのはもともと怖いものであるから、なるべく考えないように、もしくは考えずに済む方法をとる。これはあくまでぼくの推測で、両親と話したわけではないから、「なに生意気言ってんだ」と、後で完全に怒られるだろうが、こうして両親は「お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくら」になったのではないだろうか。つまりぼくは「お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくら」の、息子なのだ。そういうことが当たり前という環境で育ったのだ。
そして、社会に出て思ったのは、なんとぼくと同じような若者が多いことか。当然である。一億総庶民と呼ばれた時代に、各家庭でそんなに差が出るわけはない。加えて、義務教育はもちろん、高校の普通科でもその辺のことは教えない。教えるものではないのかもしれないが、少なくても必要であろう、考える時間やきっかけを与えない。かくして、大学を出ていても、ぼくなどは税金の払い方さえわかっていなかった。
随分、言い訳が脱線して、長くなってしまったので、この辺で切り上げるが、できればそういうぼくと同じような人にこそ、この本を読んでもらいたいと思う。なぜなら、この本は経済書ではなく、糸井さんと邱さんがお金の本質について、自分の経験から話している本だからだ。こういう話を、講演に聞きにいけば何千円か掛かってしまうし、奇跡的に偶然居酒屋で隣り合わせた人から聞く機会に恵まれるなんてこともないだろうから、文庫版¥571(税別)で、読むことができるのはとってもお得である。
そして、読んで得た知識をもとに世の中の色々なことをもう一度考えてみてもらいたい。たぶん、今までなかった「気づき」があるはずだ。お金は色々なことに影響している。それ抜きでは、なかなか世の中の事を考えることができないのは、事実ではないだろうか。
最近公務員や、教育、官公庁のあり方の是正に一般の企業を例えて、解決案を示す風潮が出てきたようだが、個人的にはそれは少し間違っていると思う。少し間違っているということは、その間違っている所は取り除いて考えるようにしなければ、結果、キッチリと間違うと思う。何かを考える時に、他の何かに例えて考えると、けっこう間違っている事が多いのだ。それは、似ているように見えるものでも、本質がまったく違うという場合があるからである。
そういう時に、その「気づき」を得るためにも、お金の本質について考えておく事は非常に有効で、大人としてとても大切だと思うのである。(長嶺 俊也)
糸井 重里 邱 永漢
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by like_designkoneko
| 2012-03-18 15:46
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