この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
世界文化遺産「富士山」の正式登録名称は、「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」
日本人なら、富士山が世界遺産に登録されていることは周知だと思うが、その正式登録名称に関心のある人は、いったいどのくらいいるのだろう。
富士山が世界遺産の仲間入りを果たしたのは2013年の6月。
カンボジアの首都プノンペンで開催された世界遺産委員会で、ユネスコは日本政府が推薦した「富士山」を世界文化遺産に登録した。
実は多くの国民が希望した通り、政府も当初は富士山を「世界自然遺産」に登録することを目指していた。
だが、ゴミの不法投棄や乱開発による環境破壊により、本来の自然が保たれていないこと、また世界には富士山と同じ円錐形の活火山が多数存在するなどの理由からそれを断念、「世界文化遺産」への登録に向けて方針転換を行った。
きな臭い話だが…
この方針転換には金銭が絡む「別の理由」があったとも聞く。
調整段階で、地元観光業者と自然保護団体の利害が一致しなかったというのだ。
たしかに富士山が「世界自然遺産」に登録されれば、構成資産の自然に手を加えることが禁止される。
しいてはゴルフ場やテーマパークはもちろん、道路建設も売店の出店もできないわけで、地元観光業者にとっては大きな痛手だ。
それでは観光客が増えたところで意味はなく、これまで通り自由に営業できるほうがずっといい。
しかし、奈良や京都と同じ「世界文化遺産」なら、多少の制約は受けるものの、「世界遺産」というネームバリューを持ちつつ、観光施設を維持・拡張することは可能であり、また拝観料(入山料)をとることもできる。
いっぽう自然保護団体は、自然遺産までの効力は得られずとも、「世界遺産」というワッパをかけることで、富士山麓の乱開発に一応の歯止めはかけられる。
かくして両者は、富士山を「世界自然遺産」ではなく、「世界文化遺産」での登録を目指すという「絶妙の妥結点」を見出した。
その結果、対象となった「構成資産」は、信仰遺跡群や富士五湖などを含む25件。正式名称は「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」である。
標高3,776メートルを誇る日本最高峰の富士山は、今でもその山麓に豊かな自然が残るネイチャーフィールドであることに間違いはない。
筆者が足を運んできたところもまた、自然が強く感じられる場所が多かった。
しかし江戸時代に生きた葛飾北斎や歌川広重は、暮らしの中にある富士山を浮世絵の中に描き、多くの人々のハートを掴んできた。
それは富士山が「芸術の源泉」であることの紛れもない証だろう。
ちなみに世界文化遺産「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」は、静岡・山梨両県の広範囲にわたって構成資産が点在する。
だが、世界遺産の審議に強い影響力を持つイコモス(国際記念物遺跡会議)は、富士山からの距離が遠い三保松原(静岡市)については、その対象から除外するよう勧告していた。
しかし景観改善に向けた地元の根強い運動と、それに動かされた政府のロビー活動が功を奏し、イコモスの提案は最終会議で覆り、逆転の世界遺産登録となって話題を集めた。
最後に、2017年12月に静岡県富士宮市にオープンした、「世界文化遺産・富士山」を分かりやすく解説している「静岡県富士山世界遺産センター」をご紹介。ここに足を運べば、たぶん富士山に対する認識が変わる。
世界文化遺産「富士山」 車中泊旅行ガイド
車中泊でめぐる「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」をテーマにした、オリジナルのマイカー旅行ガイドです。