現代短歌舟の会 機関誌『舟』第44号(2023年6月夏号)
同じく第45号(2024年12月冬号)
こちらの二冊より、いいな、好きだなと思った作品を数首引用する。
三月六日 浅川洋
ここからは大きな船に乗りますと娘の笑顔を見送る夢も
冬の居場所、春の居場所、ゆるしの居場所、飼い猫たちがそっと知らせる
現代短歌舟の会 機関誌 『舟』第44号(2023年6月夏号)(十五首作品より二首引用 40ページ-41ページ)
一首目、夢の中で娘さんが発した「ここからは大きな船に乗ります」ということば。「大きな船に」ということは、遠いところを目指すという意味もあるのだろうか。この夢の意味は想像することしかできないが、この歌全体が発する仄かな淋しさと明るさだけは、手につかみ取れるもののようにはっきりと伝わってくる。事柄だけを簡潔に言い、結句の「も」に詠嘆の念を込めた下句も見事だ。
二首目、二通りの読み方ができるかと思った。ひとつは、猫が季節や状況に応じて快適な場所を上手に探して(そこで過ごしていることで)知らせてくれているというもの。もうひとつは、猫が、冬がここにいたよ、春がここにいたよ、ゆるしがここにあるよ、と、ひとつひとつ見つけて知らせてくれているというもの。個人的には(敢えて)後者の読みで鑑賞したい気持ちでいる。「冬」「春」に「ゆるし」を組み合わせた作者の感性に脱帽する。
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家移りとぞ 斉藤蒔
そらあをく 桜木の下ひとり佇つ のこりの人生グリコのおまけ
現代短歌舟の会 機関誌 『舟』第44号(2023年6月夏号)(十五首作品より引用 60-61ページ)
旅にしあれば 斉藤蒔
ほとばしりを児にふくませたはいつのこと息吹き涸れゆくちぶさかなしも
宇野亜喜良の描く哀(いと)しき少女たち われは少女のなれのはてなり
現代短歌舟の会 機関誌 『舟』第45号(2024年12月冬号)(十五首作品より二首引用 56-57ページ)
斎藤蒔作品の美点は、作者が独自の「美の規矩」を持ち、それを磨き、それに基づいて書いているところにあると思う。そのモノサシで常に自分をも計る。それに恥じない表現を目指す。そして「わたしはこれが美しいと思います。」と堂々とことばを差し出す。筋が通っているから、受け取る側も押し付けがましさを感じない。背筋の立て方を心得ているのだ。