【俳優・伊藤万理華】かっこ悪いところもさらけ出したほうが、 魅力は増していく
映画『サマーフィルムにのって』『息をするように』で主演を務め、演技だけでなくアート・ファッションといった分野でも活躍する伊藤万理華さん。12月1日(金)公開の映画『女優は泣かない』では、スキャンダルで仕事を失った女優を撮影する若手ディレクターの咲を演じています。
「ドラマの撮影をしたい」という夢を叶えるべく、ドキュメンタリーの撮影に奮闘する咲の姿に、共感できるものがあるという伊藤さん。過去には3度に渡る展覧会を開催し、誰にも真似できないクリエイティブを発揮してきた彼女が感じる“美しさ”とは。じっくりお話を伺いました。
コンプレックスはある種のトラウマ
ーー監督がこの作品を「いつかの自分の物語」と称しているのがとても印象的でした。伊藤さんが思わずご自身の経験と照らし合わせてしまった場面はありましたか?
伊藤:パッと具体的なものは出てこないのですが…。自分の作りたいものと“全く真逆のもの”を通過しないと、その先にいけないというのは誰もが経験したことのある壁だと思っていて。その葛藤は共感できるポイントだと思います。
ーー蓮佛美沙子さん演じる女優の梨枝は泣けないことがコンプレックスですが、伊藤さんご自身にコンプレックスはありますか?
伊藤:人と会話することや、気持ちを言葉にすることが苦手なのはコンプレックスかもしれません。コンプレックスというのは、ある種のトラウマだとも思っていて。私の場合、コンプレックスが見つかったら「今向き合うべきこと」として個展のテーマにしたり、原動力にして昇華してきました。だからその時によって抱えているものが全然違うんです。
コンプレックスを克服することではなく、コンプレックスに気づけることが大事というか。自分の嫌なところは恥ずかしいし、向き合いたくないじゃないですか。私の場合、強制的に向き合う機会を作るというか。それが個展でした。そうじゃないと前に進めないから。
ーー本当に自分の全てをさらけ出して、作品作りに向き合ってきたんですね。
伊藤:嘘をついて、かっこつけられないんです。
それに実は本人が思っている「かっこ悪い」は、外から見たら「かっこいい」ところだと思います。だからと言って、全部は声に出して言えないかもしれないけど(笑)。ダサいところとか、かっこ悪いところもさらけ出したほうが、 人間的に魅力は増していく気がします。
撮る側、撮られる側として感じること
ーー「慣れないカメラの重さで常に腕が筋⾁痛でしたが、撮影中はそれも忘れるくらい夢中になって撮り続けていました」とコメントされていましたが、普段被写体になる機会の多い伊藤さんが、逆に「撮る」という行為を通じて感じたことがあれば教えてください。
伊藤: 実際に撮影の時にカメラを回していたので、それが使われるかもしれない責任を感じていました。カメラ越しの映像は、嘘がつけないので…。
今までは演者として見ていたけど、 カメラマンさんの心情…例えばそれぞれがどれだけの思いを持って、カメラから見える作品に向き合っているんだろうとか。そういうことを咲の気持ちとして体感しました。とても貴重な機会でしたし、もっと作品を作っていく上で誠実に向き合いたいと思いました。
全員の気持ちは、わかろうとしてもわからないかもしれない。でも、まずは「向き合うことが大事だ」と。
ーー反対に撮られる側としては、伊藤さんの1stシングル個人PV 「ナイフ」の公開から10年以上経ったわけですが、さまざまな活動を経て当初と大きく変わったなと感じる部分はありますか。
伊藤:色々な経験をさせてはいただきましたが、軸の部分は変わっていないと思います。「結局、好きが勝つ!」みたいな(笑)。 まさに 「ナイフ」の撮影で、映像の世界に感動して感じたときめきと、私はずっと向き合って生きてきたから。
ただ年齢を重ね、いただく役も少し変わってきましたし大きな役や自分にとって転機にもなる役が増えてきて。作品の一部として自分がチームに加わるという意識は、今のほうが強いと思います。本来、そうあるべきだったけど、最初は自分のことで精一杯でした。
ーー脚本の中だけではない、現場との関わり方にも変化があったんですね。
伊藤:もちろん、セリフと向き合うのも重要です。でもそれ以前に、今は土台としてそういう楽しさを大切にしながら生きています。
ーーお芝居をする、ダンスをする、絵を描く…様々な方法で表現を行い、“表現者”という肩書がぴたりとハマる伊藤さんですが、「映像作品」だからこそ感じている表現の魅力は?
伊藤:なんでもありなところです。役に入るというのはもちろん、撮るほうもその世界でいろんな世界を作れるし。「言葉にできないくらい凄く好きで、特別だな」と初めて思ったのが映像でした。
ファッションや絵は無意識のうちにずっとやっていたことで「それ特技だよ」と言われた時に、特技なのかと初めて気がついたくらい。でも映像は自分で発見した感覚があるので、特別なものに思えているのかもしれません。
伊藤万理華の考える“美しい人”
ーー忙しい中でのメンタルケアはどうしていますか?
伊藤:ベランダで空を眺めたり、お家でリラックスすることが多いです。 お家が大好きです。配信ドラマを見ることもあるんですが、それよりも、手を動かして何かを作っている時のほうが精神は安定します。クッション作ったりとか。
でも、友達と会ってリフレッシュするのも好きです。友達で絵を描く子だったり、服を作る子だったり、周りにそういう子が多くて。ずっとお絵かきをしながら会話したり、シンプルな遊びをしています。ちょっと携帯から離れて、今の空気を味わう時間が好きです。
ーー最後に、伊藤さんの考える「美しい人」の定義を教えてください。
伊藤:無我夢中で今を楽しめる人です。そういう友達がいっぱい周りにいて。「みんな美しいし、本当に素敵な人しかいない」と心から思っています…。そう言っている自分が好きとかではないですよ?(笑)
芯があって、作りたいものを作っている人たちの美しさは、会話だけじゃなく表情にも滲み出るんです。でもそれはものづくりに限った話ではないと思っていて。生活の中で「掃除が楽しい」でもなんでもいいんです。日常のちょっとしたことでも、それを楽しんでる人の表情は何にも代え難いものだなと思います。
大袈裟なことじゃなくても、自分の心の中の感情をどれだけ大事にしているか。1日1個でも楽しみを見つけようとする姿勢が、美しさに繋がるのではないでしょうか。
Profile
伊藤万理華
俳優。大阪府出身。2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格、2017年にグループを卒業。過去3回PARCOにて個展を開催しているほか、テレビドラマ「お耳に合いましたら。」(21年)、「旅するサンドイッチ」(22年)、「日常の絶景」(23年)、映画『サマーフィルムにのって』(21年)、『もっと超越した所へ。』『そばかす』(ともに22年)など多数の映像作品に出演。現在は放送中ドラマ「時をかけるな、恋人たち」(関西テレビ)、「ミワさんなりすます」(NHK)に出演中。多方面で活躍している。
■作品情報
映画『女優は泣かない』
劇場公開日:2023年12月1日(金)
出演:蓮佛美沙子 伊藤万理華
上川周作 三倉茉奈 吉田仁人 ⻘木ラブ 幸田尚子
福山翔大 緋田康人 浜野謙太 宮崎美子 升毅
監督・脚本:有働佳史
公式HP:https://www.joyuwanakanai.com/
©2023「女優は泣かない」製作委員会
<衣装>
シャツ¥94,600/baziszt(Diptrics)
スカート¥71,500/VOLTAGE CONTROL FILTER(Sakas PR)
ネックレス¥18,500/Marland Backus
シューズ¥29,700/ALM.
<問い合わせ先>
Diptrics:03-5464-8736
Sakas PR:03-6447-2762
Marland Backus:[email protected]
ALM.:https://almofficial.com
ヘアメイク/外山友香
スタイリスト/和田ミリ
取材・文/すなくじら
撮影/芝山健太
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