【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はMF文庫Jから12月25日に刊行される『妹は呪われし人形姫 人間を恐れる兄は、妹の呪いを解くため立ち上がる 1』です。みなさんの感想も聞かせてください!
悪魔祓いに人形が使われることから、人形が忌避される世界にあって、人形好きとして周囲から孤立しているジン。そんな彼を気遣う、兄思いのアイン。彼ら兄妹は、悪魔との契約によって、悲壮な使命を背負うはめに……。
と思いきや、身体が半人形と化したのに、あまりにあっけらかんとした反応のアイン。この姿なら兄も自分を構ってくれるからと、ちょっと歪な気もしますが、ふたりがお互いを思う気持ちは確かなもの。
アインを元の姿に戻すため、人形憑きや悪魔と戦うことになっても、その絆の強さは変わりませんでした。戦闘は不慣れながらも、お互いの身を案じつつ敵と話し合いで解決しようする様子は、思わず応援したくなります。一方で、戦い慣れしているゲルドリオや悪魔の戦いは、多様な武器や、音読したくなるような詠唱からの強力な技がぶつかり合う激しいもので、心が躍りました。
しかし、何より興味を惹くのは悪魔と交わした契約の内容。ジンは両親の蘇生を望んだはずですが、望みが叶った様子はなし。にもかかわらず、アインの姿は契約の代償なのか、半人形化していて。ふたりに対してなぜか、悪魔がいらだっていたのも気になります。
それらの答えは、本作を最後まで読めばわかること。ぜひ読んでもらいたいので、残念ながらネタバレはできません。ともかく、読了後は「彼ら」の愛情の深さで、胸がいっぱいになりました。お互いの思いを知り、兄妹として新たなスタートを切ったふたりの物語の今後が、実に楽しみです。
文:瀧田伸也
ざっくり言うとこんな作品
1)人形としか話せなくなった兄と、そんな兄を気遣う妹。すれ違ってきたお互いの思いが、しだいに重なり合ってゆく、兄妹の物語。
2)特殊な裁縫道具やレイピアなどを巧みに操る解体師と、口ずさみたくなるような詠唱で強力な技を繰り出す悪魔との奇想天外な戦い。
3)兄妹と悪魔との契約の真実とは。封印を解かれた悪魔の本当の目的とは。最後まで読んでこそ解き明かされる、悲しくも優しい結末。
主要キャラ紹介
▼ジン・ルイガ
両親を亡くして以来、人間を怖れ、人形を心の拠り所にしている少年。ある日、人形に封印された悪魔に両親の蘇生をそそのかされ、危険と知りながらも契約を交わそうとする。
▼アイン・ルイガ
明るく活発な、ジンの妹。部屋にこもりきりで自分と目も合わせない兄のことを、いつも気にかけている。ジンと悪魔の契約の場に居合わせ、人形のような姿になってしまった。
▼ゲルドリオ・ギュスタング
悪魔に対抗する解体師のなかでも、自他共に認める実力者。ジンとアインを処分するために本部から派遣されたが、兄妹に興味を持ち、独自の判断でふたりの身柄を預かることに。
-
妹は呪われし人形姫 人間を恐れる兄は、妹の呪いを解くため立ち上がる
著者: 雨谷 夏木 イラスト: にもし
「お前の体は俺が元に戻してやる。絶対に」
人形には悪魔や呪いが潜むと忌避される世界。人形と意思疎通できる少年ジンは、両親を殺されてから人間に対し壁を作っていた。「もう、兄さん、人形だけじゃなく私にも構ってよ」周囲から気味悪がられる中、共に暮らす妹アインだけはジンの味方だった。ある日、ジンは人形に封じられていた悪魔と契約し『両親の蘇生』を試みる。家族が戻れば妹に迷惑をかけずにすむ──しかし願いは叶わず、その上悪魔は代償としてアインの体を半分人形に変えて逃げ去ってしまう。「意外に悪くないかも。喋るの久々だね」「悪魔と話して無事って、兄さん凄くない?」アインの体を取り戻すため、ジンは悪魔を追うため立ちあがる。