利用規約とは?
契約書との違い・作成方法・
作成時の注意点などを解説!
- この記事のまとめ
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利用規約とは、事業者が提供するサービスの、利用に関するルールを記載したものです。
約款と同様、基本的に事業者が一方的に作成し、相手方に提示するものという特徴があります。利用者から同意を得られると、利用規約は契約の一部となり、利用者を法的に拘束します。事業者が利用規約を作成する際には、民法の定型約款の規定や、消費者契約法の規定に注意する必要があります。(利用規約の作り方を先に知りたい方は、「利用規約の作成方法|定めるべき主な条項と作成時の注意点」からお読みください。)
利用者とのトラブルを防ぐため、利用規約の内容に不備がないかどうかチェックしましょう。
今回は利用規約について、契約書との関係性、民法や消費者契約法に関する注意点、規定すべき主な条項などを解説します。
※この記事は、2022年6月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
利用規約とは
利用規約とは、事業者が提供するサービスの、利用に関するルールを記載したものです。
約款と同様、基本的に事業者が一方的に作成し、相手方に提示するものという特徴があります。利用者から同意を得られると、利用規約は契約の一部となり、利用者を法的に拘束します。
よく見られる利用規約の例としては、以下が挙げられます。
- ウェブサービスの利用規約
- ウェブサイトの利用規約
- アプリの利用規約
- スポーツ施設の利用規約
なぜ利用規約は必要なのか
利用規約を作成する必要があるのは、すべての利用者を同じルールで管理するためです。
利用者ごとに個別に契約交渉を行うことは、不特定多数の利用者を想定したサービスでは現実的ではありません。また、利用者ごとに異なるルールが適用される場合、サービスの運営コストが増えてしまいます。
そこで、統一的なルールを利用規約に定め、利用者にその内容を包括的に受け入れてもらうことが効果的です。利用規約を定めることで、契約締結の手続が簡易・迅速化するとともに、すべての利用者を同じルールで管理できるようになります。
利用規約と契約書・約款の違い
契約書は、契約内容のすべてを記載した法的書面です。これに対して利用規約は、利用者の同意によって契約内容の一部となる内容を記載した書面です。実務上は、利用契約書を別途作成したうえで、その中で利用規約へ同意する旨を規定します。
利用者の同意がある場合、利用規約も契約の一部として、当事者に対して法的拘束力を生じます。法的拘束力がある点は、契約書と同様です。
一方、約款は、事業者が不特定多数の者と同じ契約をする際に用いる、定型的な契約条項です。サービスの利用規約などは、基本的に約款と同様の性質を持つ書面であるといえるでしょう。(ただし、「規約」という言葉自体は幅広い意味で使われており、必ずしも「規約=約款」となるわけではないので注意が必要です。)
利用規約は事業者が一方的に変更できる場合がある
サービス内容の見直しなどに伴い、利用規約の内容を変更したい場合があると思います。その際、変更前の契約者に対して変更後の利用規約を適用できないと、同様のルールによる管理という目的が達成されません。
そこで、利用規約が「定型約款」(民法548条の2第1項)に該当する場合、一定の要件を満たせば、利用規約の変更により、利用者の同意がなくても契約内容を変更できるものとされました(民法548条の4第1項)。
定型約款に関するルールは、従来の契約実務を明文化する形で、2020年4月1日施行の改正民法により新設されたものです。
利用規約が定型約款に当たるための要件
利用規約が定型約款に該当するのは、以下の2つの要件を満たす場合です。
✅ 要件1|特定の者が不特定多数の者を対象とする取引において、利用規約を準備したこと →消費者向けのサービスに限らず、事業者向けのサービスであっても「不特定多数の者を相手方として行う取引」に該当することがあります。 ✅ 要件2|利用規約を作成すること(=取引内容の全部又は一部が画一的であること)が、双方の取引当事者にとって合理的であること →「合理的である」というのは、例えば以下のようなメリットがある場合を想定しています。 サービスを提供する側|利用規約を用いることで、迅速かつ効率的なサービス提供が可能となる サービスを利用する側|利用規約の使用で、サービス提供のコストが下がり、安価でサービスを利用できるようになる |
- 事業者が
- 不特定多数の利用者に向けて提供するサービスの利用規約
であれば、基本的には定型約款に該当すると考えてよいでしょう。
定型約款(利用規約)を契約内容とするための手続
定型約款に該当する利用規約を、契約の内容とする(=法的拘束力をもたせる)ためには、以下のいずれかの手続が必要となります(民法548条の2第1項各号)。
- 双方が、定型約款(に該当する利用規約)を契約の内容とする旨の合意をすること
- 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款(に該当する利用規約)を契約の内容とする旨を相手方に表示すること
上記のいずれかの手続が取られた場合、原則として利用規約に含まれるすべての条項につき、契約当事者間で合意があったものとみなされます。ただし後述するように、民法・消費者契約法に基づき、利用規約の条項が無効となることがあるので注意が必要です。
定型約款(利用規約)の内容を変更する場合の手続
定型約款に該当する利用規約は、以下のいずれかに該当することを条件として、事業者が利用者の同意を得ずに変更できます(民法548条の4第1項)。
✅ 内容の変更が、相手方にとって利益となるとき →変更内容が利用者にとって有利である場合は、定型約款の変更による契約変更が一律に認められます。 ✅ 内容の変更が契約の目的に反せず、かつ以下の事情に照らして合理的なものであるとき ・変更の必要性(変更する必要はあるか) ・変更後の内容の相当性(変更後の内容は理にかなっているか) ・定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無 ・その他の変更に係る事情 →変更内容が相手方にとって不利又は中立的なものである場合、上記の各事情を総合的に考慮した上で、内容変更の可否が判断されます。 |
事業者が利用規約を変更する場合、変更の効力発生時期(いつから変更後の内容が適用されるか)を定めたうえで、インターネットなどを通じて以下の事項を周知しなければなりません(同条2項)。
- 定型約款を変更する旨
- 変更後の定型約款の内容
- 変更の効力発生時期
変更が利用者にとって有利なものであった場合は、周知をしなくても効力が生じますが、不利又は中立的な内容である場合、周知をしなければ変更の効力が生じないので注意が必要です(同条3項)。
民法・消費者契約法に基づく条項の無効に要注意
以下のいずれかに該当する利用規約の条項は、民法・消費者契約法に基づき無効となってしまいます。利用規約を作成する際には、これらに該当する条項が含まれないように、全体を注意深く確認することが必要です。
- 事業者・消費者を相手方とする取引共通
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✅ 相手方の権利を制限する条項・義務を重くする条項であって、信義則に反して利用者の利益を一方的に害するもの(民法548条の2第2項、消費者契約法10条)
- 消費者を相手方とする取引のみ
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✅ 事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項
事業者に責任の有無(損害賠償責任を負うかどうか。以下同じ)を決定する権限を付与する条項
(消費者契約法8条1項1号、3号)✅ 故意又は重大な過失による事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項
事業者に責任の限度を決定する権限を付与する条項
(同項2号、4号)✅ 利用者の解除権(契約を解除する権利)を放棄させる条項
事業者に、利用者が解除権をもつかどうか(解除権の有無)を決定する権限を付与する条項
(消費者契約法8条の2)✅ 利用者が後見開始・保佐開始・補助開始の審判を受けたことのみを理由として、事業者に解除権を付与する条項(消費者契約法8条の3。ただし、利用者が事業者に対して物品・権利・サービス等を提供する場合を除く)
✅ 利用者が支払う損害賠償の額を予定した条項・違約金を定める条項のうち、事業者に生ずべき平均的な損害額を超える部分(消費者契約法9条1号)
✅ 利用者が支払う遅延損害金を定める条項のうち、未払額に対して年14.6%を超える部分(同条2号)
利用規約の作成方法|定めるべき主な条項と作成時の注意点
利用規約を作成するに当たって、定めるべき主な条項と各注意点を紹介します。ただし、利用規約の具体的な内容は、サービスの内容や提供の仕組みなどに応じて、個別に決定すべきものであることにご留意ください。
利用規約全体に同意する旨
利用規約を契約の内容に含める(法的拘束力をもたせる)ため、サービスの利用を認める前に、利用者から利用規約全体についての同意を取得する必要があります。
利用規約の前文などに加えて、別途取り交わす申込書や同意書、利用契約書などにおいても、利用規約に対する同意を明記するのが一般的です。
用語の定義
利用規約中で使う用語の定義を、条文の冒頭又は末尾にまとめて記載しておきます。
用語の定義が不正確だと、利用規約の条文が想定外の意味に解釈されてしまうおそれがあります。そのため、条文全体との整合性に注意しながら、正確に用語の定義を行うことが大切です。
サービスの具体的内容
事業者が利用者に対して提供するサービスの内容を、できる限り具体的に明記します。記載すべき事項はサービスによって異なりますが、おおむね以下の事項などを記載しておくべきでしょう。
- 提供・利用の対象となるサービスの名称・概要
- 事業者が利用者にサービスを提供するフロー
- 事業者が提供しないサービスの内容
など
サービスの利用料金に関する事項
サービスの利用料金については、利用者の関心が高い事柄なので、疑義がないように明確に記載しなければなりません。具体的には、以下の事項を記載しておきましょう。
- 利用料金の金額・計算方法
- 利用料金が発生するタイミング
- 利用料金の支払方法
- 中途解約時の利用料金の取扱い
など
なお利用料金については、サービスを案内する時に利用者に対して個別に説明するケースが多いと思われます。その際、利用規約の内容と齟齬が生じないように注意が必要です。
サービス利用時の遵守事項
サービスの利用に当たって、利用者がしてはならないこと・守るべきルールについても、利用規約に明記しておきましょう。サービスの内容に応じて、以下のような行為をできる限り具体的に列挙することが大切です。
- 他の利用者の迷惑になり得る行為
- 利用者間の公平性を害する可能性がある行為
- サービスの円滑な提供を阻害する可能性がある行為
- サービスを悪用した違法・不適切な行為
など
知的財産権の帰属
サービスを利用する中で生まれた何らかの成果物につき、特許を受ける権利や著作権などの知的財産権が発生することもあり得ます。その場合に、事業者と利用者のどちらに知的財産権が帰属するかを明記しておきましょう。
特に、利用者が制作した作品の著作権を事業者に帰属させる場合には(例:漫画投稿サイトなど)、以下の事項を定めておく必要があります。
- 作品の著作権を事業者に譲渡すること
- 譲渡の対象には、翻訳権・翻案権等、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利も含まれること(著作権法61条2項参照)
- 利用者は著作者人格権を行使しないこと(著作者人格権は譲渡不可。著作権法59条)
など
事業者都合による契約の終了に関する事項
消費者向けのサービスは、事業者の都合により提供を終了する事態も想定されます。そのため、事業者都合によるサービス終了に伴う契約の終了について、以下の事項を定めておきましょう。
- 事業者都合による契約の終了があり得る旨
- サービス終了に関する周知の方法
- サービス終了時における利用料金の取扱い
など
利用規約の変更手続
民法の定型約款の規定に従い、利用規約の変更手続を定めておくことは非常に重要です。特に、相手方に不利な内容の変更を行う際には、利用規約(定型約款)の中で変更手続が具体的かつ適切に定められているかどうかが、契約変更の有効性を判断する際の重要な考慮要素となります。
そのため、以下の事項をきちんと定めておきましょう。
- 民法の定型約款の規定(民法548条の4)に従った利用規約の変更があり得る旨
- 利用規約変更に関する周知の方法
など
契約の更新に関する事項
継続的にサービスを利用してもらう観点から、契約の更新に関する事項を定めておくことも大切です。
特にサブスクリプション型のサービスの場合は、利用者の解約申出がない限り自動更新とする旨を定めるのがよいでしょう。
秘密保持
特に事業者向けサービスの利用規約では、秘密保持に関するルールも念のため明記しておきましょう。具体的には、以下の内容を規定することが考えられます。
- 秘密情報の定義
- 第三者に対する秘密情報の開示・漏えい等を原則禁止する旨
- 第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件
- 秘密情報の目的外利用の禁止
- 契約終了時の秘密情報の破棄・返還
- 秘密情報の漏えい等が発生した際の対応
など
契約の解除
利用者の規約違反があった場合には、事業者がサービスの利用を解除できるように、契約の解除ができるケース(解除事由)を定めておきましょう。以下は解除事由の一例ですが、サービスの内容に応じて具体的に定めることが大切です。
- 利用料金を期限どおりに支払わなかったこと
- 利用上の遵守事項に違反したこと
- 秘密保持義務に違反したこと
- 反社会的勢力に該当することが判明したこと
など
損害賠償
当事者の契約違反やシステムの不具合などに起因して、当事者のいずれかに損害が発生した場合に備えて、損害賠償に関するルールも定めておきましょう。
事業者側としては、できる限り自社の責任を限定しつつ、利用者の責任を広く認める内容とすることが望ましいです。ただし、消費者向けのサービスの場合は、以下の条項が無効となってしまう点に注意しましょう。
- 事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項/事業者に責任の有無(損害賠償責任を負うかどうか。以下同じ)を決定する権限を付与する条項(消費者契約法8条1項1号、3号)
- 故意又は重大な過失による事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項/事業者に責任の有無を決定する権限を付与する条項(同項2号、4号)
- 利用者が支払う損害賠償の額を予定した条項・違約金を定める条項のうち、事業者に生ずべき平均的な損害額を超える部分(消費者契約法9条1号)
- 利用者が支払う遅延損害金を定める条項のうち、未払額に対して年14.6%を超える部分(同条2号)
反社会的勢力の排除
コンプライアンスの観点から、サービスの利用規約には反社会的勢力の排除に関する条項(反社条項)を定めるのが一般的です。具体的には、以下の事項を定めておきます。
- 当事者(役員等を含む。以下同じ)が暴力団員等に該当しないことの表明・保証
- 暴力的な言動等をしないことの表明・保証
- 相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を無催告解除できる旨
- 反社条項違反を理由に契約を解除された当事者は、相手方に対して損害賠償等を請求できない旨
- 反社条項違反を理由に契約を解除した当事者は、相手方に対して損害全額の賠償を請求できる旨
合意管轄・準拠法
サービス利用に関するトラブルが発生した場合に備えて、第一審の管轄裁判所を定めておきましょう(合意管轄)。
また、利用者が外国籍である場合に備えて、準拠法も明記しておきましょう。事業者が日本企業の場合は、日本法を準拠法としておけば基本的に問題ありません。
この記事のまとめ
利用規約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
参考文献
消費者庁「第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)」
滝川宜信著『リーダーを目指す人のための実践企業法務入門〔全訂版〕』民事法研究会、2018年
独立行政法人中小企業基盤整備機構「民法改正による新制度(第1回)- 定型約款」
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